初めて真剣に犬を飼おうと思った日
それは中断していた朝のウォーキングを再開した日のこと。
Podcastを聞きながらいつものルートを黙々と歩いていた私の目の前に、ぴょんと飛び出してきたワンコが1匹。
「どこから出てきたんだ、この子?」
あたりは運河と畑しかないし、前後左右を見渡しても誰もいない。
その瞬間、脳裏に二つのことが浮んだ。
一つはクラウドワークスの先輩でメンターであるさとうれいこさんの記事。
そしてもう一つは、昨夜見た犬用車椅子に喜ぶワンコの動画。
そう、このワンコ、首輪がなかった。
そして怪我をしているのか、左後足は筋トレのファイヤーハイランドのように横に持ち上がったままだった。
なんだろう、この犬ネタが続く偶然・・・。
そう思いながらも歩き続けた。
ただ、あまりに可愛かったので、1枚だけ写真を撮って。
それが間違いだったのかもしれない。
黙々とウォーキングを続ける私にワンコはついてきた。
それもぴったり並走して。
最初はそのうちいなくなるだろうと無視していたのだが、どこまでも、どこまでもついてくる。
小型犬、三本足で人間のペースに追いつくのは辛いだろうに。
居心地の悪さを感じながらも歩き続けた。
そうしてやっとワンコの姿が見えなくなったときは、ちょっとホッとした。
ところが。
いつものウォーキングの道を折り返して運河の対岸を歩き始めた時。
さっきまで歩いていた反対側の道路にいるワンコと目が合ってしまった。
どれだけ視力があるか分からないが、ワンコはじーっとこちらを見つめた。
そして運河のあっち側で、こっち側の私のペースに並走を始めたのだ。
とっとこ、とっとこ三本足で。
嬉しそうに(私にはそう見えた)並走して両岸を繋ぐ橋まで来たとき、当然のようにワンコは橋を渡って私の脚元にやってきた。
「な・・・懐かれた?どうしよう。」
私はかたくなにワンコを見まいとした。
不自然に少しナナメ上を向きながらも無心を装ってウォーキングを続ける。
脚元にザッ、ザツ、とワンコが砂利を蹴る音を聞きながら・・・。
だんだん私は追いつめられた気分になってきた。
神経は脚元に集中、その割に脳天や背筋がざわざわ震えている。
脚の悪い叔父がいるので、叔父さんに何かあってそのメッセージなのか、とさえ思った。
そのぐらい、ワンコは私につかず離れず、絶妙な距離でそばにいる。
私が速足で歩くと追いついてくるし、止まって追い越すと振り返る。
傍から見たら、誰もが間違いなくうちの子だと思っただろう。
それぐらい、私といるのが自然だった。
頭の中を、ナウシカの音楽が流れだした。
「ラ、ランララ、ランランラン、ラ、ランラララー♬」
あのときのナウシカは王蟲の子供を探す大人から逃げていたが、私は王蟲の子に追われている気分だった。
「来ないでーーーーーー!」
5km近くあるウォーキングコースの終盤、もうすぐ我が家という段になってもワンコがついてきたとき、私は半分泣いていた。
飼えない・・・飼えないよ・・・。
だって、うちの旦那、犬猫アレルギーなんだもん。
もし家までついてきてしまったら・・・。
獣医に連れていくか、捨て犬保護のNPOを探すか、保健所に連絡するか。
それとも、うちで飼うか。
いたたまれなくなった私は、とうとう旦那の携帯電話に電話をけた。
完全に脳内はパニック、説明もしどろもどろ。
震える声で電話してきた私の尋常ではない様子に、旦那は最初、誰か身内が事故にでもあったのかと思ったらしい。
ワンコの話だと理解した瞬間に怒られた💦
そうして旦那と話をしている間、すれ違った散歩中の大型犬に怯えたのか、ワンコはその場にとどまった。
こちらを見てはいるが、寄ってこない。
「今しかない!」
私は後ろを振り返らず、ダッシュで家に駆け込んだ。
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「もう一度会ったら、私どうするかわらかないよ!」
そう旦那に宣言しながら、翌日同じコースにウォーキングに行った。
ワンコの姿はどこにもなかった。
昼過ぎに楽しげな声で電話をかけてきた旦那がこう聞いた。
「恋人とは会えたかい?」
そうか、懐かれたと思っていたけれど、恋をしたのは私の方だったのか。
恋しちゃったけど、実らせることができないから、あんなに困ったんだ。
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