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連載エッセイ 『コロナ禍の下での文化芸術〜日本における2020年2月以降の音楽活動自粛を中心に』 1章の続き


連載エッセイ
『コロナ禍の下での文化芸術〜日本における2020年2月以降の音楽活動自粛を中心に』

https://note.com/doiyutaka/n/n3a715c4a552a


1章 (続き)
「2月下旬の政府によるコロナ対策のイベント中止要請や、安倍総理による全国一斉学校休校の影響で中止・延期になった事例」


【合唱でのコロナ感染例について】

(1)岐阜県のアマチュア合唱団の事例


※記事1
《合唱団感染者の利用ジムで1人感染 新型コロナ (岐阜新聞2020年03月26日 07:37)
https://www.gifu-np.co.jp/news/20200326/20200326-226928.html

可児市の合唱団、新たに1人発症
岐阜県などは25日、可児市に住む60代の女性と、愛知県犬山市に住む60代の男性の新型コロナウイルス感染を新たに確認した、と発表した。可児市の女性は、クラスター(感染者集団)の形成が懸念される合唱団のメンバーが訪れたスポーツジムの利用者で、犬山市の男性は合唱団メンバーだった。県内での感染確認は可児市の女性を加え計12人となった。(後段略)》

※記事2
《岐阜で初の死者、70代男性 クラスターの合唱団に参加 新型コロナウイルス (朝日2020年4月4日 13時09分)
https://www.asahi.com/articles/ASN4446D0N44OHGB005.html

岐阜県は4日、新型コロナウイルスの感染が確認されていた同県可児市内の70代男性が死亡したと発表した。同県内で感染者の死亡は初めて。(中略)
男性はクラスターが発生した同市内の合唱団のメンバーだった。》

※記事3
《岐阜 70代女性が死亡 県内5人目の死者 新型コロナウイルス (NHK 2020年4月21日 12時23分)》

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200421/k10012398191000.html


新型コロナウイルスに感染し、治療を受けていた岐阜県可児市の70代の女性が20日夜、死亡しました。女性は、新型コロナウイルスに感染し、今月4日に死亡した男性の妻で、岐阜県で感染が確認された人が死亡したのは5人目です。
(中略)
夫婦は、合唱団に参加しスポーツクラブも利用していました。》



これらの記事で見られるように、岐阜県可児市の夫婦がコロナ感染で相次いで亡くなったのは、同じ合唱団での活動と、その後のスポーツクラブ利用が感染のきっかけだった可能性がある。
もともと、合唱の活動を介して感染が広まったのか、それとも、合唱よりもスポーツクラブの方が主たる感染原因なのか、そこが明らかではないが、合唱を介して感染する可能性が否定できないことは間違いない。それも、合唱と一口に言っても、どんな場所で、どんな練習方法をとっていたのか? どんな楽曲をやっていたのか? 個別の状況を精査しなければ、どういう合唱活動が感染の危険が高いのか、が明確にわからない。
この事例について、政府や県は何か検証したのだろうか? あるいは、合唱活動を啓蒙している音楽大学や合唱連盟、合唱団の団体など、あるいは音楽家のユニオンなどは、この事例を検証したのだろうか?
もし検証されているなら、その結果は広く公表されるべきだ。そうでないと、コロナの緊急事態宣言の解除ののち、学校などでの音楽授業、合唱活動の是非を、どう判断していいのか、確たる根拠がないに等しいからだ。
具体的には、歌をうたうことで、飛沫はどの程度拡散するのか? どんな歌い方だと拡散しにくいのか? 合唱と、ソロで歌う場合の差は? 合唱と、軽音楽のヴォーカルの場合の差は? カラオケの場合は? などなど、疑問点は多数ある。
もし国内で具体例を検証する機会がないのなら、海外での研究事例はどうだろうか? 事例研究があるのなら、日本政府、文科省、合唱団体は参考にするべきだろう。
そこで、次に、オランダでの合唱団大量感染の事例を見てみよう。


(2)オランダ、アムステルダムの合唱団の事例


※記事
《2020年5月14日 世界の音楽ニュース
【警告】合唱はヤバい!アムステルダムの合唱団の集団感染ケース。130名中102名感染、4名死亡
https://mcsya.org/attention-choir-case-amsterdam/

※引用記事
「たった一回の受難曲上演が悲惨な結末をもたらす」(Trouw紙、アムステルダム)
https://www.trouw.nl/verdieping/die-ene-passion-die-wel-doorging-met-rampzalige-gevolgen~b4ced33e/

ブログ記者による記事内容要約

Het Amsterdams Gemengd Koor 「アムステルダム混声合唱団」:団員130名。アマチュア。
1928年創立。団員の平均年齢は50歳を越えている。
毎年2、3公演をアムステルダム・コンセルトヘボウで開催している。
3月8日(日)夜、コンセルトヘボウにてJ.S.バッハ「ヨハネ受難曲」公演実施。
聴衆は約1000名。数名感染?(「聴衆の感染はほぼなし」)
5日後に同ホールは閉鎖。
団員102人(約78%)が発病、重症化数名。
78歳の合唱団員(1名)が死亡。
団員の家族3名が死亡(恐らく上記団員とは別の団員の家族)
指揮者も重症化(のち回復)。
管弦楽を務めたオーケストラのメンバーも多数発病。
エヴァンゲリスト、イエス役を含むソリストも感染。
北イタリアや南オランダでの感染爆発との直接的なコンタクトはなかったとされる。
もちろん葬儀には立会不可。認められたのは花を送ることだけ。》


このオランダでの事例は、一般的な合唱のコンサートというよりも、欧米で伝統的に毎年、各地で行われるバッハの「受難曲」演奏会で感染した事例だ。この例は、バッハ「ヨハネ受難曲」演奏会で、この曲は日本でも人気の、バッハの宗教曲を代表する楽曲の1つだから、聞いたことがある人も多いだろう。日本での場合とは異なり、欧米、特にプロテスタント系の多い国では、これは音楽活動の事例であるとともに宗教的行事でもある。日本でたとえるなら、お祭りの事例に近いと考えることができるだろう。
上記記事にあるように、合唱団員100名以上が感染するという大規模な感染だ。しかし、その一方で、観客には感染者が出ていないらしい。
この事例ひとつだけでは、合唱活動の感染の可能性をどう考えるべきかわからない。だがとにかく、コロナ感染は合唱を介してかなり発生しやすい、ということは言えるかもしれない。一方、観客の感染例がなかったのが本当なら、客席までは、演奏者からの飛沫が届かないのだろうか? 会場の形状にもよるのかもしれない。欧米の演奏会上は、基本的に天井が非常に高く、空間が広いので、そういう会場での合唱なら、観客は感染しにくいという可能性はあるだろう。
だが、そうはいっても、会場が長方形や扇型のいわゆる一般的なホールの形状ではなく、ベルリンフィルのようなワインヤード型や、ウィーン楽友協会のようなシューボックス型、あるいは大阪のザ・シンフォニーホールのような、バルコニー席がステージの真上にあって非常に近い場合など、それぞれの会場によって可能性は変わるのは間違いない。
また、合唱団の位置がステージ奥の場合と、合唱だけの演奏のようにステージいっぱいに広がっている場合では、また可能性は変わるだろうし、オーケストラの前面に歌のソリストが並んでいるような場合も、客席に非常に近い位置で歌うことになるので、飛沫が観客に届くという可能性は否定できない。
このオランダでの例の他に、合唱や演奏会での大規模感染の事例があるのかどうか、現状まだわからない。日本政府、文科省、合唱団体や音楽大学、音楽関係団体は、こういう事例研究を急いで進めるべきだ。
そうでないと、学校などでの合唱、音楽授業などをどう扱うべきか、その根拠が得られないではないか。
この点で、ライブハウスの感染事例についても同じことが言える。



【ライブハウスでの感染例について】


1)
《ライブハウス感染「終息」 大阪府、12日以降確認なし 新型コロナ (日経2020/3/19 14:39)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56990400Z10C20A3AC8000/

大阪府は19日、大阪市内のライブハウス4店舗で行われた8つのライブの参加者について、新型コロナウイルスの感染拡大が収まったとする見解を発表した。開催から3週間が経過し、12日以降に感染が確認されていないため。16都道府県で83人の感染者が確認され、全国で最大規模のクラスター(感染者の集団)となった。
(中略)
ライブハウスを巡っては、「大阪京橋ライブハウスArc」(大阪市都島区)で2月15日のライブ開催以降、参加者の感染が相次いだ。府は同29日、該当する8つのライブの参加者にPCR検査の受診を呼び掛けた。》

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