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長夜の長兵衛 大雨時行(たいうときどきふる)
糸蜻蛉
土の匂いがたちのぼったかと思えば、雨粒が地面を叩きつけ始めた。みるみるうちに、先を競うように庵の庇から水が落ちてゆく。
よう育った入道雲は、こうして雨に変わる。暑い暑いといいながらも、たがうことなく季節は巡る。
ほどなく、蜘蛛がほっとしたように姿をあらわし、草木をすべりながら水が光る。源兵衛は隣に建てた染め物小屋へと向かう。早々に反物屋ののれんを譲り、道楽の染め物に没頭する日々である。
おやまあ、長兵衛さん。
しばらくぶりの夕立にございましたな、源兵衛さん、軒下をお借りしておりました。
そのご様子では、雨宿りの甲斐がありませんでしたな。ちょっとこちらへ。
白地に藍色の糸蜻蛉。なかなかにお似合いだ、これでお帰りなさい。
まこと、かたじけないことでございます。
いえ、長兵衛さんが着て歩いてくだされば、源兵衛染の評判が立つというものです。
いなせな後ろ姿が川べりに小さくなる。足元には、ゆらゆらと誘いかけるように舞う糸蜻蛉。
<了>
ヘッダ画像 pixabay
本年の大雨時行は、8月2日〜8月6日頃。
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。