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ポピュリズムを知りたい方へ『統合欧州の危うい「いま」』はファンキーな教科書だった


私はクレイジーな人が好きだ。
見ていて(または読んでいて)スカッとしたり、ははっと笑ってしまったりする。
ちょっとした憧れの眼差しを含んでいるのかもしれない。
そんなことで、先に断っておきたいのだが、私にとっての”クレイジー”は最高峰の賞賛を表しているという点だ。

今回記録として残す書籍はなかなかクレイジーだ。
著者ワールド全開。
読み進めていくとなんだか笑っちゃう。
決して笑い話が書いているわけではないのだが
もう1回言っちゃうと、なんだか笑っちゃう。
注意しておくがバカにしているわけではない。
脱力して真面目な話を読み進めることができる
面白い本だ。
ちなみに、私はこの著者を知らなかったのだが、
名前検索をしてさらに笑ってしまった。
期待を裏切らないほどの鮮やかなパープルヘアがよく似合う方だった。

1.書籍紹介

・タイトル|『統合欧州の危うい「いま」
       ー 中央が失われた経済と
       右傾化する政治 ー』
・著  者| 浜 矩子(はま・のりこ)
・発行年月| 2020.11.28
・発  行  元| 詩想社
・著者略歴| 1952年生まれ。
       一橋大学経済学部卒業。
       75年、三菱総合研究所入所。
       ロンドン駐在員事務所長兼
       駐在エコノミスト、経済調査部長
       などを経て、2002年より同志社
       大学大学院ビジネス研究科教授。
       専攻はマクロ経済分析、
       国際経済。
       (本書紹介欄より引用)

2.あらすじ

コロナウイルスの猛威にさらされる中で、
いま、着実に「欧州の危機」が迫っている。
マクロン仏大統領が訴えるとおり、
「真実の瞬間」を、欧州は迎えている。

英国の離脱が決まり、
その結束に綻びがみられるEU。
コロナ禍によって、
欧州各国の分断はさらに深化している。
なぜいま、欧州各国では、
中流層と中道政治が変質、消失し、
ポピュリスト、ナショナリストが台頭するに至っているのか。
各国の政治経済の危機的状況を読み解き
統合から分断へと向かい出した潮流を解説。
そこに、政治的プロジェクトから経済的プロジェクトへと変質しつつある欧州統合の矛盾をあぶり出し、
今後の統合の行方、
欧州政治の危うい未来を読み解く。

Amazon書籍紹介文より引用

3.徒然なるまま感想文

この本はEUの経済を含む政治のあり方が綴られている。
政治に全く興味のない方にしてみたら
本文は全く面白くない感想かもしれない。
ただ、物語だと思って本書をためにし読んでほしい。
物語感覚で読めるはずだ。
ただ、強い自分を持って目に見えない何かに流されることなく読むことをお勧めする。

3-1. EU通インテリクレイジー経済学者

もう1度念のために伝えておきたい。
私はクレイジーな人が好きだ。
なので本書籍の批判をする気はない。
また私の読書記録は無批判をモットーにしている。

で、この方なのだが、論の展開が斬新。
こういった類いの書籍では
往往にして先行研究や先行書籍の引用がある。
ただ本書で用いられる引用は
仏大統領マクロンの対談記事に始まり、
ジョージ・オーウェルの『1984年』を経由。
劇作家のシェークスピア、イェイツといった
メンツが並ぶ。
何が行われているのか一瞬わからなくなるも
比喩表現が上手な著者に引っ張られ本筋へ立ちもどり
筆者の”EU感”を理解してしまう。
これが”浜節”なのだろうか。
失礼ながら私にとって著者と触れ合う初めての書籍が
本書であったため”浜節”については今後検証していきたい。

3-2.ポピュリズムとナショナリズムの理解度UP

断ってばかりでしつこいが
私はポピュリストでもナショナリストでもない。
いらぬ追記だが、エリートでもない。
こういう政治に関する書籍は慎重にならざるを得ない。
なんとも不自由だ。

以下お読み頂ければ明白だと思うが
7月10日に行われた参院選の開票結果をみて
私は恐れた。
ポピュリズムの勢い。
極右とまでいかないと信じたい右寄りな政党や
本書の表現を借りるなら”ワンイッシュー”政党。
この人たちに税金の使い道を託す?
正気の沙汰か。
いや、国会バランスを考えればこういう政党も必要か?

だがしかし、ここでふと頭をよぎったのは
私が大好きなブレイディみかこ氏の多数ある書籍だ。
「そういえば、EU圏ではすでにポピュリズムが
 台頭しているのではなかったか。」

藁をも掴む思いで図書館へ。
そしてこの書籍を手に取ることになる。

だいぶファンキーな教科書を手に取ったわけだが
書籍の最初に基本的な用語説明が記載されている。
そもそもポピュリズムやナショナリズムって何?
相互関係は?
右派左派って?
若干の浜節を感じながら説明されると
第1章を読み終えた頃には構造理解が終わっている。

するとだいぶ気持ちも落ち着いていた。

要するに無知は恐怖心を煽る。
無知は恐怖心の栄養剤にもなる。

ブレイディ氏の著書である「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2」でも書かれている。
”エンパシー”
ブレイディ氏の息子はエンパシーを「他者の靴を履くこと」とした。
他者の靴を履くためには”これが他者の靴”だと認識する過程を踏む。
私はこの本で他者の靴をなんとなくでも認識し
実際に履いてみることで適切な恐怖心を抱けるに至った。

3-3.浜節が面白い

面白いという感覚はなんとも主観的な話であって
この書籍は好き嫌いがはっきり分かれそうな本である。
ちなみに、10ページまではいかにも識者らしい言葉が並ぶ。
よって軽く立ち読みして買ってみたら
ファンキーさに気づき、おののきながら
一気に読んでしまうか、本を閉じるかの2択なのではと思う。

で、本を読み進める中で「この人すごいな」と思った箇所がある。

例えばこの部分だ。

ひょっとすると、この時のキャメロン氏は、自分のファーストネームがデビットなだけに、旧約聖書の中に出てくる少年ダビデにあやかりたいと考えていたかもしれません。そう思えてきました。

『統合欧州の危うい「いま」』p.169より

そう思えてきたとは?

笑う!!大いに笑う!!
これは衝撃的なことだ。
仮にも経済学者である。
学者または先生と呼ばれる人たちは
その地位が故に良識的な発言に止まることもある。
そんな中でこの妄想には痺れた。
いや、面白い人見つけたなぁ。
私はこういうマイワールドを持っている人が好きだ。

ただ、このことを残しておきたかった。

4.おわりに


最後にも断っておきたい。
何度断ったかわからない。

有識者といっても人間だ。
いろんな考え方をする方がいる。
例え権威と言われる先生の論だったとしても
必ず反対意見はある。
今の通説が未来の通説とは限らない。

だからこそ、いろんな人の意見に触れることが大切なのだ。
特に、政治や経済など複雑に絡み合った事柄に対して
”これが答えだ”と最短距離で判断しない。
答えかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。
これが私のとるスタンスだ。
私はそんなに賢くない。
だから、なるべくその時の最善を選択するため本を読む。
時には”他人の靴も履いて”思考する。

ある一定の政治家や政党に盲信することなく、
国民は冷静に見守り、意見は”投票”という形で行う。
この形が崩れないといいなと切に願う。



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