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長夜の長兵衛 紅花栄 (べにばなさかう)

青嵐あおあらし
 
 皺のよった小さな手をひく。いつの間にか、銅十郎の方が手も背丈も大きゅうなってしもうた。
 おばあと二人、林のみちを行く。なるだけ平らなところ、と銅十郎は気を配るのであるが、なんのなんの。おばあの足は、しかと地に繋がっておる。
 銅十郎。金兵衛さんになにくれと世話になっておるのか。
 うん。銀兵衛さん、長兵衛さんときて、おれが第三の弟子だから。
 ほうか。お前、幾つになったのだったか。
 十二。
 ほうか。
 おばあは、おれくらいの頃、どうしていたのだ。
 わしか。そうな、紅花摘みをしておったな。

 大欅のうろに近づいている。
 ここでよい、ふくろうさんがびっくりされる。
 目も薄いし、耳も遠いのに、おばあにはわかるようだ。
 いい風だな、銅十郎。
 欅の枝が、たおやかに確固としてさんざめく。
 いい青だな、銅十郎。

 おばあの横で、銅十郎は考えている。
 先だって、長兵衛さんに教わったことば。そうだ、
 青嵐、って言うんだ。
 ほうか。
 葉が揺れ、木漏れ日が揺れる。

 
 

<了>


pixabay by Valiphotos



 本年の紅花栄は5月26日~5月30日頃。
 遅れてる! 遅れ遅れながらも続きます!


 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。



お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。