長夜の長兵衛 虹蔵不見(にじかくれてみえず)
銀杏羽
白い月の前を、ぼんやりと鱗雲が流れてゆく。ちと、鱗が大きい。雨になるのやもしれぬ。これからは虹を見かけることも少なくなる。上流にいることの多かった水鳥たちが、流れが平地に差し掛かるあたりに姿を見せるようになった。
長兵衛は、鳥のあとに生まれる水紋に黄色い葉がおどるのを眺めている。
かさ、かっさ。
あしおとに続いて、おお、長兵衛さん、と呼びかけてきたのは反物屋の旦那であった源兵衛。早々に隠居して道楽の染め物をしているのだが、これがまた評判をよび、それなりに繁盛している。
源兵衛は挨拶もそこそこに、長兵衛の足元に目を遣る。
訝しむ長兵衛をよそに、源兵衛は鮮やかな何かをつまみあげる。銀杏羽です、おしどりですわ。いやこういう色合いが出せたなら、さぞかし長兵衛さんにお似合いでしょうな。
まうえに立っておりながら、儂には紅葉にしか見えなんだ。
いやはや、と長兵衛は独りごちた。
<了>
pixabay by jggrz
::::::::
おしどりの蘊蓄。
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/nogeyama/details/post-478.php
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。