長夜の長兵衛 魚上氷(うおこおりをいずる)
薄氷
金兵衛の屋敷では朝早くから人の出入りが賑やかしい。二間四枚立ち、襖を新調したのである。
このたびはご贔屓ありがとうございました。職人頭が挨拶にやってくる。
宗兵衛にも一枚、やらせてみました。職人頭はそう言って金兵衛の顔をじっと見る。宗兵衛は、金兵衛の幼馴染久兵衛の倅である。
それはそれは。金兵衛は目を細める。あの、右から二枚目ですかな。
さすがは金兵衛さんですな。あやつも随分と腕を上げましたが、やはりわかりますか。
金兵衛はふっと笑みを漏らす。
職人を育てるとは、これは度胸のいる仕事よ。時に薄氷を踏むようで、それでもぎりぎり氷を割らずに渡ることを繰り返す。さすればいずれ、下から魚が躍り上がるように、若いものは伸びやかに跳ねていくものだ。
わかります。宗兵衛が、いい職人だということが。
金兵衛は、職人頭の肩を叩く。
茶の支度ができましてございます。
長兵衛は、二人を囲炉裏へと案内する。
<了>
pixabay by Bergadder
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。