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【読んだ本】完売画家 「絵描きは食えない」を変えたい(著者:中島 健太)(CCCメディアハウス)

タイトル通り、15年にわたり700枚の絵を完売してきた著者による、画家という職業で生き残っていくために必要なことをまとめた本です。

これも面白いと思った点を箇条書きに出来ればと思います。

【面白いなと思った点】

・人として、生活出来る手取り額は年収約200万円。これくらいあると、ギリギリ生きていける

・百貨店の最低価格である号(絵の大きさの単位)2万円の作家が、10号(53cm×33cm)の大きさの絵を30点描いたとする。この場合、2万円×10号×30点なので、600万円の売り上げとなる。しかし、ここから百貨店への支払いなどを踏まえると、画家の手元に残るのは3割、つまり180万円で、これだけでは200万円に届かない。32点売ってようやく達成することが出来る。このハードルがとても高い

・日本の場合、画家は売れないと30歳くらいでやめてしまう。作品は額縁に入れると5センチくらいの幅になる。これが25~30点くらい積み重なると、生活スペースを圧迫してしまう。(私の計算:6畳はざっくり270cm×360cm。シングルの布団の横幅は100cm。つまり、(270-100)÷5=34点が本当の限界の限界くらい)。これは、著者の本で繰り返し出てきます。

・画家が引退する時は、セカンダリー・マーケット(中古マーケット)で商品があふれかえり、プライマリー・マーケット(画家本人)から買うより、セカンダリーで買うほうがお得だ、という状況が起きたとき。こうなると、画家に依頼する人がいなくなるため、画家は廃業せざるを得なくなる

・「あいつは3年で消えるから、真似してはいけない」著者は大学3年の時から絵を売っていましたが、そんな著者を評して、武蔵野美術大学の教授が著者の同級生に言っていた言葉とのこと。著者は美大については批判的です。美大の教授たちは海に入ったことがないのに、声高に海での綺麗な泳ぎ方をレクチャーしているだけだと。

【本の感想】

・あくまで私個人の感想だけれど、著者の場合、学生のときから、「良い絵を描きたい」ではなく、「良い絵を描くことで食べていきたい」というところまで見据えて行動してきたのが、一番すごいと思います。本当に試行錯誤しながらやっている感じがあって、個人的に凄い好きなポイント。

・絵を売ることは確かに難しい、と思いました。20万円あれば、中古の軽自動車くらいなら買えてしまう。その値段だと、(余程のお金持ちを除いて)家族の理解も必要でしょう。どうすれば、画家から直接買うような人を増やせるのか

・粗く分析すると下記のようなイメージになります。

【読んだ本】完売画家 「絵描きは食えない」を変えたい(著者:中島 健太)(CCCメディアハウス)


私が読んだ記事や本では、日本にはお金持ちはいても、超大金持ちはいない。つまり①が少ないからだ、という論調が多かったです。

確かに、日本で数十億円する絵がホイホイ売れるかと言えばそこまでの資産家がいない以上、難しいでしょう。

でも、数十万円の絵を買えるくらいの世帯年収、という区切りで見れば、世界的に見ても間違いなく多いと思います。そもそも、実用性皆無の婚約指輪が何十万円で売れるのだから、経済的なことはあまり理由にならないはず

②は、漫画やアニメがこれだけ流行っている国で、興味を持つ人の割合が少ないとは思わないです。また、以前「美術展の不都合な真実」をレビューしたときに知りましたが、日本は企画展に限れば世界有数の来場者が見込める国でもあり、芸術に対する興味関心は元々高いといえます。

④は画家の自助努力や購入者の好みがあると思うので一旦議論の対象外、とすると、③に一番の改善の余地があると思っています。

・なぜ、こう思うように至ったかは、私が初めて絵を買ったときの経験を踏まえて、別の記事にしたいと思っていますが、端的に言うと、私はちょっと前まで、そもそも「絵というのは買えるものだ」という概念が頭に存在しなかったです。私の周りを見ても、絵を買うために例えばギャラリーに行きました、という人を聞いたことがありません。絵というのは、学校の美術の授業で描くもの、あるいは美術館で観るものである、という先入観が多くの人にあるのではないかというのが私の仮説です。

・美大教育については村上隆さんも批判的でした。というか、今まで出会った中で、美大に対して肯定的な意見というのを見たことがない気がします。

・ちなみに、著者とは全然アプローチは違いますが、「職業は専業画家(著者:福井 安紀)」(誠文堂親光社)も滅茶苦茶面白かったので、興味がある方はぜひ。これはこれで、またレビューも書きたいなと思っています。

・著者がどういう絵を描いているか見てみたいか興味を持った方は、著者がYoutubeをやっているので見てみてください。美人画が多いです。あと、声がカッコいい

【Next Step】

・日本橋高島屋で開催中の著者の個展に行く。絵は恐らく(値段的に)買えないと思いますが、本物を直接見られるだけでも楽しみです。

・この人は好きだな、と思う現代画家をtwitterで10人くらいフォローする。この著者に限らず、自分と同世代くらい画家の人たちがどう絵画と向き合っているかとか、凄く興味があるので。

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