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伊坂幸太郎さんを作った物語たちーミニ読書感想「小説の惑星ノーザンブルーベリー篇」

「小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇」(ちくま文庫)が面白かった。小説家・伊坂幸太郎さんが編者となって集めた「短編小説のドリームチーム」。看板に偽りのない、短いながらに溢れる魅了を秘めた作品たちだった。さらに楽しいのは、伊坂作品との関連がどことなく感じられるところ。これは伊坂幸太郎さんを作った物語なんだ、と実感する。


伊坂作品といえば、不思議な能力を持つ登場人物。「魔王」では相手の発言を短時間操る「腹話術」を操り近刊の「ペッパーズ・ゴースト」では相手の飛沫を浴びると未来が見える教師が主人公だった。「小説の惑星」の一番バッター「賭けの天才」(眉村卓)は、プロ野球試合の結果や人事異動について賭けを持ち掛け、いつでも勝つ男が登場する。主人公は「お前、未来が見えるのだろう」と迫るのだが…という話。なんとほんの5ページ程度の超短編だが、凄まじく読み応えがある。

軽妙な会話劇も伊坂作品の魅力の一つだと思う。登場人物たちが掛け合い、トントンとテンポ良く会話が進む。井伏鱒二「休憩時間」や谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」は、そんなリズムが弾む作品だった。

「休憩時間」は学校の一コマを切り取った小説だけれど、青春のきらびやかさは伊坂作品の「砂漠」に通じるものを感じた。

悲しいしシリアスだけれど、愛や笑いを失わないから、伊坂作品はいつ読んでも楽しい。町田康「工夫の減さん」はある男の命がしゅんと消えてしまう物語だけれど、どこか救いがある。

「人は食べたもので出来ている」とはよくいうけれど、作家は読んだもので出来ているのかもしれない。「小説の惑星」は、伊坂幸太郎さんが自ら「こんな本を読んできた」と明かしてくれている点で貴重だ。作家自ら成分表示を開示してくれているようなもので、「あの作品みたいだな」と思い浮かべるのが楽しい。

しかも、巻末にはそれぞれの作品の何が好きなのかを伊坂さんが解説してくれた「あとがき」が付いている。作品の魅力を本人の口から語ってくれている親切設計だ。「ノーザンブルーベリー篇」と「オーシャンラズベリー篇」と2冊あり、それぞれのタイトルも物語的な含みがあって素晴らしい。

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