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初期臨床研修と子育て、どう両立する? 出産・育児を迎える研修医を支えた環境と制度

女性にとって大きなライフイベントのひとつ、出産。
医師として働くための第一歩である、初期臨床研修。

取り組む内容こそ違いますが、常に変化を求められる環境に置かれるという意味では、どちらも心身ともに負荷のかかるプロジェクトといえるでしょう。

獨協医科大学には、この二大プロジェクトを同時に進めてきた人がいます。ひとつでも大変な初期臨床研修と出産をどのように両立してきたのでしょうか。

今回の記事では、初期臨床研修と出産を両立した医師のお二人に、当時の生活で苦労したことや支えになっていたこと、獨協医科大学病院の制度や体制で助かったことなどをお聞きしました。

《プロフィール》
・田崎みなみ先生
獨協医科大学医学部卒、獨協医科大学病院にて初期臨床研修の後、獨協医科大学精神神経科レジデント(後期研修)3年目。
獨協医科大学6年次に出産。

・齋藤美沙子先生
獨協医科大学医学部卒、獨協医科大学病院にて初期臨床研修の後、2022年4月より仙台にて小児科医として勤務。
初期臨床研修医1年目に出産。

出産から復帰までのスケジュールは?

――本日はよろしくお願いします。お二人とも獨協医科大学病院での初期臨床研修を子育てしながら両立してきたと思います。出産されてから復帰まではどのくらいかかったのでしょうか。

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齋藤:
初期研修医1年目の6月に産休をいただき、月末に出産、9月には研修に復帰しました。休止期間の上限である90日を超えずに復帰したので、2年間で初期臨床研修を終えることができました。

――もう少しゆっくり休もうとは思わなかったのですか。

齋藤:
たしかに、もう少し休みたい気持ちはありました。生まれたばかりの子どもと一緒に過ごしたい気持ちも強かったです。しかし、せっかく勉強して研修医になったのにも関わらず長期間休んでしまうのは不安だったので、早めに復帰することを決めました。そもそも入職1年目で産休を取ることができなかったことも、長期間休まなかった理由のひとつです。

――医師としてのキャリアを考えたうえでの選択だったのですね。田崎先生もあまり期間を空けずに復帰されたのでしょうか。

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田崎:
はい。大学6年生のときの卒業試験期間中に産休を取り、すぐに復帰しました。獨協医科大学は卒業試験が二回に分かれていて、一次卒業試験と二次卒業試験があります。各科目一週間ごとにテストを行うため、すべての科の試験を行うには3ヶ月ほどかかります。

私は一次卒業試験期間中の出産だったので、卒業までに残されているのは二次試験と国家試験のみでした。その年の初期臨床研修の期間から子どもを保育園に預けて働き始めたかったので、二次試験に間に合うように復帰しました。

私は他の大学を卒業してから獨協医科大学に学士入学しているので、同期の方とは6歳離れています。そのため、これ以上遅れを取りたくない気持ちもありました。

――田崎先生も、とても大変な期間での出産だったのですね。お二人のようにすぐに復帰するケースをあまり聞いたことがなかったのですが、最近では多いのでしょうか。

田崎:
そもそも初期研修中に出産された例は他にお二方しか知らないので何ともいえないのですが、休む方はしっかり休んでいますし、私たちのようにすぐに復帰する方もいると思います。

たとえば、知り合いに初期研修2年目で出産し、1年産休・育休を取得して復帰した先生と、3人のお子さんの産休・育休期間を経て、いま初期臨床研修を行っている同期の先生がいます。

下田:
すぐに復帰するのはあまりないケースだと思いますよ。齋藤先生が3ヶ月で復帰するときは臨床研修センターの事務スタッフが相当心配していましたから。

――なるほど、そうなんですね。


獨協医科大学病院で初期臨床研修をすることに決めた理由は?

――お二人はなぜ獨協医科大学病院で初期臨床研修に臨むことに決めたのでしょうか。

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田崎:
私が妊娠していた大学6年生のとき、既に夫が獨協医科大学病院の形成外科で専門医研修をしていました。また、宇都宮にある夫の実家を拠点に子育てをしようと考えていたので、私もそのまま獨協医科大学病院で初期臨床研修をすることに決めました。

――なるほど。齋藤先生はいかがですか。

齋藤:
そもそも私は、一定期間は栃木県で医療に従事することを条件とした栃木県地域枠という制度を使い、獨協医科大学に入学しました。そのため、県とお話して初期臨床研修の段階では獨協医科大学病院で研修することになっていました。

また、初期臨床研修が始まる前から妊娠が分かっていたので、出産を控えていることを考えると、慣れている母校で研修をした方が安心できるのではないかと思いました。じつは夫が仙台で働いているので、仙台に行きたい気持ちも少なからずあったんですけどね(笑)。

どのように初期臨床研修と育児の両立をしていたのか

――初期臨床研修をしながら子育てを行うとなると、どのような生活になるのでしょうか。

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齋藤:
私は実家が栃木にあるのでずっと実家で暮らしていて、家事などは母がほとんどやってくれており、子どもの面倒も母に見てもらっていたため保育園などには預けていませんでした。

とても手厚いサポート体制があったとはいえ、心も体も万全ではない状態の産後約2ヶ月で復帰したことによるつらさはありましたね。

復帰する前はどうにかなるだろう、とのんきに構えていました。しかし、いざ復帰してみると同期に比べて、私はできないことがとても多くて……。採血もできない自分と同期との間に大きな差があるように感じ、とてもつらかったです。仕事が終わっても、家に帰ると夜泣きで夜も眠れず、そんな状況でも朝は仕事に行かなければならないのはしんどかったです。

仕事も育児もつらいと感じてしまう、負のスパイラルのような状態は3ヶ月ほど続きました。仕事を頑張りたい気持ちと子どもと一緒にいたい気持ちの間で板挟みになり、毎日仕事をやめようかなと考えていました。

少しずつ心持ちが変わっていったのは、復帰した年に精神科を回らせてもらってからです。医療の基本的なことをいろいろと教えていただき、同期に助けてもらったり、少しずつ仕事ができるようになっていったりしました。同時に娘も大きくなってきたので、2年目からは仕事でも家でも元気に過ごせるようになりました。

――とてもつらい時期を乗り越えてきたのですね。田崎先生はいかがですか。

田崎:
働き始めてからは、獨協医科大学と同じ敷地にあるステラ獨協前保育園に子どもを預け、行き帰りのお迎えは私が担当していました。

両立するうえで大変だったのは、子どもの送り迎えや病気などで早退や欠勤が重なってしまったことですね。初期研修医1年目の頃は、子どもがあらゆる病気を幼稚園からもらってきて、最初の半年は仕事にならないくらい早退ばかりでした。私自身も娘から感染した溶連菌感染症で、40度の熱が出てしまい欠勤せざるを得ないときもありました。

また、子どものお迎えのため、新人にも関わらずカンファレンス中に抜けなければならないこともあったのは苦い思い出です。保育園のお迎えの時間が21時までと長めに預かってもらえるのですが、さすがに21時まで残っている子はいないので、20時くらいにはお迎えに行くようにしていました。そのため、どうしても最後まで残れないことも多かったです。

一番つらかったのは救命科の研修ですね。すべての科の中でも一番当直の多い科だと思うのですが、研修センターの方の配慮により、当直を免除してくださっていたので、他の方への罪悪感を覚えていました。そのため、他の時間で出来る限り働こうと考え、朝7時から夜9時まで勤務するようにしていました。しかし、あと3〜4日で終わるタイミングで持病により体調を崩し、入院することになってしまったのです。

救命科の後に、精神科の研修を入れていたのが幸いでした。入院期間があったので、4週間中2週間しかいられなかったのですが、下田教授をはじめ精神科の先生方があたたかく迎えてくれました。そのおかげもあり、途中体調を崩しながらもなんとか2年間で無事に初期臨床研修を終えることができました。

周囲の方や獨協医科大学病院の制度で支えられたことは?

――仕事も育児を両立するうえで、支えになっていたことはありますか。

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田崎:
精神科の先生に入局の相談をしたときのことが印象に残っています。その頃にはもう入局先を精神科かもうひとつの科のどちらかの科に入局先を絞っていたため、早々に相談にのってもらいました。

その際に、傾聴と同意をしながら相談にのってくれて、私生活の精神療法をしていただいたのがメンタル的な支えになりました。

齋藤:
同期に子育て中の人はいなかったのですが、各科には子育て中の女医さんもいました。その方が私のことを前情報で知って声をかけてくれて、心配や共感をしてくれたのはうれしかったです。また、女性だけでなく子育て中の男性の先生にも、子育てについての悩みを共有できて、それが心の支えになっていました。

――お二人とも周りの人に支えられてきたのですね。獨協医科大学病院の制度で助かったことなどはありますか。

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齋藤:
まずは、田崎先生が先ほど話に出していた当直の免除はとても有難かったです。また、研修では私が休みを挟んだことを考慮して、最初はゆるやかな科から始めて慣れてから大変な科にいけるようにローテーションを組んでくれていたので、とても助かりました。田崎先生も何かあれば補足をお願いします。

田崎:
他大学を検討したことがないので比較はできないのですが、獨協医科大学病院は臨床研修センターの方がとても親切だったと感じています。

大学6年生の夏に研修先が決まった時点で、臨床センターの事務の方にはどのように研修を進めるか面談していただきました。その段階では国家試験も通っていないので、医者になれるかもわからない状態にも関わらず真摯に対応してくださったため、安心して研修に臨むことができました。

事前に下田先生にも面談していただきました。臨床センター長が個人面談を入職前にしてくれるのは、他の大学では珍しいことなのではないでしょうか。

こうして研修前から相談する機会をいただけるのも、出身大学で研修するメリットなのではないかと思います。

――プログラムも柔軟に対応してくれていたのですね。下田先生、ここまで手厚くサポートしているのはどのような意図があるのでしょうか。

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下田:
僕も臨床センターの事務スタッフも、初期臨床研修を終えて完全な医師免許を取得(医籍登録)してほしい、と強く思っています。そのため、どうしたら初期臨床研修を終えられるか、どの科から始めるのがいいか、どのような手順で研修を進めていくかなどは相当考えています。

とはいえ、出産や子育てについては、考慮してもしきれない部分があると思います。気力が続かなくなってしまったり、子どもの体調が優れなかったりする場面は予測できないことですから。

しかし、予測できないケースを無視して研修を設計してしまっては、今後の大学教育が持続不可能になってしまいます。そのため、予測不可能なことにも柔軟に対応していきたいと思います。

――ありがとうございます。無事に初期臨床研修を終えてほしい思いからのサポートなのですね。

子育てとの両立でよかったことは?

――子育てとの両立で大変だったことはお聞きしたのですが、反対によかったことなどあれば教えていただけますか。

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齋藤:
研修でつらい時期は、子どもの存在が癒しでしたね。頑張るモチベーションとして、子どもの存在はとても大きかったです。最近はいやいや期も入ってきていて、もちろん癒しにならないこともありますけどね(笑)。

子どもがいることでオンオフの区切りがはっきりするので、仕事のときは仕事に集中して、家に帰ってきたら子どものことに切り替えることも最近はできるようになってきました。

また、来年からは小児科に行くので、以前よりは子どもを育てる親の気持ちに寄り添えるようになったのではないかと思っています。

――すばらしいですね。田崎先生はいかがですか。

田崎:
1年目のときに子どもがあらゆる病気をもらってきた話を先ほどしたとおもうのですが、その甲斐あってか、娘が強くなってここ3年くらいは全く熱を出さなくなり、休むこともなくなりました。そのため、2年目以降はしっかり研修に臨むことができました。

また、先ほど齋藤先生からお話があったのですが、同い年くらいの指導医の先生方で同じ年くらいの子どもを育てている方が男女問わずいるので、話すきっかけを得られた面もあります。どの科にいってもさまざまな先生と子育ての話題を通じて仲良くなれたのは、子どもがいてこその研修だったのではと思います。

これからの展望と、初期臨床研修に臨む方へのメッセージ

――今後、お二人と同じように子育てとの両立で悩まれる方もいらっしゃると思います。そういう方へ向けてのメッセージや、今後の展望などあれば聞かせてください。

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田崎:
子育てする環境は、実家が近くにあるかどうか、保育園はどうするか、パートナーは協力的かどうかなど、どのような要素を持っているかでそれぞれ違うと思います。私もまわりのサポートのおかげで、どうにか仕事と子育てを両立できています。

私は4月からは4年目となり、今年は精神保健指定医・精神科専門医の資格を取るための受験をする年になります。今年は難しいかもしれないのですが、頑張って1年で精神保健指定医・精神科専門医の資格を取りたいです。そろそろ2人目の子を迎えることも検討したいので、それをモチベーションに頑張りたいですね。

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齋藤:
子育ての環境は人それぞれですし、子育てしている人だけでなく研修医の同期が体調を崩したり休んでしまったりする場面もあると思います。獨協医科大学病院はとてもあたたかい大学なので、大変なときは制度や周りの人に頼っていいと思います。私も獨協医科大学病院のサポートのおかげでなんとかやってこれました。春から外に出るのがつらいと感じるほどです。

つらくてどうにもならないこともあると思います。でも、不安に思っていたとしても、意外と乗り越えられることも人生には多いのではないかと思っています。私も先の事をつい心配してしまうことが多いのですが、周りの力を借りて明るく頑張りたいと思っています。

これから初期研修に臨むみなさんが無事に研修を終え、ステップアップできるよう祈っています。本日はありがとうございました。

――前向きなコメントをいただけてうれしいです。お二人とも、ありがとうございました!

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