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2015年 小学生部門 最優秀賞『アベルの島』

受賞者
原口徠未さん(小4)

読んだ本
『アベルの島』 ウィリアム・スタイグ作 麻生九美訳 評論社

作品
強い思いを持ちつづけたアベル
原口徠未

「とうとう、ドアが開く音がしました。それから、はっと息をのむ音。そして、ひめい。」
 みなさんは、この文章を読んで、どんな場面を想像しますか。まるで、ホラー映画でおばけが出てきたような場面みたいではありませんか。
 私は、この場面を読んだとき、よろこびとうれしさと、おどろきと、とにかく幸せな気持ちでいっぱいになりました。なぜなら、一年間たった一人で無人島でくらし、そこから脱出してきた主人公、アベラード・ハッサム・ディ・キリコ・フリントが、愛する奥さんと再会する感動の場面だからです。
 この本の作者のウィリアムスタイグさんのみりょくは、表現の面白さです。つらいことは楽しく、幸せなことはおそろしいことのように、おおげさに書いて楽しませてくれます。
 この物語のはじまりは、不幸の連続です。
 お金持ちで一度も働いたことのない貴族ネズミのアベルが、ピクニックの途中、嵐にまきこまれ川に落ちて流され、無人島にたどり着きます。島でアベルは、一生懸命脱出の方法を考えますが、すべて失敗します。
 しかし、アベルの生活はつらく、苦しいことだけではありません。たとえば、ときどき家族や友達のことを思い出して、木や石や土などで、すばらしいできばえの彫刻を作っていました。また、『クマの国』という長いながい物語の本を一章づつ大切に読んでいました。それに、毎日、懐中時計のネジを回して、「コチコチ」というすてきな音を聞いてうっとりしたりしていました。
 さんざんな目にあって、一人ぼっちで無人島でくらすアベルは、とてもかわいそうなはずなのに、私は物語を読んでいて、無人島のくらしをしてみたいと思ってしまいました。
 しかし、アベルもつらく悲しいときがあります。そんなときアベルは、星にはなしかけます。
「ぼく、どうしたらいいんだろう?」すると星は、「思ったようにやれば、それでいいのさ」と、答えます。その言葉は、アベルを、勇気付けてくれました。アベルは、愛する奥さんのもとに絶対帰るという強い思いを持ちつづけ、ついに脱出に成功することができたのです。
 私もアベルと同じように、強い思いを持って願いをかなえたことがあります。それは、四年生の徒競走で一位をとったことです。これまで私は一位をとったことが一度もありませんでした。いつもいつもくやしい気持ちでした。だから今年は、一位をとるためにひみつのとっくんをしました。それは、昼休み一人で、五十メートル走のラインにそって走ることです。しかし、ただ走るのではありません。手や足の動きに工夫をするのです。手は、後ろにふりすぎないこと。足は、つまさきだけで、すばやく走ることです。でも始めはなかなかうまく走れませんでした。そんなとき、もう少し工夫すればできるようになると信じて、毎日練習をつづけました。走ることはあまりとくいではなかったけれど、どうしたらはやく走れるかを考えるのが楽しくて、練習はまったくつらくはなかったです。はやくはしって一位をとれたことを想像すると、わくわくしてげんきがでてきました。一位でゴールしたとき、もう、むねが「ドキドキ」して、いままであじわったことのないぐらいうれしかったです。
 願いをかなえるためには、強い思いが必要です。強い思いがあれば努力しつづけることができます。
 私も、スタイグさんのように子どもたちに、絶対あきらめない強い思いを持つこと、夢をかなえるための工夫を楽しむ物語を書いてみたいです。その夢をかなえるために私は、本をたくさん読んで、物語を書きつづけたいです。

アマンダの奇跡
原口徠未

 アマンダは、アベルが、こう水で流されてから一週間、ベッドで泣き暮らしました。アマンダは、一週間も泣いたので、その間飲まず食わずで今にも死にそうでした。そして、アマンダはふと、我にかえりました。
 まず、お風呂に入ることにしました。そして、部屋にそうじきをかけました。その次に、歯をみがいて、顔を洗って、すてきなドレスをきました。朝食は、自分でつくった温かいコーヒーに、ホットドック、ポテトサラダを食べました。食べ終わったら、帽子をかぶり、上等なバッグを持ち、町へお散歩に、行きました。
 アマンダは、外のしんせんな空気をいっぱいすいました。すると、心が柔らかくなりました。
 家に帰ったアマンダは、昼ごはんのじゅんびをします。昼ごはんは、ふわふわのオムライスを食べました。こうしてアマンダは、アベルがいなくても、いつものように、ごはんをつくって、そうじをして、毎日さん歩に出かけることができました。
 アマンダは、毎晩アベルの夢をみました。その夢は、遊園地に行ったり、森にピクニックに出かける夢です。アマンダは、夢の中では楽しいのですが、朝起きるとさびしくなります。でも、アベルがこころの中にいてくれるので、気持ちを切り替えて、きちんと生活を送るのです。
 アマンダは、一年間、毎日、そうじなどをする他にも、本を読んでいました。アマンダの読んでる本は、本屋さんで買った『ねこの島』です。物語のないようは、一匹の野良ねこが洪水でながされ、無人島にたどりつき、一匹で生きていくという物語です。アマンダは少しづつ読み続けます。ねこが、無人島についた場面を読んだ時、アマンダは、「アベルももしかしたら無人島についたかもしれない。」と思いました。ねこがどうなるか気になりましたが、がまんしてすこしづつ読みました。ねこは、一人ぼっちで可哀想なときもありました。 アマンダは、ねこが帰ってこられると信じたい気持ちと、そんなにうまくいくはずないという気持ちがありました。読むのが辛くなって、一度読むのをやめてしまったときがありました。けれど、最後にハッピーエンドになるかもしれないという気持ちが強くなったので、また読みつづけました。
 そして、ついによみ終わりました。ねこは、無事に家族のもとに帰ってこられました。アマンダは、ハッピーエンドでうれしくなりました。それを公園で友だちにはなしました。すると、友だちは「アベルもそうなるといいね」と言ってくれました。アマンダは心から、アベルが帰ってくるといいなと思いました。
 そうしたら、その夜アベルが帰ってきたのです。アマンダは、うれしくて「わ~!」とさけんでしまいました。信じられません。奇跡中の奇跡です。そして、アベルは一年間の無人島の話をしました。アマンダは、それと似ている『ねこの島』という本を読んでいたことを話しました。二人は目を丸くして、大変おどろきました。でも、大変うれしかったのです。
 次の日から、またいつものくらしにもどりました。なぜなら、なんでもない日が一番幸せだからです。

カブ森の虫の王さま
原口徠未

 ある夏の朝。日がのぼり始め、まだうす暗く、すずしい風がふいています。
 カブ森は、コナラの木が多く生え、カブトムシがたくさん住んでいます。豊かなカブ森の中心には、コナラの木に囲まれた、「コナラ広場」がありました。
 切りかぶの上で、カブトムシの王さまは、良い次の王が決まるだろうかの心配をしています。
「次の王は、しっかりしているだろうか。」ざわざわしている、いろいろな色のこん虫たちを見ながらそう思いました。
 次の王は、七色に色わけされたこん虫の中の、リーダーの中から決まります。
 赤のリーダーは、ホシベニカミキリです。ホシベニカミキリは、すぐにおこるので、よくちがうこん虫のリーダーとけんかをします。
 やさしいだいだい色のリーダー、テイオウゼミは、ホシベニカミキリのけんかを止めようとします。
 黄色のリーダー、ヨナクニサンは、弱虫なので、ちょっとしたことですぐ泣きます。
 緑のリーダー、コノハムシは、はずかしがりやなので、ときどきしか、姿を見せません。
 青リーダー、メネウスモルフォチョウは、羽がきれいなことをいつも自まんしています。
 アオハダトンボは、あいいろのリーダーで、メネウスモルフォチョウとちがい、きれいなあいいろの自分の体を自まんしません。しかも、しっかり者です。
 むらさきリーダー、オオセンチコガネは、あわてんぼうなので、今日来る予定なのに、昨日来てしまいました。
 みんなせいかくはちがうけれど、今日にかぎっては、きんちょうしながらも、自分の体や羽を大きく見せようとして、羽をふるえて見せたり、体をピカピカにしたりちゃんとしました。
 みんな、次のリーダーは、ぜったい自分になると信じていたので、赤リーダーのホシベニカミキリが、「次の王は、ぜったい自分だ」とはっきりと言うのを聞いたリーダーたちは、つぎつぎと言い争い、最後にはけんかになってしまいました。
 あきれたカブトムシの王さまは、けんかを止めようとしました。すると、急に辺りが静かになて、においも変ったような気がしました。不思議に思い、空を見上げると、大変なことに、雨だったのです。
 こん虫は雨がきらいなので、急いでカブトムシの王さまの、木の穴の家にかけこみました。しかし、けんかをしていたリーダーたちが、にげおくれてしまい、洪水になった雨に流されてしまいました。木の穴まで水が入ってきたので、カブトムシの王さまとたくさんの虫達も、いっしょに流されてしまいました。
 コナラ広場を越え、カブ森も越え、さらに流され、さっぱりわからなくなりました。そして、どんどん虫たちは力が無くなり、気を失ってしまいました。虫達が気づいたころには、先に目をさました、リーダーたちが力を合わせて、かん病してくれていました。ところが、みんな生きているのがきせきなぐらいで、このままではもとのところにもどれません。しかたなく、近くにあった太い木の根元に集まってねむることにしました。けれど、川の流れる音はうるさいし、寒くて、こわくて、なかなかねむれません。だから、石と石をなりあわせてきつつきをよび、軽くて丈夫そうな枝に穴を開けてもらいました。虫達はそこで、コノハムシをふとんにして、気持ちよくねむることができました。
 朝になりました。元いた場所とはちがっていました。虫達は、木の枝の穴から出て、辺りを見わたしました。「コナラの木がたくさんある…切りかぶも…」「あっ」虫達はいっせいに声をあげました。そして、喜び合いました。そうです。ここはカブ森のコナラ広場だったのです。もどってきました。カブトムシの王さまは、なぜもどってこられたのか考えてみました。答えは一つしかありません。夜にまた雨がふり、虫達が休んでいた木が流されてここまできたのです。もう、みんな、喜びやうれしさなどで、次の王さまなんかどうでもいいように思います。王さまはみんなが仲よく、協力し合えるようになったので、王をきめるのをやめることにしました。
 雨が上がった空には、にじがうれしそうにかがやいています。

(注:原口徠未さんは本の感想文のほかに、その本をもとに創作した物語をふたつ応募されました。選考委員の協議の結果、感想文だけでも最優秀賞に値するものの、物語も完成度が高く、3編あわせてひとつの作品になっていることから、今回は特別に3編まとめての受賞となりました。――読書探偵作文コンクール事務局)

受賞のことば
 私の作品が、最優秀賞をもらえるなんて思ってもいなかったので、とてもうれしいです。
 私は、『アベルの島』を読みながらアマンダが生活する姿を想像していました。そして、楽しみながらアマンダの物語を完成させました。
 この本を作ったウィリアム・スタイグさんと、麻生九美さんに、心から感謝したいと思います。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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