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2015年 小学生部門 最優秀賞『トムは真夜中の庭で』『秘密の花園』『不思議の国のアリス』

受賞者
野上日菜子さん(小6)

読んだ本
『トムは真夜中の庭で』 フィリパ・ピアス作 高杉一郎訳 岩波書店
『秘密の花園』 バーネット作 土屋京子訳 光文社
『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル作 柳瀬尚紀訳 集英社

作品
二つの庭

「真夜中の庭」のトムにとっての庭は弟と一緒に夏休みを過ごせない悔しさをまぎらわせてくれるものであった。ところがその庭は子供の頃に両親を早くに失くした家主のバーソロミュー夫人のこ独をいやしてくれる場所であった。二人をつなぐ庭は二人が毎晩見る夢の中にある。片やメアリーが発見する「秘密の花園」の庭は実際に存在する。十年以上も閉ざされていた庭を子供たちがよみがえらせるのである。この二つの物語に共通するのは子供の純真な気持ちである。彼らは友情や家族愛を求めている。一直線に心のおもむくままに自分の楽しみに向かって進んでいく態度である。彼らは毎日退屈で絶望していたが、庭のおかげで、生きていく希望が見え始める。
 しかし主人公たちを取り巻く世界は正反対である。「真夜中の庭」では、それはトムとハティ(バーソロミュー夫人)の二人で完結している、丸く内側に閉ざされた世界である。庭には子どものハティが引き取られたメルバン家の人々や園丁、女中などもいるが、ハティ以外はトムの存在に気づかない。「秘密の花園」は逆に庭が伯父さんや周囲の使用人たちにも明るい影響を与える、大きく外に開かれている世界である。トムは両親の言いつけを聞く、素直な子であった。だから一人で叔母さん夫婦の家に泊まることを承諾したのだ。この素直さが彼を完成されたすばらしい庭へと導く。それに比べると、メアリーも従兄のコリンも、両親に愛された記憶がないため、回りの大人に反抗することが好きな存在である。よって、彼らが自分たちで努力して生き返らせようとする荒れた庭は、必然的に彼らを取り囲む大人たちを巻き込むことになる。「真夜中の庭」で流れる時間はある意味で残酷であり、登場人物が喜びや悲しみを共有しながらゆっくりと時がすぎていく「秘密の花園」とは大違いである。人は自分の意志に関係なく成長していく。いつまでも子供の時代に留まっていることはできない。夢の中の庭では、時間が不規則に変化し、トムはハティが自分の目の前で毎日だんだんと大人になっていくことに気づいているが、それをハティに打ち明けることができない。お話の最後でトムは夢の庭が見つからなくなり、現実の世界に押し戻される。六才のトムと年老いたハティがお互いを認め合い、抱き合う場面は、感動的であるよりも、怖い感じがする。
 アリスがうさぎの穴に落ちて、ネズミが通れるほどの小さな扉からのぞいた庭は、見たこともない美しい庭だった。だから私の庭も、三月うさぎや帽子屋といっしょにお茶をのんだり、ハートの女王とおにごっこをしたりする庭でありたい。そしてだれも私のことを起こさないでほしい。 以上 

受賞のことば
 すばらしい賞をいただいて、ただ驚いています。『トムは真夜中の庭で』も『秘密の花園』も、主人公たちと喜んだり悲しんだりしながら、ページをめくっていきました。同じように庭をめぐるおはなしでも両方とも楽しんで読むことができたのに、ずいぶんと風景がちがうとも思いました。それを自分で考えて、行ったり来たりしながらまとめることができました。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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