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2018年 中高生部門 最優秀賞『チェルノブイリの祈り―未来の物語』

受賞者
宮田 葵さん 高1

読んだ本
『チェルノブイリの祈り―未来の物語』 スベトラーナ・アレクシェービッチ作 松本妙子訳 岩波書店

作品
「知る」ことで未来を築く ――『チェルノブイリの祈り』を読んで――

「科学技術がもたらした大惨事以上のもの」、「戦争に輪をかけた戦争」、「宇宙的な大惨事」、「死と結びついたなにか」、「第三次世界大戦」。これらはすべて、私の読んだ『チェルノブイリの祈り』の中に書かれているチェルノブイリの原発事故を表した言葉である。この本は、事故の悲惨さや二度と同じことを繰り返してはならないという思いを伝えるために書かれた。私は、チェルノブイリで原発事故が起きたことは知っていたが、この本を読んで初めて事故の凄惨さについて知った。
 1986年4月26日、ソ連(現・ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所でこの爆発事故は起こった。約11万人の近隣住民が強制避難させられ、欧州各地で汚染された食物が大量に廃棄処分となり、全世界で放射能が観測された。また、世界保健機構(WHO)によると、事故処理作業をした旧ソ連作業員と高濃度汚染地域の住民の死者は計9000人と推計されている。これらのことは、その凄惨さを克明に物語っている。しかし、この本にはこういった統計学的な事実が書かれている訳ではない。そこに実際に生きていた人々がそれぞれの立場で、何が起きたのかを感情を交えて語った「生の声」が記されているのだ。この事故は多くの人に計り知れないほどの苦しみ、悲しみ、絶望を与えた。
 人々の暮らしを豊かにするために開発されたはずの原子力発電所。しかし、ひとたび事故が起きれば、想像を絶する苦しみを人々に与える悪魔へと姿を変えてしまう。被害を受けた方は、こんなに辛いことなど思い出したくもないはずだ。それでも伝えなくてはならないという思いが強かったからこそ、こうして語ってくれたに違いない。そうであるなら、 私たちはこの凄惨な事故の描写に目を背けるのではなく、それを語ってくれた方々の思いに応えるためにも、チェルノブイリで実際に何が起きたのかを「知る」よう努めていくべきではないか。
 こうした、「知る」ことの大切さを世界中に訴えた人物の一人に、ノーベル平和賞を受賞した女性人権運動家、マララ•ユスフザイさんがいる。彼女は、「本とペンは世界で最も強力な武器」という言葉を用いて、教育の必要性を強く訴えた。人は教育を通して、様々なことを知っていく。「知る」ということは各人の視野を広げ、物事を多様な視点から考えることができるようにしてくれる。だから、何か問題に直面したとき、私たちは適切な判断を下すことができるのである。それは、人が未来を築いていくために必要な力と言える。
「知る」ということ。それはあらゆることの源泉である。私が読んだ『チェルノブイリの祈り』はもちろん、様々な本を通して、物事の細部にまで目を向けていくことも、「知る」ということに他ならない。この本を通して私は、「知る」ことを重ねることが、やがてこうした事故をはじめとした諸問題の本質を見極める力となるとあらためて痛感した。
「知る」ことがいかに大切なのか、それはこの本が伝えるように、チェルノブイリ原発事故の被害が「知らない」ということで拡大してしまったことからも明らかである。事故が起きた当時、ソ連政府は、放射能漏れやその危険性について国民にほとんど知らせていなかった。そのため、発電所の火事の青い炎をひと目見ようとわざわざ見物に訪れた人がいた。また、事故処理の現場でかぶっていたパイロット帽を、欲しがった幼い息子に与えてしまい、その後息子に脳浮腫の診断が下されたケースもあったのだという。この人たちが放射能の危険性をもう少し理解していたなら……と思わずにはいられない!
 フクシマの原発事故の際もほとんどの日本人は、自分たちがいかに「知らない」かということを痛感したはずだ。原発の危険性、廃棄物処理の問題、放射能の性質など、多くの人にとって「知らない」こと、もしくは知識は持っていたとしても、身近に自分たちが直面している問題だとは感じていないことだらけであった。そこから私たちは何かを学ぶことができたのだろうか。次々と原発を再稼働させようとする現実は、私たちがすでにフクシマの悲劇を忘れてしまっているようにさえ映る。
「知る」ことで未来は変わってくる。それに気づいた私は、立ち止まらずにこれからも過去に起きたことや、今起きていることに注意深く目を向けていこうと思う。今回、私は本を通してあの凄惨な事故について知ることができたが、もちろん本でなくても構わない。 興味や関心を持って、様々なことを知ろうとする姿勢が肝心なのである。こうして知り得たことが、将来、自分の体験を通して互いに結びつけられ、新しい考えを生み出す力や、予期せぬ事態に対応する力となっていく。これは、若い世代である中高生の私たちだからこそできることなのかもしれない。まさに、これからの未来は、私たち自身がこうして得られた「力」で築いていかなければならないのである。二度と同じような経験をする人が出ないでほしいと願う「チェルノブイリの祈り」が全世界に届くことを共に信じながら。

受賞のことば
 
この度はこのような素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございます。最優秀賞をいただけるとは思っていなかったので、驚くと共に喜びを感じています。今回、読書探偵作文コンクールに参加することで、翻訳書を読むことが多様な世界を知る第一歩になることを実感しました。この貴重な経験を、未来を築く力へと変えていきたいと思います。

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※応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局

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