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40代の現実

 昨夜は頭痛と微熱とでなかなか寝付けなかった。こういう症状って、なんだろね。「バカは風邪ひかない」とか言うでしょ。私がまさにそれで、これまでの人生でたった一度インフルエンザにかかったことがあるだけである。

 45歳にしてめでたくバカが治ったか、それともやはり更年期のせいなのか、最近はしんどくて眠れなかったり、寝ても疲れが取れなかったり、微熱が出たり、「体調を崩す」などというなんとも自分らしくない悩み事を抱えている。まるでインテリだ。

 幸い、少しは眠れたのだろう。今朝は熱も下がり、頭痛も消え、すっきりと目覚めた。熱が出たと言うことは体内の悪玉と戦ったということで、そして我々が勝利したのだ。久々に体調がいいような気がする。うん。

 今朝は天気も素晴らしい。快晴で、涼しい風が吹いている。最高だ。今日ならなんでも出来るような気がする。NOTEもガンガン更新して仕事のアイディアも出しまくって、人命救助をしたり、何かで表彰されたり、何かで成功を納めたりしよう。よし、とりあえずはゴミ捨てに行く。外の様子を見てこようじゃないか。いつもより輝いているに違いないーー。


 玄関を出て私が目にしたのは、向かいのアパートに住む、むちむちに太ったおっさんの姿であった。裸でベランダに立っている。肉感がスゴイ。家族の洗濯物を干しているようだが、おはようございます、とも言いづらい。肉感がスゴイのだ。(さっきも言った)
 頭にはなぜだかサランラップのようなものを巻いている。なんだろう。世の中には、宇宙人に脳内をスキャンされないためにアルミホイルを巻き付けて頭部を保護する文化圏の人々もいるらしいが。ラップはなんだろうな。朝から毛染めでもしているのか。がんばっているようでよろしい。

 ちなみにとなりの部屋に住む青年も、むっちむちの太っちょである。素朴で礼儀正しく、どこかおにぎりを擬人化したような風貌だ。子供の頃はさぞや相撲部で活躍したことだろうが、「社会人になったらただのデブ」みたいな悲劇性が大変すばらしい。モテないだろうな。車は痛車で、在宅中はアニメなんかを垂れ流しにしてる様子で、たまに大音量で幼児の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。(どんなアニメだろうね?)


 ゴミ捨てから戻り、朝食を食べ、なぜだか急に「今日はウォーキングをがんばろう!」という気になり(太るのが怖くなった)、再び玄関を出る。

 すると目の前を、バカでかいカモシカが歩いていた。慌てて車の中に避難する。そういえばさっきから、ものすごいサイレンが鳴り響いていた。コイツを追っていたのだな。
 田舎だから野性動物に遭遇するのは簡単だけれど、捕獲するとか山へ帰るよう誘導するとか、どうにかしようとするとなかなか難しい。先シーズンは真っ昼間の駅のロータリーを熊の親子が歩いていたらしいし、うっかり散歩もしていられない。

 鹿は腹が減っているのか、民家の庭で洗濯物をもふもふやっている。角が短いからメスだろうか。かなりデカい。
 熊や猪が危ないのはみんな承知であろうが、鹿はおとなしいものと思っている人は多いんじゃないだろうか。私は数年前に巨大な角を持ったオス鹿に決闘を申し込まれたことがあるのでその怖さをよく知っている。メスだとて油断は出来ない。となりの太っちょとこの鹿を戦わせたらどっちが勝つだろう。いかん、不謹慎な想像だ。だが鹿が勝つに決まっている。鹿は臆病だから何度も突進する。馬のギャロップのように前足を跳ね上げ、堅いひづめでまずは青年の眼鏡を叩き落とすだろう。青年は「めがね、めがね」と拾おうとするが腹の肉がつかえてうまく屈めない。そこにさらなる突進だ。勝ち目などあるわけがない。
 だがもしもそこに、例えばおっさん太っちょがサランラップなんかを持って加勢に来たとしたら・・・いかん、不謹慎にも程がある。勝手に太っちょを戦わせてはいけない。だが勝算はある。ラップやガムテープなどは相手の動きを封じるのに案外、役立つものである。私は強盗撃退グッズとして、ベッド近くに握りの良い置物(殴打用)と、ガムテープ(捕縛用)を用意している。功を奏すかどうかは運次第であるが、何事もシミュレーションはしといたほうがいい。犯人の靴ヒモを左右で結んでしまうのはどうだろう。ずっこけるだろうね。ふふ。いや、それよりは寝たふりこいて、貯金箱でも持ってお帰り頂くのがいちばん安全かも知れない。あるいはタランチュラとかコブラとかを飼い慣らしておいて・・・いかん、いかん。なんの話だ。不謹慎だ。私は更年期なのだ。混乱しているのだ。なんだか急に疲れてきた。
 鹿の目を盗んで車から脱出し、部屋に戻る。今日は調子がいいと思ったのになぁーー。


 残念ながら、これが40代の現実だ。
 20代の頃は体調がいいのが当たり前で、不調などまだ経験したことがない。30代になってぼちぼち調子の悪い日も経験するようになる。肩が凝ったり、クマができたり、ここぞという場面で踏ん張れなかったり。そして40代に入るともう、基本的に毎日しんどい。疲れているのが通常。たまに「今日は調子がいい気がする」のである。またすぐに疲れるのである。


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