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2017年 小学生部門 最優秀賞『はるかな国の兄弟』

受賞者
大河内 悠多さん(小5)

読んだ本
『はるかな国の兄弟』 アストリッド・リンドグレーン作 大塚勇三訳 岩波書店

作品
「生きるということ~はるかな国の兄弟~」
 大河内 悠多
 
 この本には驚いた。なぜなら、主人公たちはこの世で不幸のまま死に、死んだ先の世界ナンギャラでも不幸になって死んでしまうからだ。
 あらすじは、次の通りだ。主人公のカール・レヨンイェッタは病気で足が悪く、毎日寝ていた。そして、自分は足が曲がっているので美しくないと思っていた。兄のヨナタンは心が強く、またお話の王子様のように美しく輝いていた。ヨナタンは弟のカールがもうじき死ぬのを知っていた。彼は、死ぬのをとてもこわがっているカールに死んでもナンギャラという楽しい冒険の世界があることを教え、安心させた。ところが、ヨナタンは家が火事になったときカールを救い出して死んだ。その後、カールも死んだ。カールがナンギャラに来てみると、兄は先に着いていた。ナンギャラでのカールは、生き生きしていて足も曲がっておらず病気も治っていた。ヨナタンもさらに美しくなっていた。しかし、平和なはずのナンギャラは半分が悪に支配されていた。そこで、苦しんでいる人々を助けるため、二人は戦った。そして、はげしい戦いのすえ、敵を敗った。その後、平和がくると思われたのに、ヨナタンは龍のカトラが出す「死の炎」にあたって死ぬことが分かった。カールが悲しんでいるのを見たヨナタンは死んだらナンギリマという楽しい世界に行けることを教えてくれた。カールは、ヨナタンをおぶって近くにあったがけから飛び降りた。カールには、ナンギリマの朝の光が見えた。物語はここで終わっている。
 ぼくはまだ死んだことがない。死ぬということは、よく分からない。しかし、死ぬ方法だけはそうぞうできる。例えば、高い所から飛び降りたり、電車に飛び込んだりする人のニュースを見ている。しかし、ぼくはそのどれもこわいのでやりたくない。それではなぜ二人は死ぬことを選んだのだろうか。それは、二人とも死にさえすれば不幸な今から逃れて幸せになれると思い込んでいたからだろう。死後の世界に行けば、悩みも苦しみも争いもないので平和に暮らせると思っていたのだ。二人が最初の世界でナンギャラに行くことを夢見ていたのも同じだ。カールがあまりにもみじめで不幸だったから、死んでナンギャラに行きさえすればすべてが解決すると思い込んだのだ。しかし、そのナンギャラだって、半分は悪が支配する世界であり、平和ではなかった。冒険は確かにできたが、冒険というよりもいつ殺されるか分からない苦しい戦いの連続だった。二人はナンギリマを目指して自殺したが、ナンギリマが完全に幸福になれる場所かどうかは分からない。ぼくの予想では、ナンギリマにもきっと何か不幸の元になることがあって、二人は幸福になるためにまた戦わなければならないと思う。結局今の不幸から逃げようとして死んだところで、死後の世界に幸福が約束されているわけではないのだ。それどころか、今の世界よりずっと不幸になることだって十分に考えられるだろう。
 もしもそうであるならば、死ぬことによって今の世界から逃げてはいけないのではないだろうか。幸福になるためには今のこの世界でだって戦わなければならないのだから同じだ。それに、親からもらった体を自殺することによってむざんな姿にしたくはないし、自殺することはこわくてたまらない。だから、ぼくはどんなことがあってもこの世で生きることが大切だと思う。
 この本を書いたリンドグレーンは子供が好きで、子供を楽しませる本をたくさん書いたという。それなのに、このように子供が事故や病気で死に、さらに自殺までする話を書くのは最初はおかしいと思った。しかし、この話を読み返してみて、ぼくは考えを改めた。きっとリンドグレーンは、この世が辛いとか自分が不幸だと感じても決して死んではいけないと言いたかったのではないだろうか。ぼくはこれを冒険の物語だと思って読んでいたが、決してそれだけの本ではなかった。生きるということを深く考えさせられた。

受賞のことば
 ぼくはこの本を最初に読んだとき普通の冒険ものだと思いました。しかし、2回目に読んでみるとただの冒険物語ではなく、暗く不思議な気分に満ちていることに気がつきました。ぼくはそれが気になったので、どうしてこのような本ができたのか理由を考え続け、それを読書感想文に書きました。それが最優秀賞に選ばれたことを知り、大変うれしいです。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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