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長夜の長兵衛 鱖魚群(さけのうおむらがる)


裏白うらじろ 


 雪に隠れていた土の色が、ほつほつと見えはじめる。
 大家の金兵衛に連れられ、一番弟子の銀兵衛、そして長兵衛は遠国を巡った。山道はくだりにさしかかり、旅は終わりに近づいている。
 少しく日当たりの良いあたりでは山草やまくさが群れ、二段、三段と葉を広げている。風に話しかけられては、ささ、ささとこたえおる。
 よき裏白でございますな。銀兵衛が立ち止まって、下から撫であげるように葉を持ち上げ、離す。
 白い羽が右へ、左へと揺れながら緑にもどってゆく。

 さあて、戻れば、年越しの支度を始めねばの。
 魚は川を上りて戻りますが、我らは下りて戻りますな。
 銀兵衛、お主、なかなかに洒落たことを。金兵衛が笑う。
 長兵衛のはらが、ぐうう、と鳴く。
 やや、さては、鮭飯のことでも思い出したのであろう。からだがあこうなるほど、食っておったではないか。
 山道にどっと笑い声が広がると、つられて風が舞いあがり。
 ささ、ささ。
 白い鳥に集う木霊こだまたち、ともに笑いあう。
  

<了>


pixabay by stocksnap

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ウラジロの蘊蓄


 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。

 


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。