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長夜の長兵衛 虹蔵不見(にじかくれてみえず)

 

銀杏羽いちょうば


 白い月の前を、ぼんやりと鱗雲うろこぐもが流れてゆく。ちと、鱗が大きい。雨になるのやもしれぬ。これからは虹を見かけることも少なくなる。上流にいることの多かった水鳥たちが、流れが平地に差し掛かるあたりに姿を見せるようになった。
 長兵衛は、鳥のあとに生まれる水紋に黄色い葉がおどるのを眺めている。
 かさ、かっさ。
 あしおとに続いて、おお、長兵衛さん、と呼びかけてきたのは反物屋の旦那であった源兵衛。早々に隠居して道楽の染め物をしているのだが、これがまた評判をよび、それなりに繁盛している。
 源兵衛は挨拶もそこそこに、長兵衛の足元に目を遣る。
 訝しむ長兵衛をよそに、源兵衛は鮮やかな何かをつまみあげる。銀杏羽です、おしどりですわ。いやこういう色合いが出せたなら、さぞかし長兵衛さんにお似合いでしょうな。
 
 まうえに立っておりながら、わしには紅葉もみじにしか見えなんだ。
 いやはや、と長兵衛は独りごちた。
 

 <了>

pixabay  by  jggrz


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 おしどりの蘊蓄うんちく

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 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。

 


お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。