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2018年 小学生部門 最優秀賞『床下の小人たち』『ニルスのふしぎな旅』

受賞者
八木 遼乃輔さん (小5)

読んだ本
『床下の小人たち』メアリー・ノートン作 林容吉訳 岩波書店
『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーフ作 山室静訳 講談社

作品
「ニルスとアリエッティ」
 八木 遼乃輔

 ニルスの視点は上空から地上を見下す視点である。いたずらっ子のニルスは家畜をいじめてばかりいたので妖精のトムテに魔法をかけられ、小人にされる。ここから彼の冒険が始まる。おかげでガチョウのモルテンの背中に乗って上空から自分がふだんくらしている場所を眺めることができるようになった。ガンの群れにも出会った。このあたりから、上から下を見ることが多くなり、たくさんの動物と話すことになる。その中には悪賢い動物もいた。特にキツネのずる公はガンを食べようとして色々なわなをしかける。ニルスは助けようとするが、自分自身が小人なので、力がなく、かなわない。それでもあきらめずに知えを使い、なんとか友達になったガンを救うことができた。彼は自信がついた。実はこうやって危機に立ち向かっていくうちに、人生経験を積み、また空を飛びながら旅をすることで、ニルスの視点は広がっていき、自分が行った昔のおろかな行いを反省して、人間として成長していく。たとえば、スモーランドの北部のあれ地にある農家でめウシのおかげでねる場所を確保できたとき、ヨルバイザーのさとう工場で一緒だったオーサとマッツ兄弟の小屋にいたずらをして火をつけたことを後悔して、できれば彼らに心からおわびをしたいと考える。さらに、その農場では一人ぐらしで病気のおばあさんが死んでいくのをぐう然見かける。とてもこわかった。けれども、おばあさんが一人ぼっちでさびしく一生を終えたのをめウシから聞いて、考えを変え、彼女をできるだけなぐさめてやろうと讃美歌の本を出して小さい声で歌ったのです。そして彼は自分の両親のことを思い出し、彼らにめいわくばかりかけてきたことを反省した。スカンセン公園では、キツネのずる公もつかまって飼われていた。彼はニルスたちにめいわくなことばかりしてきた。それでもネズミ退治のためにキツネを使う計画を聞いたニルスはキツネに訳を話して、島に行く方がキツネのためになると説得したのだ。
 一方、小人のアリエッティの家族は床下でくらしている。床下に住むアリエッティにとって、彼女の視点は下から上を見上げるものだ。アリエッティの家族は小人の生活に必要な物を地上にいる人間の家から持ってきている。上に住む人間とは自分達の生活必じゅ品を借りてくる存在であり、絶対に関係をもってはいけない禁断の存在なのだ。人間に見つかったら、住み場所を変えなければならない。さほど人間をおそれている彼女の視点はきょうふの視点とも言える。このお話は子供から大人への成長物語ではないが、アリエッティには自分の両親や家の危機を自分なりに救おうとする家族愛がある。両親の言いつけにも関わらず、病気療養のために上の家にやってきた男の子と友達になるのも、そのためだ。その男の子からアリエッティは小人の家族用の家具を提供してもらったが、逆にそれがあだになり、人間に見つかってしまう。とうとう、長年住んでいた地下から引っこすはめになった。しかも彼女たちはネズミとり屋にけむりを吹きこまれいぶし出されてしまい、間一ぱつのところをこの物語の語り手であるメイおばさんの弟の機転に救われて、あやうくにげ出したのだ。
 両親の言うことを聞かない、やんちゃぼうずのニルスの物語がハッピーエンドに終わったのと比べると、両親に協力して自分達のくらしをより楽しいものにしようと努力したアリエッティの物語は反対の結果を招いたわけだ。それでもアリエッティのお話がぼくに暗い感じを与えなかったのはなぜでしょうか。それはこの語り手であるメイおばさんのちょっと人をつきはなしたような、それでいてユーモアを交えた語り口調である。例えば、アリエッティの家族がどうやって次の住まいと予定していたアナグマの巣への道が分かったかたずねられると、「ガス管のおかげさ。管を埋めるとき、ほりだした土がちゃんとおさまらないで、そこだけ地面がちがって見えるもん」といった具合である。きっとアリエッティ一家は新しい住まいで、本能のまかせるままに、借りぐらしを楽しんでいるにちがいない。

受賞のことば
 入選することができて、とてもうれしい。予想外の結果で今も驚いています。ニルスとアリエッティのはなしは、小人の冒険とふだんの生活を書いたものでも結果は全然ちがう。でも、その違いを比べることで、ニルスとアリエッティの本を見る視点が変わり、別の意味でおもしろさを発見できた。気になったところは読み返してみる。すると頭の中で映像のように思い出せるのはとても楽しい。

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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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