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道はだれのもの?やわらかい運動としての「みんなのアソビバ」のつくり方。

焼津駅前通り商店街をフィールドに、年に2回のペース(5月と11月)で「みんなでつくる、みんなのアソビバ」(以下、みんなのアソビバ)を開催しています。

シンプルに言えば、普段はこんな感じの商店街を、歩行者天国にして、

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こんな風に人工芝を敷くことで、みんなのアソビバをつくる活動です。2018年の冬に第1回目を企画し、気付けばこれまでに3回開催してきました。(2020年、2021年は残念ながら、現在の感染状況を踏まえて、開催を延期)

動画を見ていただくと、みんなのアソビバの様子が伝わるはず。

ドイツで見た「みんなのアソビバ」

もとを辿れば、2018年の秋。文科省の日独青少年指導者交流事業の派遣団に選ばれた自分が、ドイツの道遊びを目の当たりにしたのがはじまりでした。

普段だったら車が通る大通りには、道いっぱいに遊び場が広がり、道ゆく人が足を止めて、楽しそうに遊んでいました。印象的だったのは子どもに混じって遊ぶ大人たちの姿で、子どもたちがおばあちゃん集団に遊び方を教える場面も見掛けられました。

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「Macht Spiele!(直訳すれば「遊びのチカラ」)」と書かれた看板は、この道遊びの名前であり、コンセプトでもあります。

車がいない道路で人々が自由に遊んでいる姿は、まるで市民が道路を占拠しているかのようにも見えて、まさに遊びのチカラを体感することができた場面でした。

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なかには「鍛冶屋さんごっこ」ができる場所もあります。道路の真ん中でコークス(石炭燃料)を燃やし、鉄を熱する子どもたち姿はなんとも異様です(笑)

この場面を自分の目で見て、「よし、これを日本でもやろう」と思い立ったのが、みんなのアソビバのはじまりになりました。

なにを?どのように?ではなく、なんのために?

仲良くしている商店街の仲間に声をかけたり、ドイツで見てきたことの報告会を市内で開催したりして、仲間がだんだん集まってきました。

それから時間をかけてやってきたのは、「なんのためにやるか?」をたくさん議論することです。アソビバはあくまでもひとつの手段で、なにをやるか?どうやってやるか?よりも、なんでこれを商店街でやるのか?をきちんと話し合うことが重要です。

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よくある商店街のイベントは、その日だけ盛り上がるものがほとんどで、お祭りではあんなに人がいたのに、翌日は…。というのは、よくある話です。

ちなみに、What(なにを?)、How(どうやって?)よりも、Why(なんのために?)から行動した方が、より力強く、求心力が高くなることは、サイモン・シネックの受け売りです。

地域で開催されるイベントの多くは、なぜやるか?よりも、なにを?どうやって?を話し合う時間が多くなります。でも、なにを?どうやって?は、あくまでも小手先の話であって、それほど重要なことでありません。

会社などと異なり、ひとりひとりが対等な組織だからこそ、みんなのWHYを共有し、ひとつのコンセプトにしていくことが力強い活動をつくりだします。結果的に、WHYが明確になれば、WHATやHOWの意思決定も早くなりますし、惰性で続いていくことはきっとなくなるでしょう。

ちなみに、みんなのアソビバでは、下のような3つのコンセプトを掲げています。

①駅前通り商店街は大きなポテンシャルがあり、クリエイティブなエリアなのだ!
②「遊び」を通して誰もがまちの当事者になるのだ!
③公共空間を楽しく使い倒すのだ!

20代から70代の実行委員会、補助金は使わない。

「みんなのアソビバ」の大きな特徴のひとつは、実行委員会が20代から70代の多世代で構成されていることです。どうしてこんな風にできているのかとよく聞かれますが、気付いたらこうなっていたという感じです(笑)

メンバーは、商店街の商店主や有志の市役所職員、地域おこし協力隊などで、基本的に市役所や商店街組合などからは独立した組織になっています。

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70代のメンバーはこの地域の元自治会長の栗下さんというおじさんで、若者たちの応援役であり、ブレーキ役でもあります。みんなのアソビバは、地元の理解が得られなければ続けられない活動のため、こうして栗下さんが中に入ってくれていることは大きな支えになっています。

また、いわゆる普通のマルシェではなく、子どもを真ん中に据えたアソビバだったからこそ、多世代が参画できる活動になっていると実感しています。まさに「遊びのチカラ」です。

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加えて、みんなのアソビバの重要なポイントは、補助金を一切使わないことで、これが実行委員会の掟になっています。

もしかすると行政から継続的な補助金を得ることもできたかもしれません。でも、それは惰性で続ける原因にもなるし、みんなのアソビバで大切にする「遊び(余白)」が失われてしまう可能性もあります。

現状は、商店主からの出資や協賛金、マルシェへの出店料で成り立っていて、持続可能なファンディングの仕組みを試行錯誤しながらつくっています。

とはいえ、人工芝を敷くだけなので、それほど大きな費用がかからないこともみんなのアソビバの特徴のひとつです。実際にかかっているのは、初期投資の人工芝(約12万円)と毎回の保険代、チラシの印刷費程度で、人工芝は使いまわせることもあってかなりコスパの良いイベントです。

エリアの価値を高める装置としてのみんなのアソビバ

みんなのアソビバは、簡単に言えば商店街活性化のための活動です。商店主が中心になっていますし、商店街にもっと活性化させたい、シャッターをひとつでも多く開けたい、そう願っています。

その意味で、みんなのアソビバは、焼津駅前通り商店街のエリア全体の価値を高めるための装置として位置付けられています。

普段この商店街を通る人は、「シャッターばかりで寂しいね」「昔は賑わっていたのに」と、口を揃えて話します。日常的に商店街で活動する僕らからすれば、「いやいや、まだまだこれからでしょ!」「最近はけっこうおもしろくなってるんだよ!」と言いたいところです。でも、実態は道半ばだし、シャッターが多いのも事実。

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まずはこの商店街に関心を持ってもらいたい、可能性(ポテンシャル)のある場所だと感じてもらいたい、そんな思いが、みんなのアソビバに込められています。「商店街まだまだいけるんだぜ」ってみんなが一瞬でも感じられる日をつくりたいのです。

みんなのアソビバだから、準備もみんなでやる

そうした思いもあって、みんなのアソビバはその名の通り「遊び(余白)」を大切にしています。つまり、運営側で決めすぎず、みんなと一緒につくるのがアソビバです。

先ほどもお伝えしたように実行委員会はありますが、それとは別にアソビバサポーターがたくさんいて、いろんな形で参画してくれています。

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例えば、みんなのアソビバの開催2−3週間前に、SNSで「準備を手伝ってくれる人募集!」の案内が流れます。そうすると、毎日のように誰かが準備を手伝いに来てくれて、みんなで一緒に準備をしていきます。

はじめましての人も来てくれて、そこに出会いがあったり、差し入れを持ってきてくれる人もいるので、それをつまみに時にはお酒を飲みながら、みんなでワイワイ準備をしています。

前日になって突然「パチンコ台をつくろう!」ということになり、「え?いまから?」と笑いながら準備したこともありました。

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地域のイベントが続かない大きな理由は、運営が大変になってしまうからだと常日頃感じています。であれば、準備段階をどんどん開いて、みんなに手伝ってもらうことで、負担を分散していけばいい。

みんなが楽しくなる場をつくるんだから、みんなで準備をするのは当たり前です。それに意外と本番よりも準備の方が楽しかったりしませんか?(笑)

ゼロから企画はできないけど、乗っかりたい人はたくさんいる

みんなのアソビバでは、準備のみならず当日の運営もアソビバサポーターが活躍してくれています。1番の大仕事は、倉庫から芝生をおろして道に敷く作業で、とても実行委員だけでは手が足りません。

準備段階から含めると、直接・間接的に100人近い方が、みんなのアソビバづくりに参画してくれています。本当にありがたいことです。

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どうしてそんなにもたくさんの人が手伝ってくれるのか?と聞かれることがあります。

各実行委員との関係性のなかで、お手伝いに来てくれている人が多いのもひとつですが、それだけでは継続しませんし、主体的に関わりを持ってくれる人もきっと少数です。

それでもみんなのアソビバに多くの人が集まるのは、なんらかの形でまちと関わりを持ちたいと思っている人が想像よりもたくさんいるからではないかと感じています。

つまり、ゼロからなにかを企画するのは大変だし、労力がいることだけど、すでに企画されているなにかに乗っかって、自分も企画のプロセスに関わりたいと思っている人が多いのではないかと考えています。

消費から主体、表現、創造へ

さらに言えば、アソビバサポーターは、いわゆるボランティアと異なって、主体的でやらされ感のない活動です。準備活動ひとつとっても、既にやることが決まっているわけではなく、そのひとの得意を生かした作業をお願いしています。

また、準備段階でなにか提案があればどんどん受け入れていきます。プロセスを共有することで、実行委員も想像し得なかったアイデアが出てくることもあります。

言うなれば、「みんなのアソビバづくり」の対話型ワークショップを準備から本番までずっとやっているイメージで、自分を含む実行委員はファシリテーターのように振る舞っていきます。もちろん大筋は決まっていますが、主役はみんなであることが重要です。

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その印象的なエピソードとして、重機屋さんの鯉のぼり釣りがあります。

みんなのアソビバ開催の約1ヶ月前。知り合いの重機屋さんと飲んでいて、みんなのアソビバの話になりました。ちょうどこどもの日に合わせた開催だったので、鯉のぼりを飾る計画の話をしていたら、重機屋さんの方から「うちのクレーンで吊ってみてもいいかな?」と提案がありました。

「え?そんなことできるんですか?」と思いつつも、おもしろそうだったので「やりましょう!」と話して、安全管理や配置、当日の風の強さなどを検討し、アイデアが本当に実現しました。

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高く空を泳ぐ鯉のぼりは、過去のみんなのアソビバのなかでも、とくに印象に残っています。なによりも重機屋さんがこんな形で商店街に関わってくれたことが嬉しかったです。

遊びは誰かにやらされるものではありません。この世で最も主体的な活動と言っても良いでしょう。だからこそ、アソビバの準備や運営に関わる大人たちも主体的で、自己表現的で、創造的であってほしいと考えています。

人が足りないからで集められる受動的で、消費的なボランティアではなく、それぞれが楽しく、関わっていたい、こんなこともしてみたいと生き生きできるのがみんなのアソビバでありたいと願っています。

人間の動機付けは、内発的なものと外発的なものに分けられ、地域活動で言えば、他人の目だったり、知り合いだから仕方なく、といった外的な要因は外発的動機付けに分類されます。

逆に、自分の中から湧いてくる単純な興味や関心に基づくものが内発的な動機です。つまり、みんなのアソビバは内発的動機付けによる地域活動をいかにして展開できるかの実験だとも言い換えることができます。

その意味で、遊びは人間の最も内発的な活動であり、みんなのアソビバは、そのプロセス、そして当日のイベント内においても内発的動機を一番に考えています。

口コミだけで1000人が遊びに来る理由

毎回1000名近くが来場するみんなのアソビバですが、実はほとんど広報をしていません。広報をせずとも人が集まる仕組みをつくっているとも言えるかもしれません。

上にも書いたように、みんなのアソビバはプロセスを開いているので、開催日までにアソビバの主役(参画者)がどんどん増えていきます。準備を手伝ったり、プロセスに関わることで、みんなのアソビバがその人の中で自分ごとになっていきます。

自分ごとになる人が増えれば、それぞれが勝手に広報してくれるので、実行委員会が頑張らなくても人が集まっていきます。例えば、10人が自分ごとになっているイベントよりも、100人が自分ごとになっているイベントの方が、たくさん人が集まるのは言うまでもないでしょう。

最強の広報手段は口コミなので、口コミをする人がたくさんいた方が、力強い広報になっていくわけです。

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具体的には、実行委員会でチラシをある程度刷っておいて、「チラシが印刷できたので、配ってくださーい!」と、アソビバサポーターを中心にSNSなどで呼び掛けをします。

そうすると、「ここに貼りましたー!」と次々に報告がきて、知らぬ間にまちのあちこちにポスターが貼られていきます。こんな参画の遊び(余白)も、みんなのアソビバの醍醐味です。

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また、子どもを真ん中に据えたアソビバが、人をたくさん集めているとも分析できます。子どもが来れば、お父さん・お母さんも来るし、場合によってはおじいちゃん・おばあちゃんもやって来ます。子どもに優しい空間は自然に人を呼び込みます。

あえてスタッフと来場者の境目を曖昧にする

みんなのアソビバに来ると驚くのは、誰がスタッフで誰が来場者なのかがよくわからないことです。(正確には黄色いバンダナをつけているのがスタッフです)

「みんなでつくる、みんなのアソビバ」にこだわっているので、サービスを提供する側とされる側の境界を曖昧にして、あくまでも運営は場を提供しているだけのスタンスでいます。

このことを西川正さんは『あそびの生まれる場所ー「お客様時代」の公共マネジメント』のなかで、「サービスワーク」と「コミュニティワーク」に分類して説明しています。

「サービスワーク」は、サービスを提供する側とされる側が明確に分かれる仕事のことで、「コミュニティワーク」は、その境界が曖昧で「私(たち)はこの場や社会の当事者なのだ」「私(たち)もなにかをすることができるかもしれない」の意識が生まれるように働きかける仕事や活動のことを指しています。

この定義に沿えば、みんなのアソビバは、コミュニティワーク活動であり、ひとりひとりがアソビバの当事者となって、「みんなでつくる」を実現することを目指しています。

その価値観を表現するために、みんなのアソビバでは、下のような看板を出しています。

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「みんなでつくる、みんなのアソビバ」は、市⺠有志がボランティアで運営しているまちづくり活動です。子どもから大人まで、色んな世代がまちで遊ぶことを通じて、まちの主 人公になることを目指しています。今日はひとりひとりがまちの主人公の気持ちでアソビバでたくさん楽しく遊びましょう!
5つのおやくそく
その1  自分で決める!
 アソビバで何をするかは自分で決めよう!子どもでも大人でも「やりたい!」と 思ったら自由に遊べます。新しい遊びもどんどん考えよう!

その2 だれもお客さんにならない!
みんなのアソビバでは、みんなが主人公です。 お客さんになっていそうな人がいたら「一緒に遊ぼ!」って声をかけてあげてね。

その3 問題が起こったらみんなで話し合う!
ここはみんなでつくる、みんなのアソビバです。 もし何か問題が起こったら,みんなでどうしたらいいか話し合って解決しよう。

その4 指示・命令は禁止!
 みんなのアソビバには先生はいません。「こうしなさい」「これはダメ」は禁止 です。

その5 どうしても困ったらスタッフに!
あぶないことやどうしても困ったことがあったら,⻩色いバンダナをつけているス
タッフにおしえてください。

普通のイベントであれば、なにかトラブルがあったときに、スタッフに伝えて解決を求めます。みんなのアソビバでは、誰がスタッフか分からないから、自分たちで解決するしかありません。

ちょっと無理矢理かもしれないけど、こんな風に主体性が引き出され、みんなが当事者になれるのが、みんなのアソビバの大切にすることです。

まちを変えるやわらかい運動体として

最後になりますが、みんなのアソビバは、「まちを変えるやわらかい運動体」だと考えています。

もしかすると、見た目は楽しそうなただの地域のイベントかもしれません。でも、目指しているのは、遊びという人間の最も主体的な活動を通じて、まちのお客さまから主人公を増やすことです。

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これまでまちは、モノやサービスを消費する場所でしたが、これからは自分たちの手でつくりたいまちをつくっていかなければ、まちが消滅してしまうかもしれません。

普段は関係のない商店街、道が、1日だけでも、みんなのアソビバになる。誰も何も感じていないかもしれないけれど、ドイツで見たあの景色が、焼津につくれたことにひとりでニヤニヤしています。

2018年から焼津ではじめた「みんなのアソビバ」は、県内各地にその思いが飛び火していって、磐田市や菊川市、袋井市、そして県を超えて石川県加賀市でも実施されはじめました。

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焼津ではじめたやわらかい運動は、確実にその思いを各地に広げていることを実感しています。

その昔、車がなかった時代には、道はみんなのものでした。道遊びは普通のことだったし、市民の憩いの場として機能していました。現代になって、車に道は占拠され、いつからは道は誰かまかせの場所になってしまいました。

人口が減少する新しい時代になって、私たちは改めて「公共」のあり方と向き合う時期にきています。私たちは、小さくて、やわらかい運動から新しいまちの形を模索していきたいと思います。

実は下の記事に書いた「みんなの図書館さんかく」よりも前からはじめているのが、「みんなのアソビバ」なのです。


土肥潤也/JUNYA DOHI コミュニティファシリテーター。1995年、静岡県焼津市生まれ。静岡県立大学経営情報学部卒、早稲田大学社会科学研究科修士課程 都市・コミュニティデザイン論修了、修士(社会科学)。2013年から若者の社会・政治参加に関する活動に参加し、2015年に、NPO法人わかもののまちを設立。静岡県内を中心に、全国各地でわかもののまちづくりの中間支援に取り組む。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。焼津のコーディネート集団として、市民活動センターの運営や本を通じたコミュニティづくりを実践中。内閣府 若者円卓会議委員、元内閣府 子供・若者育成支援推進のための有識者会議 構成員。

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