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断尾によってイヌの身に起こること〜"個人情報"がダダ漏れなんですけど
イヌは尻尾を動かすことで、表現に幅を持たせていますが、尻尾の信号を自由に送れないイヌが多数存在しています。
人間が尻尾を切ってしまうからです。
断尾の習慣のある犬種は、プードル、ヨークシャー・テリア、ドーベルマン、コーギーなど50種以上に及びます。
尻尾を切るのは、何のためなのでしょうか?
断尾の歴史を紐解く: 冗談のような本当の話
古代ローマ時代には、狂犬病の予防になると信じられていたといいます。まったく科学的根拠を欠いた迷信ですが、実際に、子イヌの尻尾を噛み切る人がいたそうです。
税金逃れが目的で尻尾が切られた例もあります。
19世紀初頭のイギリスでは、家畜に課税されていました。課税の対象となった家畜の定義は、「人間の親指より長い尻尾を持って生まれる獣」というものでした。
そこで農夫たちは、オールド・イングリツシュ・シープドッグに尻尾なしで生まれてくるイヌがいることに目を付け、生まれてすぐ尻尾を切り落としたイヌと元から尻尾のないイヌを混ぜて申告することで、税官吏の目をごまかして、まんまと税逃れをしたそうです。
断尾にまつわる歴史を紐解くと、こうした冗談のような話が出てくるのですが、いずれも事実として記録されたものです。
「断尾という悪しき習慣が定着したのは、尾を短くすることで見栄えをよくしようとする犬種標準があるせいだ」という声を聞きますが、実際のいきさつはそう単純ではないようです。
断尾が定着したそれなりの根拠
断尾が習慣化したのは、実用的な理由からでした。
狩猟中に茂みに分け入ったイヌが、イバラなどで尻尾を傷つけることが多かったので、それを避けようとしたのです。
また、護衛犬が侵入者に尻尾をつかまれて身動きがとれなくなってしまうことがないように、断尾するようになったといいます。
つまり、尻尾を切ることでワーキング・ドッグが働きやすくなるという理由です。
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実際、スウェーデンでジャーマン・ヘアード・ポインターを対象に調査したところ、断尾されていないイヌの半数以上が、その尻尾に何らかの治療を必要とするレベルの怪我をしていたということです。
ただし、今の日本で、断尾が施されているのは、これとはだいぶ事情がちがいます。日本で暮らすイヌのうち、いったいどのくらいのイヌが、ワーキング・ドッグとして働いているでしょうか?
尻尾を切断された姿が理想像?
断尾は、 ケネルクラブによって断尾された姿がその犬種の”理想像”とされており、それに沿う形で慣習的に行なわれている、いわば「美容目的」なのです。
たとえば、JKC(ジャパンケネルクラブ)のサイトの「犬種標準の改正について (2019 年2月20 日時点)」 というページのドーベルマンの項のPDFを開いてみると、以下のように謳われています。
ドーベルマン
付け根は高く、おおよそ2つの尾椎が明確に残る程度に断尾する。
断尾されていない尾は、自然なままの状態で、理想的にはわずかにカーブして高く 保持している。
JKCは「犬種標準」について「それぞれの犬種の理想像を作りあげて記述したものであり、ドッグショーの出陳並びに計画繁殖する犬の参考にする」と説明しています。
動物福祉の視点から
生まれて間もない時期に尻尾を切断される子イヌは、苦痛で悲鳴を上げると聞きます。以下は、施術に立ち会った体験を持つドッグトレーナーさんのツイートです。
0週齢の無麻酔断尾が痛みを感じにくいというのは疑問があります。昔、0週齢コーギーの断尾に立ち会いました。獣医が切るとき仔犬は泣き叫んでいました。尻尾の切断に対する痛みなのか、身体を押さえられてる事への拒絶なのかは分かりませんが、手術行為に対して不安(拒絶)を示していたのは確かです。 https://t.co/9Qrrn6CdAy
— タローの主@犬と歩けば棒にあたる (@taronushi) May 13, 2021
近年の研究で、ヒトの新生児および子イヌは、以前に信じられていたように 、未成熟なために痛みをあまり感じないのではなく、 むしろその逆で、痛みに対して過敏性であることが判明したと報告されています。
動物福祉の観点からも、「断尾はやめるべきだ」という声が上がるのも、当然でしょう。
獣医学的にも、重大な指摘がされています。 成長後も慢性的な痛みが生じ、一部のイヌの攻撃性の原因 となっている可能性があるというのです。この場合の攻撃的な行動は、物理的な接触を避けるための防御反応なのだそうです。
次は、カナダ在住の飼い主さんのツイートです。
日本ではしっぽを切った #コーギー が一般的ですがわたしが住んでいるカナダではコーギーに関わらず尻尾を切る行為は違法です。ふさふさコーギーもかわいいですよ🐶♥️ #動物愛護 の意味も含めて日本もそうなるといいなあ…という希望も込めて!
— 極北田舎暮らし🏳️🌈🗻🇨🇦 (@lifeinnorthYT) February 16, 2021
ちなみにカナダではペットショップに犬猫はいません。 pic.twitter.com/NpYyBNvUuO
ああそうそう。
これは別の飼い主さんが言っていたことですが、生まれつき尻尾がなかったり、ボブテイルのコーギーもいるそうなので、「尻尾無し=断尾」というわけではありません。以上、念のため。
カナダに限らず、 ドイツやイギリスなど世論の圧力によって、断尾が禁止されている国もいくつかあります。
ヨーロッパでは、国によって断尾へのスタンスに温度差があるものの、1992年に発効した“The European Convention for the Protection of Pet Animals and tail docking in dogs”という欧州条約によって断尾の廃止が謳われているのです。
尻尾が「ある」ことの意味
家庭犬にとっては、尻尾があることによるマイナスよりも、ないことによるマイナスのほうが大きいはずです。
なぜでしょう?
尻尾の有無は、イヌたちのコミュニケーションに大きく影響するからです。
断尾されたイヌは、ふつうの尻尾を持つイヌに比べてボディー・ランゲージの幅が狭まります。尻尾を左右にふったり、上下に動かしたりできないということは、社会的信号を送る手段のひとつをなくしたということです。
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知っておきたいこととして、イヌたちは、視覚的信号としてだけでなく、
においの信号としても、尻尾を動かしているという点です。
イヌは恐怖や強い不安を感じると、尻尾を下げて後ろ足の間にたくし込む
ことがあります。 このしぐさをするときは、体も低くして、背中を丸めます。
なぜそんなことをするのでしょうか? これには2つの理由があります。
まず、ボディーランゲージとしての意味があります。
「あなたと戦う気はありません。どうか攻撃しないでください」
と言っているのです。
もうひとつは、このしぐさをすることで、肛門腺に蓋をすることができるからです。
イヌの肛門腺には、アポクリン細胞という特別な細胞が集まっていて、フェロモンの貯蔵庫であり、発生器にもなっています。
そのしくみの一部はスカンクの香腺と共通するところがあるといわれています。
イヌたちはこのフェロモンを嗅ぎとることで、相手の性的な情報だけでなく、そのときの気分や自信の有無などもつかむことができると考えられています。
後ろ足の間に尻尾をたくし込むというイヌのしぐさについて、動物行動学者のディズモンド・モリス博士は、「 不安な人間が顔をかくすしぐさと同じ意味を持つ」と言っています。
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要するに、「攻撃しないで」とサインを送っているものの、自分が恐怖にかられていることはかくしておきたいということです。
これに対して、尻尾を上げるのは、自分の「個人情報」を公開して、自己アピールをしていることになります。
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尻尾で肛門線に蓋をすることができず、「個人情報」を常に公開しながら歩くことになります
イヌが尻尾を両足の間にたくし込むのは、肛門腺に蓋をすることで「におい情報」をかくす目的もあります。
かくしたい理由は、個々のイヌの事情によって違うことでしょう。ただ、相手のイヌを信頼していないという点では、共通しています。尻尾がなければ、信頼できない相手にも、個人情報をさらすことになるのです。
このように考えると、断尾には慎重にならざるを得ないでしょう。
とは言うものの、尻尾がなくても、うまくやっていけるイヌたちがいるのも事実です。「尻尾がない? だったら他の方法でコミュニケーションとればいいでしょ」と言わんばかりに、たとえば、コーギーには、気分を伝えるのに役立つ大きくて表情豊かな耳があります。
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💁🏼堀も賛同しています!
「犬の断耳・断尾を動物愛護法で禁止してください!」というキャンペーンです。署名の提出先は、環境省と「動物福祉(アニマルウェルフェア)を考える議員連盟」です。
※この記事は、ブログAkira Hori Finderに2021年5月14日に投稿した「断尾によってイヌの身に起こること:個人情報がダダ漏れなんですけど」を加筆補正した上で転載したものです。
✳︎参考文献
Tail Docking in Dogs: Historical Precedence and Modern Views |Jill Kessler
犬と人の生物学 夢・うつ病・音楽・超能力 | スタンレー・コレン、三木直子訳
ドッグウォッチング|デズモンド・モリス、竹内和世訳
⏬投稿後に皆さんから寄せられたTwitter上のコメントを紹介します。
ヨーキーもそうですね…短くされます。
— シグ (@shigvani) August 6, 2022
ブリーダーが無麻酔で裁縫用の握り鋏で切る例も知っています…。「ペットはこれで大丈夫。ショードッグは獣医にやってもらう。」そう言ってました😔
こんな闇があるのを多くの人は知らないわけです……。
うわわ、ひどい話ですね。尾てい骨のあたりがむずむずしてまいりました。
やはり断尾時痛いはずですよね。
— あがのかみ@絵と犬の人 (@wanbira) August 6, 2022
トリマー学校在籍時、トイプードル子犬の断尾の見学がありました。
繁殖者いわく「痛がらない子犬のうちに。そういう運命だから」と鋏で切って焼きごてを当て、子犬は悲鳴をあげていました。
それを見せられたこちらとしても、忘れられないトラウマです。
悲鳴を上げるというのは、痛みの限界を超えたということなんでしょうね。
1996 年にオーストラリアで実施された調査では、調査対象の獣医師の76% が、断尾は大きな痛みを引き起こすと考えており、痛みを経験しないと信じている獣医師は 1 人もいなかったといいます。対照的に、ブリーダーの82% は、断尾された子イヌは痛みをまったく感じないか、軽い痛みしか感じないと考えています。 獣医師とブリーダーの認識には著しいギャップがあるということです。
元は勤務先の看板犬だったのを事情があり引き取ったのですが、若い時は平気なように感じてましたが、年老いて身体能力が落ちるとバランスをとるのに苦労していたように感じました。
— ふらっぐ・ている (@flagtail) August 6, 2022
元々備わっている物を取るのはやめるべきだと思いますね。
引き取ったのは(断尾された)オーストラリアンシェパードだそうです。本稿では触れなかったんですが、体のバランスをとるのも尻尾の大切な役割の1つです。 尻尾をなくすことで、バランスを失うというのは犬にとって問題が大きいようです。
私はテールとても大事だと思いますし、私が挑戦の場にしている🇸🇪は断尾した犬のショーなどへのエントリーは不可能です。うちにはテール切ってる国内組がいるのでより尾の舵取りなどの必要性を感じてます。
— Kennel Astrea (@AstreaKennel) August 6, 2022
ブリーダーさんからのコメントです(引用リツイートありがとうございます)。
身体のバランス上、尻尾が大切だと力説されています。 スウェーデンでは尻尾を切るとドッグショーにエントリーができないとのことです。
ドイツやイギリスなどが断尾や断耳を禁止しているのに比べ得てアメリカは遅れていてどちらも一般的です。それでも最近は垂れ耳のグレートデーンやドーベルマンも増えて来た印象ですが。
— AkiGunning@webwriter (@Aki_Gunning) August 6, 2022
米国獣医師会は断尾と断耳に反対の立場を表明していますが、アメリカンケネルクラブは断尾断耳を支持しています。
米国事情についてのツイートありがとうございます。
ご参考までに紹介しておくと、上記に挙げた参考文献の中で、著者のJill Kessler氏は以下のように述べています。
「現在、米国を除くすべての先進国では、イヌの断尾を完全に禁止しているか、厳しい制限を設けており、特定のガンドッグの犬種にのみ許可が与えられており、手順は獣医師によって行なわれなければなりません」
これは笑えませんよ。日本は、そもそも先進国には含まれないと見なされているわけです。 ちなみに著者は、獣医学的な知識のある米国のドッグトレーナーです。
尻尾コーギー何頭も犬友にいますがブリーダーのほうで切るのが多いそうですね 写真は犬友です pic.twitter.com/zJIkZlpweO
— 列風 (@reppuu_happy) August 6, 2022
最近では、「断尾しないでね」と前もってブリーダーにオーダーし、 自然のままの姿の(尻尾がある!)子イヌを意図的に入手する飼い主さんが増えつつあるということかもしれません。
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