長夜の長兵衛 葭始生(あしはじめてしょうず)
目刺
細く尖った芽が水面を穿つように、あちこち姿をあらわしている。
葦の角に出会うと、身が引き締まるような思いがいたす、と銀兵衛。天まで伸びよと聞こえてくるようで、己もかくありたいと心持ちを新たにするのだ。
そうか。実のところ、儂は恐ろしいような気がする、と長兵衛はこたえる。
恐ろしいとな。
うむ、あまりに真っすぐで、尖って、触れたなら切られそうで。もちっと長うなって、風にしなり始めると安堵いたす。揺れて、倒れて、また起きて、それくらいの按配がよいのう。
面白いことを考えるのだな。さて、そろそろ戻って飯にしようではないか。
銀兵衛に言われ、長兵衛の腹の虫がぐう、と返事をする。葦の尖りぐあいが、目刺のようだ、と感ずるともういけない。
眼前、一面の目刺である。
やや、儂には喜ばしいが、これでは鳥もねずみも、巣をかけることができまいて。
長兵衛、なにがそんなに可笑しいのだ、ほんに面白い奴だな。
かるがもの親子がすうう、と二人を追い越してゆく。
<了>
pixabay by sharkolot
本年の葭始生は4月19日~24日頃。
遅れながらも続きます!
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。