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長夜の長兵衛 梅子黄(うめのみきばむ)


塩梅あんばい

 
 
まだ少し若いな。色と艶が出るまで、もちっと。
 と、久兵衛きゅうべえがこちらを見るので、長兵衛はなにやらむずむずとするのである。
 なにごとも、よい塩梅というものがある、うむ、儂もなかなか洒落たことを言うものだ。
 長兵衛が一向に応えぬので、久兵衛の顔が怪訝そうに、そしてぱあっと戯れるようにと変わる。
 ははあ。お主、さっきすれ違うた娘御のことを考えておったであろう。
 いえ、あの。
 豪快な久兵衛の笑い声。長兵衛は思わず顔を赤らめた。
 梅の話よ。そもそも、われらは安兵衛の頼まれごとをして来たのであろうが。
 菓子屋の大旦那、安兵衛の道楽である小さな梅林。そろそろ、実を摘めるであろうか、と二人して様子を見にいった帰りである。
 もちっと色が出てからの方が、梅干には良いのだぞ。さすれば飯も、御菜おさいも、ますます旨くいただけるというものよ。

 いや確かに。男も女も、そういうものかもしれんな。
 久兵衛が真顔で言うもので、長兵衛はもう一度顔を赤らめた。
 
 
 

<了>


photo AC by  mi ru si



 本年の梅子黄は6月16日~6月20日頃。
 遅れても遅れながらも続きます!


 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。



お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。