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長夜の長兵衛 蚕起食桑 (かいこおきてくわをはむ)
一夜酒
ひい、ふう、みっつくださるか。
源兵衛は甘酒売を呼び止め、長兵衛にもこちらへと手招きする。染め物の洗いまでが、一段落したところである。
生き返った心持ちでございます、と長兵衛は礼を言う。
おかげで、金兵衛さんのお頼みの品、うまいこといきそうですよ。干すのが楽しみですわ。源兵衛は反物屋の隠居、道楽で染め物を楽しんでいる。
ささ、もう一杯買うてあります、これもぐいっとおやんなさい。
まことにいい梔子色ですな。深みがあって、この黄は、いやなかなか。
金兵衛は反物を眺めながら顔を綻ばせる。
源兵衛の目には子供のような光がある。若い時分には、お蚕さんの世話をしに参ったものです。あの、いのちの布だと思えば、こちらも全霊で立ち向かいませんとな。
支度が整いましてございます。
長兵衛と銀兵衛が膳を運び入れてくる。
これは、と源兵衛。
ゆうべ、こさえてみましてな、と金兵衛。
酒の前に、まずは一夜酒。
男たちの笑い声で初夏の宴が幕を開ける。
<了>
photo AC by cheetah
ところでわたくしは、こちらの「のたりのたり」という煎餅が大好物であります。
本年の蚕起食桑は5月22日~5月25日頃。
遅れながらも続きます!
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。