長夜の長兵衛 玄鳥至(つばめきたる)
駘蕩
辻にて長兵衛は一旦立ち止まる。左へ行けばお社さん、右なら畑へ至る道、まっすぐ進めば峠。
ほわりほわりとした気の流れを辿りながら歩いていると、峠へ向かう一本道から少しく脇へそれていく。なだらかな斜面にみつばつつじの群生するのを見つけ、傍に大の字になってみた。
桜が白に思えるほど、濃い花びら。小さな三揃いの葉は新しい春の色をしている。その向こうに、すっかり霞の晴れてきりりと締まった青が透けて見える。切れ切れに雲がわたっていく。
風が土の匂いをそよがせて。寝転んだまま、首を右へ傾けてみると、そこかしこで背伸びを始めた野草も、揺れながらかすかな音を立てておる。
長兵衛は目を閉じてみる。
鶯の鳴きも随分と達者になったものだ。
別のさえずりが響き、速くて鋭い小さな風の流れが届けられる。玄鳥が渡ってきたようだ。
しばし春のことどもに身を委ねて、ほわりほわりと。
長兵衛はやがて寝息をたてはじめた。
<了>
pixabay by sharkolot
春風駘蕩
本年の玄鳥至は4月4日~8日頃。
すっかり遅刻常習魔! 遅れながらも続きます!
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。