ドイ・ストーリー(前編)

〜カラテチョップの軌跡〜(全部で前・中・後編、あります。

2020年2月13日(木)に長崎県大村市のコワーキングスペースscolaで開催された「第一回・廃業塾」で講演させていただいたものを思い出しながら書きました。思い出しながらの文章なので実際の講演内容とは誤差がありますが、それはそれで良いかと。

では、始まり〜↓

プロローグ

今回、吉田さん(a.k.a.カレー坊主)から「土井さんのブログに書いてあるようなことを話してもらえませんか?」っていうオファーがあって、シモキタ時代のこととか、大村に来てからのこと、カラテチョップのこれまでを振り返る機会をいただきました。ありがとうございます。

シモキタ時代の失敗は「自分がバカだったから」と、ひとくくりにしてきたんです。だって忘れたいもんね失敗って(笑)。

今回せっかくの機会だから、改めて掘り返してみると、いやいやちょっと待てよ、オレ、すごく頑張ってたし、真面目にやってたぞ!!

けど、それでも上手くいかなかったなー。それはなんでやろ??そこにはちゃんと理由があるんじゃないか??

今日はそのへんの「新たな気づき」を皆さんにシェアできたら、と思います。よろしくお願いしまーす。

第1章

「上京・就職・結婚・離婚」

京都で大学時代を過ごしてたんです。京都産業大学っていう学校。一応、就職活動したんですけど、決まっていた就職先に魅力を感じられず、内定を辞退して、そのまま卒業しました。はい!親不孝もの!!

京都大学のシネマ研究会に在籍させてもらい、ぼんやりと映画監督になりたいなあ、なんて思いながら印刷屋とブライダルカメラマンのフリーター生活を送ってました。

当時、同棲していた彼女にフラれて、まあ、ぼくが悪かったんですけどね、部屋を追い出されたんですよ。で、もう京都にはいたくないから、映画学校への入学を理由に上京を決めました。

大急ぎで飛び出したから所持金5万円しかなかった。リュックひとつで新幹線に乗って。東京に負けないように、なぜか金髪にしました。3回ブリーチしました(笑)

「映画美学校」っていう働きながらいける学校に1年行ってから、渋谷の映像制作会社に入社したんですけど、そこが「墨汁」なみのブラック企業で、2週間で逃走しました。逃走って、比喩じゃなくてほんまに逃げました。
行ってきまーすって言って、バイクでそのままピューって。

あ、実はこの頃、京都でフラれた彼女といつの間にか復縁して、東京に呼んで結婚することになってました。ご縁ですわな。

で、無職はまずいから、なんか仕事探そうと思って吉祥寺をぶらぶらしてたら、焼き芋屋がいたんです。東急ストアのとこに。軽トラで売るタイプのやつです。

ドアのところに「焼き芋屋募集」みたいなことが書いてあったんで「やりたいです!」って言ったら、「明日、花小金井の事務所に来て。」って言われて。

で、次の日に行って、焼き芋屋を始めたんですけど。全然儲からないし、社会からドロップアウトしたロクデナシみたいな人ばっかりだったんで(笑)、ここにいたら「マズイ」と思って、冬の間だけで辞めて、次に赤帽やって、これも雇い主が「私は神です」みたいなこと言う変な人だったんで、すぐ辞めて。

まあ、こんな感じで仕事が続かなかったんです。

結婚するし、長く続けられる職につこうと思い、飲食かなーって、なんとなくシモキタをブラブラしてたんです。

そしたら、店構えが可愛くて派手な「ベトナム料理屋」がアルバイトの募集をしてて。

大学生時代に休学してバックパッカーでタイ、インド、ネパールとか放浪してたから、いけるかなーって思って(笑)、このとき28歳くらいだから、この歳で始められる料理って限られてくるし、、それで、「サイゴン・デップ・ラム」というお店でアルバイトを始めました。

ベトナムには行ったことなかったけど、タイとかインドとかには行ったことあったから、同じようなもんでしょ、楽勝かなって。軽〜い気持ちでした。

それで、給料いっぱい欲しくて、めっちゃがんばったんです。そしたら、めっちゃ出世して、社員、店長、最後は系列のベトナムレストラン4店舗を管理するマネージャーになりました。やった〜!

性格的に真面目だったんですが、「正論がすべて、無駄にアツい、自己中」な要は面倒くさいタイプでした。時代とかのせいもあって全面的に僕のせいとは言えないんですが、自分の性格とかが空回りしたりしてて、店の業績もあんまり良くなくてね。

余談ですが、高校の吹奏楽でも部長やってたんですけど、同じく面倒くさい性格の「空回り部長」でした。やっぱ、同じ壁がいつまでもつきまとうんだなって思います。

あるとき、上司に「この業績だと土井くんの給料、3万円くらいだよ」って言われて、馬鹿正直に責任を感じて、「じゃあ3万円でいいです!」って、数ヶ月給料3万円のときもありました。アホでしょ(笑)。いまやったら絶対に言い返す自信あるけど、当時は弱っちいくせにカッコつけやったから言いなりですわ。

これには前妻も呆れてましたね。あ、結婚しました。1回目の。

この当時、前妻も副店長としてお店で働いてもらってたんですが、ぼくの仕事っぷりが頼りなくてイライラしてたみたいです。で結局、それが原因(って、ぼくは思ってる)で、離婚を突きつけられました。他にも原因あったんやろうけどね、ハハハ。

離婚したくなかったけど、前妻の決意も固く、「よりより」並に固く(←長崎ネタ)。離婚することになりました。本当にキツくて、ストレスでやけ食いして、激太りしました。そして、完全に自分に自信がなくなってました。。。

第2章

「独立・再婚・廃業」

その頃、幹部ミーティングの場でボスに
「土井、社長になれ」って唐突に言われて、「え?ちょっと考えさせていただいてもいいでしょうか?」って言ったら、「お前、すぐにハイって言えよ!」と怒られて。勢いで、「ハイ!」って言ったんです(笑)

4店舗あったお店を1店舗だけ残して、他は閉めることになり、シモキタの「リトルサイゴン」っていうお店を僕が買い取って独立することになりました。

当時のぼくは、ちょっとは独立願望があるにはあったけど、いきなりだったんで、さすがに戸惑いましたね。

「お前、今日からゴールキーパーやってね。」

「え?僕、痛いの嫌なんですけど、、」

的な??

けど、3店舗潰しちゃったっていうこととか、仕事できなくて離婚しちゃったとか、これまでにもいろんな仕事からも逃げて来た自分に自信を取り戻すチャンスかも、って思うようにしたんです。

よし、やってみよう!って。

やるしかない!

これがオレの運命だ!

って、「ロード・オブ・ザ・リング」のフロドばりに決意しました。

で、銀行で借り入れして、有限会社を設立して「リトルサイゴン」を買い取り、独立しました。

この「リトルサイゴン」ってお店、シモキタの商店街のど真ん中にあったんで、家賃が35万だったんですよ。30席くらいかな。おまけに銀行の返済が月10万くらいあったんで、利益出そうとすると、月に200万くらいは売り上げないとキツイですよね。定休日なしで1日7万円の売り上げが最低条件ですね。

この頃mixiが全盛で、これを利用したりして集客はできてました。こういうのは得意だったんで。これまでの失敗から、自分を省みて経営の勉強もちょっとずつしはじめました。

常連さんで応援してくれる人も増えてきて、この頃、エミちゃん(a.k.a.エミコチョップ)と出会いました(^^)その人達とも閉店後にあーだこーだ言って経営のこと話し合ってました。ちょっとずつお店も軌道に乗り始めてきて、楽しかったですよ。

けど、ぼくは肝心のお金の管理が苦手な方で。
サッカーでいうと、あ、サッカーやってたわけじゃないんですけど(笑)、とにかくゴール決めればいいんでしょ、みたいな。点取られたら、取り返す!的なそういうタイプ。

だから、お客さんが来ない時が弱い。守りが弱いっていうかね。結局、商売って「売上と支出の差額」がすべてですからね。いくら売り上げよくても利益出さないと、ダメ。

ずっと売り上げを上げ続けるっていうのも正直しんどい。常に攻めないといけないし。

「リトルサイゴン」の規模がちょっと自分的に重荷になってきて、キツイな〜って。で、試しに上司に「辞めたいんですけど」って言ってみたら、「何言ってんの?あんたの店でしょう」って言われて。

当たり前の話ですけどね(笑)

ああ、そうか、もう後もどりできないんだ、って。これまで、覚悟ができてなかったのかもしれません。

もう自分でなんとかするしかないんだ(←って、遅いわ!!)

家賃も返済も人件費もとにかくお金がかかるから、一人で回せるように小さいお店に移りたいなあって、なんとなく思うようになってまして、シモキタの近辺の駅、経堂とか、梅ヶ丘とか、池ノ上とかに物件を見に行ったりして妄想してました。

そんな折に、同じシモキタの系列店の「カラテチョップ」を買わないか?っていう話がきたんです。お店の規模も小さいし、一人で回せなくもないお店だったんで、これはラッキー!と思い、その話に乗りました。

保証金とか造作譲渡とかでお金いるから、このとき、また借り入れしちゃいましたね(笑)

「カラテチョップ」はベトナムカフェで、ベトナムカレーとフォーが人気メニューのお店。カフェなんで、デザートも充実してた。

当時、すでに有名店だったので、お客さんもついてて、場所もシモキタの中でも一等地にありました。

上手くやれば続けられるかも、って思いました。

でも、デメリットもあって、そのひとつが店の規模が小さいので、「売り上げの上限」があることでした。

家賃は23万円になって少し楽になったんですが、12席しかないから、その分、売り上げの上限も減って、でも返済額は減らないので、利益が出しにくいビジネスモデルになってしまいました。

おまけに、リトルサイゴンのときのお客さんも引っ張ってきたいから、こだわった丁寧な料理を出していきたい、と思っていたことも裏目に出たように思います。

「カラテチョップ」の立地は有名な劇場やライブハウスが集まってるエリア。全国的にも有数のエリアなので人の数がハンパないです。毎日「夏越祭り」(←大村ネタ)状態ですよ。

芝居やライブを観に来たついでに利用するお客様もたくさんいました。そういうお客様は急いでいる方も多く、「提供のスピード」が重要でした。もちろん「丁寧で早く」出せれば問題ないのですが、ほとんど一人でやってるので、どちらかを犠牲にするしかないのかなって。

で、料理の質は落としたくないので、結果、提供が遅くなってもいいから、ちゃんとしたものを出すという方を選択しました。

それが立地とマッチしてなかったのかもなあ、って、いまさらながら思います。

もしぼくがターミネーターだったら、あの頃にもどって伝えてやりたいですよ。「立地とマッチしてねーぞー」って(笑)

あ、お客さんは来てたんです。人気店でした。雑誌の取材も月一回くらいのペースであったし。

でもね、お金が全然残らないんです。
なんか根本的に間違ってる気がします、ってのも、後からきづいたんですけどね(笑)

もしデロリアンがあったら、あの頃に戻って伝えてやりたいですよ。「根本的に間違ってるよ!」って。

どういうことかっていうと、自分がやりたいこととをやっちゃってて、この店(場所)がやるべきことが出来てなかったんです。

もともとのオーナーがやってた頃のカラテチョップはコーヒーとかジュースを700円800円で出してた。すごいこだわったものではなくフツーのやつ。料理も簡単に作れるカフェ飯タイプのもの。

立地とか家賃を考えたら、「高単価で回転」させて、売り上げを作っていくモデルじゃないとダメ。

今思えばなんですが、僕は値付けが甘かった。ドリンクに700円付けれなかった。それに料理もリトルサイゴンからのお客さんのこともあったので、フォーのスープとか朝から時間かけて作ってた。カレーも元のレシピを変えて手間がかかるものにしちゃって(笑)、だから、お客さんは来ましたよ。

でもね、儲からないんですよ。ここですよね、大事なのは。美味しいって、お客さんは言ってくれてる、お客さんが増える、でも利益が出る体質になってないから永遠に儲からないんですよ(笑)

だんだんと資金繰りがキツくなってきて、光熱費や家賃を滞納する事態になってました。ガスが止められた時もあります。あれ、目の前で見たことない器具使って、止められるんですよ、で、営業出来なくなるから、急いでレジ金をコンビニに全部もっていってガス代払いました(笑)

ある月末に家賃が払えなくて、大家さんに電話したんです「待ってもらえませんか?」って、そしたらなんて言われたと思いますか?

「ダメです」

って(笑)。東京、怖いですよね、Jホラーですよ。

で、大家さんに直談判に行ったんですよ。蒲田にある会社まで。事情を説明しに。事情って言っても「お金がない」以外の理由ないですけどね。

2か月家賃待ってもらって、半年後にその分をまとめて払う、っていうことにしてもらって。でも「今後、一回でも家賃遅れたら、即退店」っていう念書も書かされました。

そのあとにも1回家賃の支払いが遅れそうになって、その時は常連さん30人くらいにメール送って、「家賃遅れたら出て行けって言われちゃったんです、助けて〜〜」って送ったら、みんな助けにきてくれて、ほんとありがたかった。

でも、もうだいぶ限界だなって感じてた。けど、閉店のイメージがなかったので、というか、怖すぎて考えたくなかったというのが本音。年齢も40歳手前だったし。

この頃エミちゃんと結婚してたんですが、ボクはほとんど店にいて、遊びにも行けないし、外食すらいけない。ほんとに申し訳ないって思ってた。お金のことでいつも喧嘩してた。

もう、いつも離婚寸前でしたよ。いまでは大村を代表するオシドリ夫婦ですから信じられないでしょ?

いよいよどうしょうもなくなって、家の家賃も払えないから店に住もうって本気で思ってて。さすがにエミちゃんが大反対しました。

ちょうど物件の契約更新時期が来てたんで、どうやっても更新料払えないし。。。

そのタイミングで、エミちゃんが「長崎に帰る?」って言ってくれたんで、今よりはマシな暮らしできるかと思い、親族もいるし安心かなというのもあって閉店(廃業)を決めました。

今でもハッキリ覚えてる感覚なんですけど、やっと楽になれる、っていう感覚。肩の荷が降りるというか。そういうのを実感しました。先のことはわからないけど、とりあえずは楽になれるかなって。


中編につづく


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