あの「悪夢」をみたから、あの「過去」と別れます

夢をみた、ブルーな夢……

何故か仕事仲間の佐藤君に誘われてラグビー部に入ったボクは高校2年生。
入部3日目のこと。
その日の2年生部員は軽いフリー練習の日と聞いていた、はず。
ちんたらと顔を出し、後輩にむけ教えられた決まった挨拶を、、、言えなかった。
佐藤君は、ちゃんと覚えなくっちゃと言って「“ザス”だよ」と教えてくれた。
集合がかけられ、監督が本日の練習試合の教訓を話はじめる。
え、今日はフリー練習じゃないの?と思いながら黙っていた。
集合した部員の周辺を続々と応援の生徒が集まる。
100人、200人、えっ1000人…とどまることを知らない。
全国トップクラスの強豪校だったらしい。
ボクは試合用のユニフォームを持ってこなかったことを気にしていた。
カバンのなかには3日前の練習着が入っていた。
それを佐藤君に告げると、佐藤君はカバンを覗き込み臭いと言い、監督に伝えた。
ボクは監督に呼ばれた。
監督が喋るよりさきにボクは「自分はやる気がないようです、なので辞めます」と伝えた。
監督は輪をかけるように「辞めてどうするんだ」と言い、責任感がどうとか人間関係どうとか、ここでの踏ん張りが人生を強いものにするんだ、などと言いながら、「すぐに辞めるオマエのようなヤツは人間失格だ」と言った……

目が醒めたボクはリアルな過去、40数年まえの高校1年の夏を思い出した。
小学生のころ「われら青春」とかを観ていたボクは、多分その影響というよりそうした「ノリ」でラグビー部に入った。
一旦やり始めると手を抜かずに倒れるまでやる性格だったらしい。そんなふうに部活をやっていた。
5ヶ月ほどたった雨の日の練習。タックルされ倒れグランドのドロ水飲みながら、「いったい何をやっているのだろう」と疑問を感じた。一旦糸が切れるともう戻れない。オールオアナッシングなヤツだった。
日体大卒イケメン新任教師のラグビー部コーチに「辞める」と伝えた。
熱血コーチは、辞めるなと引き止め、責任感とかチームワークとか、仲間とか、友情とか、青春とか、人生とか、1時間にわたり引き止め説教をした。ボクは、これは「われら青春」でみた場面だよな、とボンヤリ思っていた。ドラマのなかでシンドイから辞めるカッコ悪いキャラが今のボクなんだな?それでもボクは「辞めます」と言った。一旦切れた糸は繋がらない。熱血コーチは最後に「オマエのようなヤツは人間失格だ、ロクな人生をおくれないだろう」と言い放った。
もしかたら糸が切れたのは、この熱血コーチが嫌いだったのかもしれないと思った。
その後は、「あっという間にラグビー部を辞めたヤツ」という肩書がつけられ、ラグビー部を続けたヤツに会う度に言われた。言われる度にボクの心に深く刻み込まれた。
そして何より、人間失格というレッテルがトラウマとなって遺った。
もう忘れていたが、未だに夢にみるんだ、と思った。深層心理とは、げに恐ろし。

夢には続きがある。
夢のなかの監督は、高校時代のリアルな熱血コーチと同じようにボクに言葉を叩きつけた。
夢のなかのボクは高校二年生だけど、頭脳が今のワタシのコナン状態だった。
リアル過去と違って、夢のなかのボクは、監督に語っていた。

あなた、自分がどういう人間なのか自覚がありますか? どういう人間なら17歳の少年に「人間失格」と言えるんですか? ラグビーという一つのスポーツを続ける続けないにどれほどの意味があるとお考えですか? 意味があると信じる少年には意味があるでしょう。しかしボクには意味を見いだせない。あなたにとっては重大な意味があり、自分のチームの選手という一つの駒がかけるのは問題だと思っているでしょう。でもそれはあなたの価値観であって、決してボクに押し付けるものではないでしょ。しかも現実にラグビーを続けたメンバーの40数年後の現在をあなたは知ってますか? そして辞めたボクの人生をあなたは知ってるんですか? ボクはラグビー部は辞めたけどそれほど酷い人生を送ってませんよ。ラグビーの以外のいろいろなことに意味を見出しました。たしかに身体的な持久力はなくチームワークが苦手で自分勝手な部分はあるけど、少なくとも、あなたのように17歳の少年をつかまえて「人間失格」と言い放つような愚かな大人にはなっていません。17歳の少年が何か伝えようとするなら、ちゃんと話を聴きます。
そしてボクは、まだ「生きる」という糸を切らずにいます。あなたはきっとシンドさと向き合うしかない病気の人にも、あの時と同じように言うのでしょう……、根性で闘い頑張ればきっと治ると。
ラグビー部は病気とちがい辞めることができるので辞めました。根性も闘いもクソくらえです。それでも「生きる」糸を切らずに生きています……、いまだ辞めることなく……

と、このあたりで目が醒めた。

今、思うと新卒の熱血コーチは、23歳だったんだな。
若かったのかもしれない。
でもそのままのメンタリティで老人になるまで変わらず、それが暴力であることに自覚のない運動部の監督やコーチが問題をおこし報道されてます。
さて、あなたはどうですか?
ロクな人生おくってますか?
そしてあの時の説教を、今、どう思っていますか?
ま、きっと忘れているんでしょうね。
でもね、言われたほうは忘れないんですよね、40年以上たっても。
忘れたと思っても…………、心の深層からこみ上げる夢をみつづけるほどに。

ふぅ・・・「夢」をみて、小さな過去をはじめて言葉にできました。
すべて吐き出すことができました。
これで無意識の呪縛からも解放される。
なので、あなたの暴言も許します。
・・・きっと、あなたは自身の純粋さを別のベクトルにむけ、あのとき吐いてしまった言葉を後悔して、今では豊かな人生をおくっていることでしょう。
そうだと信じて、あなたと別れることにします。
さようなら。


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