長夜の長兵衛 地始凍(ちはじめてこおる)
霜柱
縄を結び終え、軒先に下げた。
壮麗でございますね。長兵衛が言うと、お内儀はからころと笑った。干し柿は菓子のうちに入らぬと、うちの人は言うんです。そのくせ誰よりおいしそうに食べますけれど。
二人して剥いた皮を集め、ちらかった縁側を片付ける。
楽隠居をいいことに、どこをほっつき歩いておりますやら。このところ、わたしが目をさますともう、おらぬのです。
安兵衛は菓子屋の大旦那。暖簾は息子が守っている。名物の豆大福をいただきながら、長兵衛は隠居とはいかなるものぞと思う。
今朝はよう冷える。道中は晴れるであろう。
おや、こんなはずれにどうして安兵衛さんが。
その影が、つ、としゃがみ込む。どうなされたのか。長兵衛は歩を早める。
おお、長兵衛。安兵衛は指をさす。
ごらん、畑には、いいのが立つ。わしはこの霜柱のような菓子をこしらえてみたいのだ。
朝の日に負けず劣らず、きりりとした眼であった。
<了>
pixabay by flo222
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実は
本当にあるのでした。
どんなお味なんでしょうね。
これも一度見てみたいです。
雪寄草とシモバシラ
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。