パポラバ星から宇宙人がやってきた話③

その頃、ミヨリと入れ替わることで地球で暮らす夢を果たした宇宙人は地球での生活を満喫していました。

青や緑のカラフルな景色、甘みや辛さ、苦さなどの色々な味、柔らかかったりざらざらしていたりとそれぞれ違った感触。
パポラバ星では決して味わうことのできない心を揺さぶるものたちで溢れかえっていました。

彼はミヨリを犠牲にしたことに対して決して悪いと思っていないわけではありませんでしたが、長年夢見ていたこの地球にこれたことに対する喜びの方がはるかに大きく一生ここで過ごしていきたいと心から思いました。

また、運のいいことにミヨリは至って普通の生徒だったので、勉強やスポーツにおいて周りから違和感を抱かれることはなく、周りの温かい友達に囲まれて楽しく暮らすことができていました。

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しかしそれから1週間経ったある日、彼はミヨリのインスタグラムに来ていた大量のメッセージやコメントを見つけました。

それは、毎日ミヨリのインテリアの写真投稿を待っている人たちがミヨリの投稿がパタリとなくなったことを心配する声やミヨリの写真を毎日楽しみにしていた人たちのコメントでした。

彼はすっかり大事なことを忘れていました。
ミヨリはただこの素敵な部屋で暮らしているのではなくて、この部屋はミヨリ自身が長い間努力したことで住むことのできる特別な空間だったのです。

彼は慌てて部屋に飾ってあるテディベアのぬいぐるみの写真を撮り、それを投稿しました。

しばらくすると、たったの5分で200人もの人たちがミヨリの投稿に反応していました。

ミヨリの久しぶりの投稿に安心するものや、「私も同じテディベアが欲しい」というような温かいコメントばかりでした。

彼はミヨリが羨ましくなりました。
たくさんの人に毎日待ってもらえることってどんなに幸せなことでしょう。

それから彼はミヨリの写真を待っている人の期待を裏切らないよう欠かさず投稿を続けました。
時には雑貨屋でミヨリの部屋に合うようなものを購入し、必死に飾り付けをしました。

少しだけミヨリの幸せを奪ったような気持ちにはなりましたが、人から期待されること、求められることの幸せを彼はつくづくと感じていました。

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それから2週間経ったある日のこと、ミヨリのインスタグラムにあるコメントが寄せられました。

「なんだかミヨリさん変わった気がするのは私だけですかね」

そしてそのコメントに対して多くの人が賛同していました。

彼はそのコメントを見て、心にポッカリ穴が開いたような気持ちになりました。
毎日今までのミヨリの写真を見て、出来るだけそれに近づけようとして撮っていたつもりなのに顔も知らぬ誰かにそれがバレていたのです。

しかし彼はそれでもミヨリで居続けたいと思いました。
パポラバ星で暮らしたくないのはもちろん、憧れのミヨリの人生をこれからも歩み続けられるならそれは幸せなことだと心からそう思っているのです。

その日彼は写真の投稿をしませんでした。
そして心を痛めながら深い深い眠りについていきました。

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次の日、彼は目を覚ますといつものようにインスタグラムを開きました。
やはり昨日の投稿がなかったことを心配する声がありました。
彼はたくさんのコメントに一通り目を通した後、いつもは来ていないメッセージが届いているのに気が付きました。

彼はそのメッセージを開きました。
するとそこには雑誌の掲載をはじめとした、取材の依頼に関する内容が書かれていました。
また、興味があればインテリアデザインに関する仕事もお願いしたいとも書いてありました。

彼はそのとき初めて「ミヨリになるのは無理だ」と思いました。
今まで何年もこうやって努力し続けてきたミヨリのならまだしも、自分がこの仕事を受けるのはあまりにも責任が重すぎると感じたのです。

改めて考えてみれば、この2週間ミヨリのように、家具や雑貨屋に対する気持ちだとかそういったものはほとんどなく、ただ今の自分から逃げ出すために誰かに似せることを目的としてやってきたんだと感じました。

彼はポケットの中に入れていた音声装置を手に取りました。
そしてパポラバ星の自宅にいるであろうミヨリに向かって話し始めました。

続く

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