「介護物語の美談」なんて書けない(3) デイサービス通所が決まるまで

おいおいおい、こいつ意識もなくギターなんか弾いてるぜ。
爪弾いてたアルペジオはステアウエイ トゥ ヘヴンかぁ?
天国への階段、、、4ヶ月ぶりかな?
ぜんぜん指が動いてないじゃないか。
右も左もギプスで巻かれたように重い。
アレ以前は無意識に右指と左指がシンクロしてたのに。
あの日から俺の自由が狂わされたのだ。
痴呆老人らを見て見ぬふりをして得られていた自由が奪われたのさ。

4ヶ月まえ、、
「胸が苦しい」と訴える母親を病院に連れて行ったのが分かれ道だった。
そのまま放置して逝かせることもできたのにな。
平均年齢も超えていることだしさ。
実際に心不全度合いを示す数値が15652pg/mlもあると医者に言われた。
なんのこっちゃわからないが、基準値は125pg/ml以下っていうんだから、素人にもヤバいってのは分かる。
ってか、基準の125.2倍だぜ、それでも生きている数値ってなんなん?

そのまま逝かせることなく病院に運び入院させた。
オレはそういう人間だったのだ。
苦しむ人間を見過ごしにできないん質なんだな。
因果だな。

医者からは、入院中に死ぬ可能性もあるといわれ、延命処置をするかどうかを訊かれた。
延命処置はせずに、楽に逝かせてやってほしいと言ったんだけど、1週間も経たないに退院することになった。

退院指導のときもめちゃくちゃ言われたぜ。
言われたい放題のサンドバッグ。
そりゃそうだよな。
それまで、見て見ぬふりだったわけだからさ。
食事指導からQOLの向上まで、、、ん、QOL?だって?
QOL、クオリティ・オブ・ライフかぁ。懐かしいなぁ、実は介護職員初任者研修を終えているだけどね。
終えているだけで、研修結果を働かせたことなんかない。
で、実の親のQOLが最低だったっていうんだから、笑っちゃうだろ。

食事指導、QOL指導、バイタル測定の次は介護保険だ。
介護認定を取れって「指導」のうるさいのなんの。
これはのちのち、介護経験のあるヤツ全員に言われることになるから、そういうことなんだろうけど、いきなり機関銃ってのもな。
もちろん、その時までは、まるで何もやっちゃいない。
0から始める介護保険ってなもんよ。

だいたい、入院のときも介護保険証から見当たらない、どころか健康保険証も去年のしかない。こっから再発行で役所まで走ったんだよ。
こんな調子だから、なにもかも「0」からのスタートな。
0からってより、マイナスからのスタート。
よくこいつら生活してたなぁ〜。
ある意味、ボケってのは最強だな。

介護認定をうけるために必要なもの、、、、
なかでも、「担当医」ってのが必要らしい。
それがいないのよ。
ながいあいだ薬を飲むのもやめていた「らしい」。
薬のことも散々言われて、オレが管理しなければならない。
だから、どっちにしろ担当医は探さなきゃいけないんだけどさ。
で、すったもんだして担当医を探して、ついでにジジイの担当医にもなってくれって頼んで。
ジジイはいまんとこボケている以外に医者にかかるような悪いとこないんだけど、介護認定を受けるために必要だっていうからさ。
そのあと役所には何度いったことか。
そんでもって、介護度調査の調査員ってのが来て半日つきあわされて、忘れた頃に介護認定がきたわけだ。

で、介護認定とれたからどうするの?
認定とってゴールじゃない、それを利用しなけりゃ意味ないんじゃん。

ってことで、まあ利用しようと、その説明をまた役所に訊きにいって、何度目の役所だよ。
説明をうけて、必要だってんでケアマネってのを選んで連絡してスケジュールをあわせて、訪問をうけて、etc
まあ、そんなこんなでデイサービスでも行かせようかってことになる。
行かせようか、だけで行けるわけじゃないんだな、これが。

だいたい、あいつら(←うちの親)、ボケてるくせにプライドだけは高い。
そんな老人が行くような施設いかない、というは目に見えている。
お前らがそんな老人だろうが、、という怒号は飲み込んで、まあ家でボ〜としているのもツマランから、遊びに行けば?っつか、遊びにいけよ、(と命令する。)

退院してから、ここまで4ヶ月。

毎日の3食の食事とQOLとバイタル測定と投薬のうえに、介護保険のあれやこれや、、、、
これまでのオレの時間的精神的な自由の多くは奪われ、ヘロヘロの廃人になりかけていた。
こいつらマジで死ねばいいのに、と事あるごとに言葉を飲み込んだり、木の洞(note)にむけて叫んだりしてね。
「事あるごと」ってのは、毎日なのよ。その度に時間も精神も削られ続けてきたわけだ。

結局、今は週に3度デイサービスに行っている。
まあ、週に3度の昼飯づくりは免除されるが、出かける準備や施設とのやりとりなんかの手間が加わる。手間としては似たりよったりなんだけど。

当人たちといえば「楽しそう」に出かけていく。
デイサービスでも楽しそうに過ごしているらしい。
あぁ、やっぱ餅は餅屋だな。
やることもなく家でボ〜とするしかなく、イライラしたオレの顔をみてキツイ言葉を聞くより、介護のプロにチヤホヤされ持ち上げられ、何かやることを与えられるデイサービスのほうが100倍いいだろう。
よし、次の目標はショートステイを頼んで、旅行に行くことにしよう。

そんなことを考えながら、無意識にギターを抱えて爪弾いている自分を見つめる。
あ、こいつ、楽しそうな親をみて、ホッとしてるな。良かったと思っているな。
結局、本当のイライラの原因はここだったのかもしれない。
ボケ〜と一日を何をすることもなく、死んだように息をしていることにイライラしていたんだ。
何かをすると、必ずやらなくていい余計なことをやるため、何もするな、と言うしか無いことの矛盾にイライラしていたんだ。
そのストレスが解消されるデイサービスにホッとしているんだ。
よかった、よかったデイサービス・・・・

拙いぞ、ちょっと美談っぽくなっていないか?
タイトルから外れていく、、まずい、非常に拙い。

え〜い、すべてもとい !! ふん、結局よぉ、相変わらずオイラの貴重な自由を奪われていることには変わりはないんだけどな、ふんだ、プンプン。

ギターから動かない指に弾き出される曲にならない音符が宙に漂っていた・・・


よろしければサポートお願いします