蝶にしてみれば、人間のアレコレなど知ったこっちゃないのだろうけど、、、

最近、酷い気持ちにさせられた。
権威を傘にロジックを無視し精神論を押し付ける老人と同席した。
相手にせずに老人の妄想として言わせておけばいいのかもしれない。
でも、滅茶苦茶な言葉を真に受けた第三者が傷つくことは許せなかった。
ワタシは素直でいい人が傷つけられるのには過敏に反応してしまうようだ。
ワタシはかなり怒っていた。
ほんとうに腹ただしかった。
あの老害をどう懲らしめてやろうかと考えていた。
考えながら、そう考えている自分が虚しかった。
冷静ならば、老人の滅茶苦茶もそれに傷つけられるのも、それぞれの課題だよな、と考えるのだけど一旦怒りに火がつくと駄目だな・・・
自分ごとのように怒りがわき消えなくなる。
モヤモヤした感じが続いている。
明日は蝶探索に友人たちとでかけるというのに。

激しい風が夜の静寂を吹き飛ばす。
昼間の雨がまだ降り足らぬとばかりに雲の雫をしぼりだす。
情報は集めたし、きっとお目当ての蝶と会えると思うのに気分が晴れない。
あの老害の顔がチラつくし、傷つけられたあの人の表情を想像してしまう。
そのうえ、この風雨だ。
眠れぬ夜・・・

朝、天気予報通り雨はあがり陽がさした。
風はまだ吹いているが、だいぶ弱まっている。
1時間ほど走り目的の河原についた。
着いてはみたが、お目当ての蝶がどこにいるか解らない。
河原といっても河川敷から堤防までかなり広い。
とりあえず川の際までいってみる。
探しまわっているうちに友人がみつけた。
傷ひとつない生まれたてのキレイな青い蝶だった。
小さなブルーの翅は陽を浴びながら輝いている。
翅の裏は陽の光にすけてオレンジとドット模様が浮かび上がる。
蝶はやがてカメラをもった人間に囲まれ飛び立った。
何もしないのに・・・
それから随分さがしたけれど、みつからなかった。
飛び去り消えてしまった。
もう一度会いたいという人間の気持ちなど知ったこちゃないと言わんばかりに。
とはいえ、探し回ったので予想していなかった紫色のキレイな蝶と会えたんだけどね。
予定の時間もすぎ本命の蝶は諦めた帰り際「こんなところにぃ」という堤防でたくさんのキレイな青い翅の蝶に出会えた。
やはり答えはどこにあるかわからない。
でも、最初の出会いの写真が一番よかった。
当てずっぽうで探したことで唯一無二の出会いや予期しない意外な出会いがあったり、諦めたところに答えがあったりする。
これだから蝶探索は面白い。

満足したボクらは次の出会いを求め、山奥の石垣まで移動する。
事前に調べていた石垣への道は、車がすれ違うのも困難な細い道だった。
かなり時間をかけ苦労して辿りついた。
小さな陰が見え隠れした。
石垣の隙間に生きるツメレンゲのまわりを力弱く飛ぶ。
フラフラになって揺れながらなんとか飛んでいる感じだ。
翅はボロボロになり、鱗粉は剥がれ、少しの風でも飛ばされながら飛ぶ。
そんな蝶との始めての出会い。
確かに会えた。
まちがいなく会えたんだけど・・・・
河原での初出会いでは翅も鱗粉も欠けることのないキレイな蝶に出会えただけに、ボロボロの蝶をみつめ残念だと思ってしまう自分がいる。
しかもこんなに苦労して会いに来たのに。

仕方ないな。
昨夜のあの激しい雨と風を耐えてきたのだから。
人間にとってはとるに足らない雨粒のひとつも、蝶にしてみればバスケットボールかさらに大きなビーチボールみたいなものだろう。しかもその粒は重く破壊力のある水でできてる。
それが途切れることなく、マシンガンの弾丸のように降ってくる。
逃げ場もなく撃たれてしまう。
それに耐えて、生き延びて、今日はやっとの思いでフラフラになって飛んでいる。
突然やってきた人間に「ボロボロで残念だ」なんて言われたくない。
オマエたちが、どういう思いで、どう苦労してここまできたかなど知ったこっちゃない。
いや違うな。
知ったこっちゃない、なんて思わない。
ワタシたちなど相手にせずにただ「生きる」ことを続けている。
これも違う。
「生きる」ということさえ考えていないだろう。
そうなんだ。
他者に反応することなく、その生を意識することもなく生きている。
「ひたすら」とか「粘り強く」とか「キレイ」とか「ボロボロ」とか、「生き抜いて」とか「なんのために」なんて人間の言うどんな形容詞も疑問符も滑稽なんだろう。
だから、滑稽もクソも何もないんだって、、、
ただ生きているんだ。

ボクらは人間だから、蝶のように「ただ生きる」ことはできない。
だからといって他者の言動に振り回されすぎる必要もない。
妄想や暴言もどうでもいい。
キレイやボロボロなんてどうでもいい。
元気よくだろうが、フラフラだろうがいいんだ。
もしかしたら「生き抜く」も「なんのために」も不要かもしれない。
意味を意識することもなく、ただ生きている、ではいけないのか?
生きているから生きているのだ。

出会った蝶たちの、生をただ生きる姿を思い出している。
踊るように舞う蝶を思い出すと、また蝶に会いにいきたくなる。
蝶にとっては「人間」なんて知ったこっちゃないだろう。
ボクらはただ、勝手に会いに来た人間にすぎない。
でも人間だから、何かを感じて考えてしまう。
やはりどうしても考えてしまう。
どうしようもなく人間なのだ。
だから蝶に会いに行くのかもしれない。
蝶を探してまわるのかもしれない。
蝶が舞うように、軽やかに踊るように生きることができるまで。


よろしければサポートお願いします