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リトルステップ②

前々回、心が落ち着いた静寂の境地を目指して、小さな実践を積み重ねるというお話をしました。今日はその後半です。

3、感覚に注意をとどめる

自動的な思考にはまり込んでしまうのを防ぐためには、感覚を感じるという方向に意識を切り替えることがポイントでした。

ここでそれについて少し詳しく説明します。覚醒時の脳の活動の仕方には大きく分けて2つのモードがあると考えられていて、その1つが休息時のモードです。その時に働く脳部位を総称してデフォルトモードネットワーク(以降DMN)と呼びます。自動的な思考、マインドワンダリングはこのDMNの働きによって起こると考えられています。

それに対して何か意識的に作業するときに働く脳部位のネットワークをセントラルエグゼクティブネットワーク(CEN)と呼びます。日常において人間が活動する時に働くのはこのCENです。

そしてそれらの二つのモードを切り替える働きがあるネットワークが最近の研究でわかってきました。それをサリエンスネットワーク(SN)と言います。このネットワークの働きは多岐に渡り、上記のような意識の切り替えや、身体が受けた刺激を拾い上げ反応の仕方を決定したり、注意の制御を担ったりまさに「マインドフルネス(気づき、注意)」に大きく関わる脳領域です。

この3つのネットワークに対するマインドフルネストレーニングの効果に関してはだいぶ研究が進んでいるようです。例えばこの論文

を見ると、マインドフルネスのトレーニングによってDMNとSNの結びつき、またSNとCENが強くなることが示唆されています。これはつまりDMNによる自動思考からCENによる体の動きや感覚に関わる脳領域へ切り替えがよりスムーズに行われるようになる可能性を示しています。

このように感覚に注意を向けることと自動的な思考が減少するというのには、神経科学的な根拠があります。

そしてここからはまだあまり研究により実証されていない領域なのですが、DMNからCENの切り替えを繰り返したり、感覚への注意制御の訓練を継続するとSNそのものが活性化されていくと考えられます。このSNの働きが活性化すればするほどDMN働きが弱くなり、自動思考へ嵌まること自体が起こりにくくなります。すると感覚への注意がそれず集中できるようになってくるのです。

4、より繊細な感覚に注意をとどめる

体の感覚に注意をとどめられるようになると、より繊細な感覚が感じられるようになっていきます。今まで大雑把な皮膚の接触感や筋肉の動く感覚だけを捉えていたのが、特に動いていなくても常に生じている皮膚の内側の微妙な感覚や、内臓やその周辺の筋肉の反応(特に心臓や胃などは本当に心の反応が出やすい場所です)などがわかるようになるのです。

すると心と体は自分が思っている以上に密接に関わっているということがわかります。ストレスがかかっていることを微妙な胃のむかつきとして感じたり、微妙な心拍の変化で自分の緊張を把握できるようになったりします。身体を通して心の状態を知ることができるようになるのです。

そのように心の状態を細かく把握できるようになると、心を落ち着けるのが容易になります。経験的にどのようにすれば心が落ち着き、どのようにすれば心が動き回るのかわかるようになるのです。コントロールを目的としているわけではありませんが、結果的に心がコントロールされた状態になります。

そしてこのように注意によって心がコントロールされた状態で呼吸などを感じていると、脳内のセロトニンの分泌量が増えるのか喜悦感が湧いてきます。この喜悦感は初めて感じた時には浮かれてしまうほど強力なものです。しかし、それにもだんだん慣れてきます。喜悦感はより穏やかなものに変わり、その穏やかな楽しさのようなものもなくなり静かになります。これがいわゆる近行定、広い意味でのサマーディといわれる状態です。

この後は二つのルートがあります。一つは集中力をより高めていくルート。もう一つはある程度高められた集中力で心の観察から法の観察へと向かっていくルートです。

集中力を極めるのであれば、より狭くきっちりと注意をとどめ集中状態を長く安立させるように訓練していきますが、日常生活を送りながらこれ以上に高い集中状態を作るのは難しいだろうと思います。

なので2つ目のルートへ向かうのですが、これについては既に過去の記事で説明しているのでもしよろしければ参考にご覧ください。

読んでいただきありがとうございました。



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