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毒多
2024年1月9日 16:26
ある日の午後、森のなかであいつは黙って旅立った。あいつにはボクのアイデンティティを預けていたのに。それらを背負ったまま、知らぬ間にボクの元から消えた。たしかにボクはアイデンティティって奴を軽く扱っていた。やれ虚構だ、やれ幻想だ、と馬鹿にしながら、あいつに背負わせていた。あいつは何も不満を言わず黙々と背負っていた。あいつがいないことに気づいたのは翌朝だった。ボクは慌てふためいた。