人生が辛くなったら「であすす」を読んでほしい

「もう生きたくない」と思ったら、花田菜々子さん著「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」を読んでみてほしい。突然不幸に見舞われた人。別れの春、願いの届かなかった春を迎えそうな人。本書を開けば、少し光が見えると思います。

大変なことは同時にやってくる

花田さんは苦境に遭う。まず、夫ともう一緒に住みたくない状態になっていること(=家族)。さらに、長年勤めた書店兼雑貨屋で働き続けていくことに疑問を持っていること(=職業)。花田さんは家族と職業の人生二大パートで岐路に立たされている。

そんな花田さんが「広い世界に出て、新しい自分になって、元気になりたい」(p11)と一念発起して、「X」という「出会い系サイト」に登録してみた、というのがあらすじです。出会い系といっても男女を問わないマッチングアプリという感じ。そこに花田さんは「変わった本屋の店長をしていて、今のあなたにぴったりな本を1冊選んでおすすめさせていただきます」と自己紹介し、挑戦する。

大変なことは、同時にやってくるんだな。夫と揉めたら職は安定していてほしいし、職が揺らいだら家族に支えてほしい。でも実際は、そううまくいかない。「じゃあ、どうする?」というところで、花田さんはめちゃくちゃ破天荒な道を選ぶ。だから本書は爽快なんです。


出会いが問いを変える

すぐに肉体関係を求めてくる人もいるけれど、「X」には掛け替えのない出会いがあったことが綴られます。たとえば、コーチングを生業とするユカリさん。

ユカリさんは仕事としてコーチングをするし、「X」では無料のコーチングもする。無料コーチは有料版の「宣伝」ではなく、「コーチングするのが好きだから、無料でもやりたいし、有料でもやりたいな、って思うんです」(p102)と話す。

その話を聞き、花田さんの「働き方観」が変わっていく。ユカリさんは「好きなこと」を仕事にもしているし、「お金」を取らない営みとしてもやっている。それはほとんど「天職」としか言いようがないことだ。自分にとっての天職はなんだろうか?

「今の職場を続けるべきか?辞めるべきか?」という問いが、ユカリさんとの出会いを通じて形を変えた。二者択一に見えた道が、実際には歩き出す方角を決めるところからのスタートだったんだと気付いた。問題が解決したわけではないのに、頭上がすっと青空になるようなことってある。そう思わされます。


私の人生の議題を見つける

私が「であすす」を好きなのは、このまま出会いによってアゲアゲな人生に進んでいくサクセスストーリーを花田さんが描かないところです。もちろん花田さんにとって幸福な道に進んでいくし、それがうれしい。でもそれは、世間的なサクセスを掴むことと全く違う。

こんな一節があります。終盤、出会いの「修行」を繰り返して、花田さんは「ラスボス的な」出会いをする。そして、大きな気付きを得る。

私が突き付けられているような気がしていた普遍的な議題ーーたとえば「独身と結婚しているのとどちらがいいのか?」「仕事と家庭のどちらを優先すべきか?」「子どもを持つべきか持たないべきか?」ーーそもそもの問いが私の人生の重要な議題とずれていたのだ。こんな問いに立ち向かわされているとき、いつも自分の輪郭は消えそうで、きちんと答えられなくて、不甲斐ない気分になることは、自分がいけないのだと思っていた。(p171)

そもそもの問いが私の人生の重要な議題とずれていたのだ。そうか、そうなんだ。世間の重要な議題に答えることが大事じゃないんだ。それに答えようとして、自分の議題をずらしているから、しんどいんだ。

出会いによって問いは変わる。ではどう変えていけばいいかというと、自分の人生の議題にフィットする問い方なんだと思いました。そして、「答え」ではなく「問い」を探して踏み出した一歩は、自分を導いてくれる。花田さんが「X」と格闘した日々は、そのことを証明してくれています。


本書の次におすすめなのは

伊藤洋志さんの「ナリワイをつくる」です。「個人レベルではじめられて、自分の時間と健康をマネーと交換するのではなく、やればやるほど頭と体を鍛えられ、技が身つく仕事」を「ナリワイ」と定義し、それをどう作っていくかを書いた本。エッセイ調だし、とても具体的な話なので、「であすす」的な面白さに近い気がしますし、生き方も考えられます。


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