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長夜の長兵衛 腐草為蛍 (くされたるくさほたるとなる)
蛍袋
鳴らない釣鐘とはなんぞや、と長兵衛は腕を組む。
隣で久兵衛が、不思議そうな顔をする。
いや、銅十郎になぞをかけられて、解けずにおるのです。長兵衛がこたえると、久兵衛は大声で笑うた。
あやつ、兄弟子にさような戯れを。
長兵衛は、金兵衛の二番弟子。銅十郎は十二の歳を迎え三番弟子になったばかり。
と、いうのだがお主、わかるか。
盃を口へ運びつつ久兵衛は金兵衛に尋ねる。二人は幼馴染で、たびたび酌み交わしておる。
近くに釣鐘はないが。晦日の百八つの寺は、随分と離れておるし、と金兵衛。
それはそもそも鳴るのであろう。音の出ぬ鐘とは、いかに。
ううむ。
おおい、参ったぞ。川べりに、蛍が出ておったわ。見とれていたら遅うなった。
もう一人の幼馴染、菓子屋の大旦那安兵衛の声がする。
それよ。久兵衛は膝を打つ。ここにあるこの釣鐘であろう。
床の間に活けられた薄紫の花が、夕ぐれにほうっと浮かんでいる。
蛍袋とは風流な。
安兵衛には、二人が笑うておるのがなぞである。
<了>
pixabay by KIMDAEJEUNG
本年の腐草為蛍は6月10日~6月15日頃。
遅れても遅れながらも続きます!
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。