見出し画像

エッセイ「クラシック演奏定点観測〜バブル期の日本クラシック演奏会」第22回小澤征爾 指揮 ボストン交響楽団 来日公演1989年

割引あり


エッセイ「クラシック演奏定点観測〜バブル期の日本クラシック演奏会」
第22回
小澤征爾 指揮 ボストン交響楽団 来日公演1989年


画像8



⒈  小澤征爾 指揮 ボストン交響楽団 来日公演1989年


公演スケジュール


1989年
12月
5日

大阪 フェスティバルホール
マーラー 交響曲第2番

6日 京都
7日 名古屋
9日 札幌
11、12日 東京
13日 静岡
14日 東京


※筆者の買ったチケット

画像1



小澤征爾は、言わずと知れた日本人指揮者の代名詞で、日本人にとってクラシック音楽を代表する人物だ。
それだけでなく、存命中の現役指揮者の中でも数少ない「巨匠」であることは間違いない。
近年、体調を崩していることが多く、その実演に触れる機会は少ないことから、小澤の振るステージはその全てが大事件だといっていい。
サイトウキネン・オーケストラを音楽祭で振る回数も減る一方だから、ニューヨークでの公演は、奇跡のステージとしてライブ録音がCDで大いに売れたようだ。そんなこんなを別にして、今回は、筆者にとっての小澤征爾体験を語ろうと思う。


筆者が小澤征爾の名を初めて知ったのは、音楽を聴いて、ではなく、本を読んでのことだった。当時、まだ小学生だったのだが、兄が小澤征爾のエッセイ『ボクの音楽武者修行』を持っていて、なんとなくそれを読んだのが最初だった。


※参考本
『ボクの音楽武者修行』小澤征爾
https://www.amazon.co.jp/dp/4101228019


その時は、「えらい人もいるものだなあ」と単純に感心しただけで、その指揮ぶりも知らず、どんな音楽を醸し出すのかもわからなかった。けれど、FMで小澤指揮のベートーヴェンの第9を聴いた覚えがある。それがボストン交響楽団とのものか、日本のオケとのものか、あるいはすでに出ていたレコード録音か、記憶は定かではない。そんなぐらいだから、演奏がどうだったかも、全く覚えていない。

筆者が小澤征爾の音楽を記憶している最初は、カセットテープで聴いたマーラーの交響曲第1番の演奏だ。これは、忘れもしない筆者が高校1年のとき、吹奏楽部でマーラーの交響曲第1番の終楽章を演奏するので、いろんな指揮者の演奏を先輩が聴かせてくれたのだ。その中に、小澤征爾指揮のボストン交響楽団の演奏するマーラーの1番(花の章付き)があった。この時の第1印象は、「意外に冷静な演奏だな」というものだった。
それというのも、このころ初めて自分で買ったLPレコードが、バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルハーモニックのマーラー交響曲第1番だった。このバーンスタインの定評ある熱烈な演奏と比較して、小澤征爾のマーラー1番の旧録音はずいぶん冷静で、きわめて正確ではあるがいささか冷めた演奏に感じた。この印象は、その時にまとめて聴いた他の指揮者による同曲演奏と比較しても、変わらなかった。例えば、のちに生演奏を聴いてすっかりファンになったアバド&シカゴ交響楽団のものと比べても、アバドの方がより精緻でありながら、小澤盤よりも盛り上がる熱い演奏だった。

結果的に、その第1印象は間違いなかったようなのだ。
今回の小澤&ボストン響の実演によるマーラーの交響曲第2番の演奏は、どうにも物足りなかったのだ。
あるいは好みの問題でしかないのかもしれない。また、フェスティバルホールのデッドな響きで聴いたせいもあったかもしれない。それでも、もう一つ盛り上がりに欠け、正確ではあってもちょっと冷たい演奏であるように感じたのだ。

さて、話が先走ったが、高校生の時の小澤&ボストン響によるマーラー1番の次に聴いた小澤の演奏は、ビゼーの『アルルの女・カルメン組曲』のCDだった。当時、小澤のCDはどんどんリリースされていたし、FMでもよくかかっていたはずだが、どういうわけかあまり聴いた覚えがない。マーラーやR.シュトラウスの大曲における小澤の演奏は、この当時、日本国内では高い評価を得ていたはずなのだが、なぜかあえて聴こうとしなかった。個人的な好みの問題なのだ。この頃の筆者は、バーンスタインかアバドを好んで聴いていた。特にマーラー演奏ではバーンスタイン流の感情移入の激しい演奏と、アバドの精緻を極めつつも歌心溢れる演奏と、両極端のものを選んで聴いていた。そうなると、小澤のマーラーはどうしても中途半端な生ぬるい演奏に思えてしまうのだった。


⒉  書物を通じて小澤征爾&ボストン交響楽団の魅力を知る

ここから先は

6,550字 / 9画像
この記事のみ ¥ 0〜
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/