見出し画像

彩旅#1 「ブランディング」の先駆者・小出正三さん

はじまる学び場。」に関わっている学生が、地域の大人の生き様をインタビューする『彩旅(いろたび)』。生き方に正解はない、あるのは多様な彩(いろ)だけ。色んな大人と旅するように出逢うことで、自分自身の彩も、きっと豊かになる。

取材を行った現役高校生の平野央・鈴木陸

私は人生をず~っと楽(ラク)してきた

『彩旅』最初のインタビュー先は「ブランディング」の先駆者・小出正三さんである。これまでになかった「ブランディング」の概念に気付き、自身で形成し直し、ひとつのビジネスの手法として用いて、成功を収めた。

しかし、それにも関わらず彼は、「人生を楽(ラク)してきた」と言う。また、「楽をする人生」の秘訣はブランディングの手法に通じ、私たち学生が考えるべき「自己の形成」につながるものであった。彼が創った「ブランディング」の根幹に迫り、選択肢が膨大化する現代を生きる学生へのメッセージを探っていく。


小出正三さんプロフィール

1963年 新潟県に生まれ、学生時代からサッカーに打ち込み、そのサッカー好きは現在までに至る。その後、国際基督教大学教養学部社会科学科に入学し,哲学を学ぶ。大学を卒業後、大手広告代理店の株式会社大広に入社。視点の幅や特異的な発想力を生かし、プレゼンテーションの企画獲得勝率4割を誇る。そして、2000年から現在に至るまでに、企業のブランディングマネジメントを行う、ブランドロジスティクス有限会社を設立し、数多くの企業や団体のブランド開発に携わる。また、自らも和菓子ブランド「かしこ」をプロデュースしている。


幼少期からあったブランドの感覚

小出さんが「ブランド」に触れ始めたのは、幼少期の頃に遡る。実家が営む和菓子屋を、暖簾に描かれた印が象徴しているように感じたと言う。 これが、小出さんの「ブランド」という感覚の始まりである。

身の回りには、様々なブランドであふれている。しかし、私たちはブランドとは何かと改めて問われると正確には答えられなかった。今回のインタビューを通して、「ブランド」というものに触れた。


ブランディングとは「生き様」に名前をつけること

小出さんは「ブランディング」を自分の内面に名前をつける行為だと言う。この世の企業には、様々な想いや価値がある。しかし、その多くは消費者に届く前にあやふやになってしまったり、書き換えられてしまったりして届かない場合が多く存在する。「想いや価値」が伝わり、消費者が共感して初めて、商品やサービスを購入、利用することになると考えられる。

これは、人にも同じことが言えるのではないだろうか。自分が伝えたいこと、やりたいことは、多くの場合伝わりづらい。人の想いもまた、相手に伝わって初めて価値を発揮する。だが、単に想いや価値を口にすることがブランディングというわけではない。自分を見つめ直し、時には哲学的な視点からも立ち返って根本にある「自分の生き方」を認知し、捉え直し続けること。「生き様に名前をつけること」がブランディングなのであると、小出さんは述べている。

余談だが、小出さん自身をブランディングするとしたら?と尋ねると「ばかであること」と答えた。周りの目を気にすることなく、ただやりたいことをやっていたという小出さんの人生を、まさに体現する一言であった。


「やりたい」が分かれば「やらない」が明確になる

「自らをブランディングする」ということは、同時に自分の指針を形成することにもつながっている。小出さん自身、人生の岐路に立った際、自分の「想いや価値」を捉え直すことによって、だんだんと自分の描く将来像が明確になっていったと言う。

なりたい姿が明確になったことで、成し遂げるために必要なものも分かり、「やらなければいけないこと」に輪郭が帯びてくるようになったとも述べている。そして、目標の達成に「必要なもの」が分かると、反対に、「必要ないもの」が分かってくる。それが、人生を楽する秘訣である。

大抵、人は自分の目標に向けて蛇行していくことが多い。しかし、自分の根本に立ち返ることを続け、その目標のばらつきを防ぐことで、不要な労力を費やす必要がなくなるのだ。自分の根本に立ち返ることは、選択肢が数多くある現代で必要な能力なのかもしれない。


「好き」は立派なアイデンティティ

一方、私たち高校生の中には、自分が価値観や興味の対象が分からないという人もいる。また、これらを探すことに追われて、いろいろなものに触れようと奔走している人もいるかもしれない。

しかし、「自分の価値観、興味というものは自分の中にあり、どこかにあるものではない」と小出さんは断言している。自分の価値観や興味の対象、すなわちアイデンティティは自分の中から滲み出るものだというわけである。

小出さん曰く、アイデンティティの最小単位は「好き」という感情とのことである。趣味、お気に入り、推し、形はなんであれ、自分が「好き」という感情を抱くものを捉え直し続けることが「自分の軸」に気づくためのポリシーだと語る。


「好き」を突き詰めていく

しかし、「好き」が「自分の軸」に気づくヒントだと言われても、「自分の軸」にする手段や考え方について疑問を抱くことだろう。まずは、社会に存在する自分の「好きなもの」を突き詰めることから始めてほしい。これを続けることで、自分の好きなものから、いずれ自分の軸がだんだんと分かってくる。


「自分の軸」を成長させる

「自分の軸」をより強固なものるためには「他人に自分の好きなもの(一番良いと思うもの)を発散すること」が大事だと小出さんは語る。だが、自分の「好き」を誰かに言うことは勇気がいる行為だ。小出さんは、インタビュー中にこんな言葉を残している。

他人からの評価から自分のキャラクターを決めていたら、
その人を超えることができなくなってしまう

小出さんが大学生の頃、「アイビーリーグのファッション」が記された本の中で、「外がボタンダウンのワイシャツ、中がポロシャツ」というスタイルを見つけた。紹介されている通りに着こなし大学に通ったところ、当時の日本のファッションとの違いから、笑いものにされてしまったという。

しかし、「おしゃれでかっこいい」と言われていた外国人教授が偶然同じ格好をしていたら、手のひらを返したように、尊敬の念を集められるようになったという。笑い話のように聞こえるが、先ほどの話との共通しているところは「自分の好きを信じている」という点である。

小出氏は、「自分が心からいいと思っていることを周囲に伝え続けることが大事である」と言っていた。他者に合わせて好きになるのではなく、自分から「好き」を作り、伝えていくことが大切なのである。

時には、自分の「好き」に周りが同意を示さない場合もある。しかし、自分の「好き」に共感し、自信を持たせてくれる環境や人が世の中にいるかもしれない。それを探すためにも積極的に社会とつながりたい。


コロナ禍から分かる、自分のできること

現在、コロナ禍で様々なものが制限されている。しかし、制限されることで自分の能力が明確になる時もある。小出さんは「オンライン環境では、自分の発信力を活かせないことが分かっている。だから強みである対面を生かす場を作り、待つことにする」と話す。制限され、選択肢が減ることで、自分の目的や能力がより見つかり易くなっているのだと思う。


「コスパ」か、それとも「模索」か

最後に、小出さんが思う現在の高校生の姿、意識して欲しいものを語ってもらった。今の高校生は、コスパや近道というものを好む。もちろん、目の前の進路の問題は急を要し、わざわざ遠回りして様々なものに触れ合っている時間がないのは分かる。しかし、「コスパの視点で判断して決めてしまうと、遠回りをすることで得られるものを失うことになる。僕が楽(ラク)をしてきたのは、他人の価値観ではなく、自分の『好き』を大切にしてきたから。」と小出さんは話す。

「楽」と「価値」のバランスを保つためには、まず自分の「好き」に飛びついてみるのが大事である。そして、そこでの出会いをもとに自分の視野を広げることが、自分のアイデンティティに磨きをかけることにつながるのではないだろうか。

私たち高校生は、他者の人生談から何を得るか吟味すべきなのかもしれない。


編集後記

高校生Author:平野央

用意周到で挑んだ、小出さんへのインタビュー。しかし、その準備とは裏腹に小出さんのためになるトークが炸裂!最初は緊張で喋ることができない時間が続きましたが、だんだんと慣れてきて対話をすることができました。
高校生ながら実社会を生き抜く知恵を分けてもらい大変充実した3時間でした。今後の私の使命として、周りの友達にも伝えていくことが求められていると思います。自分の中で完結せずに「口で」時には「行動で」示していければと思います。


高校生Author:鈴木陸

「対面でのインタビューを行う」という経験は皆さんも少ないのではないでしょうか。私は初めてでした。ましてや「実際的な目標を持ってそれを記事にする」というのは、あまりにも貴重な体験だと振り返ってみて感じます。人に接して得たものを他の人にも享受させるということを頭に置きながらも、自分の聞きたいことを聞いていく。ということはなかなか難しく、場数をこなすことによって身につく事なんだと感じました。皆さんにとってこの記事の内容を「読んだ」時、それが気付きの時間であったり、人生の転換点となったらとても嬉しいです。

写真・監修/齋藤亮次(はじまる学び場。)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?