好きな気持ちは目に見えないからこそ、勘違いできない
恋人と出かけたリゾート地で、逢衣は彩夏に出会う。25歳の逢衣は社会人になってから付き合い始めた彼氏 颯がいる。颯は逢衣にとって、高校生の時の憧れの先輩だった。告白された時は夢みたいだったし、付き合っている時も付き合えている幸運を噛み締めていた。
なのに、彩夏に恋をした。
彩夏は芸能事務所に所属した役者を目指す女の子。威圧的で、初対面の印象は最悪。絶対に友達になりたくない相手だと逢衣はこっそり颯に愚痴っていた。
なのに、彩夏に恋をした。
「ねえもう好きで好きで抑えられないよ。逢衣を見るだけで身体の細胞が全部入れ替わってしまうくらい好き。どうすれば良いか自分でも分からない。一目見た時から気になって仕方なかった。」
仲の良い友達だと思っていた同性からこんな激しい愛の告白をされたら、自分だったらどうしよう。きっとこの本を読んだ人はチラッと考えると思う。私だったら激しく混乱すると思う。
そして逢衣も激しく混乱し、彩夏を拒絶する。
ふざけるな!こんなの理解できるわけない。
友達に裏切られたと激しい憤りを感じる逢衣。しかし最終的に彼女は彩夏を受け入れる。
受け入れる、というかお互いにお互いを求めた。
満たされて、絶望する。この瞬間を恐れながらも、私は待ち望んでいたんだ。
逢衣は彩夏とキスをして、こう思った。満たされた自分に絶望した。
この本では2人が肌を合わせる描写がいくつもある。言葉が意味をなさない、裸で抱き合うことで語れることがある。
そして逢衣は彩夏と抱き合って、初めて自分が真に解放される喜びを知る。
今まで裸でいても、私は全然裸じゃなかった。常識も世間体も意識から鮮やかに取り払い、生のみ抱きしめて、一糸纒わぬ姿で抱き合えば、こんなにも身体が軽いとは。
“好き”という感情が持つこの力強さはなんだろう。
最初はあんなに彩夏を激しく拒絶していた逢衣も、裸になって、抱き合って、彩夏と一生一緒にいたいと永遠の愛を望む。
彩夏に触れたくて仕方がなかった。他のどんな魅力的な肉体が目の前に差し出されても、私はこんな気持ちにはならない。彩夏だからこそだよ
彩夏に近づきたい、触れたいと苦しむ姿は、他の誰とも違わず“恋する一人の人間”だった。
私たちは“人間”でその言葉の定義は人それぞれ。
常識とか世間とか、そういう見えないものを気にするのは私たちが“人間”だから。だけど好きな人に触れたい、キスしたい、抱き合いたいと求めるのも“人間”だから。
私たちに搭載された本能という大事なセンサーを、しっかり働かせている人はどれくらいいるんだろう。
ねえ、いつだって自信満々でいてよ。いつまでも太陽の下でしようよ。
頭でっかちな私たち人間に、愛すること、その本能的な営みの美しさを思い出させてくれる本です。
Written by あかり
アラサー女
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