長夜の長兵衛 麋角解(さわしかつのおつる)
除夜
囲炉裏でこんがりと炙った葱が、汁の中へ放たれた。大家の金兵衛、御自慢の晦日蕎麦がふるまわれる。
一番弟子の銀兵衛が、息を吸い込む。たまらぬ香りにございますな。
男たちは笑い、蕎麦を啜り、酒を酌み交わす。
金兵衛の幼馴染、久兵衛が、あらたまって頭を下げる。今年も世話になった。礼を言うぞ、金兵衛。
こちらこそ、久兵衛、お主のお陰様よ。ともに息災に過ごそうぞ。
ごおん。
宴の余韻の中、長兵衛は目を閉じる。
鐘の音が大小のつぶとなりからだの中へ染み込んで、さまざまなことが想い出される。鮭は川をのぼり、鳥は羽ばたき、谷には渦がうなる。大きな枝が落つる、と聞こえたあれは大鹿の角で。そう、あの角でこしらえた撞木で、祭りの摺鉦を叩いたのであったな。
こんちき、こんちき、
ごおん。
思い蘇った音どもが幾重にも交わりあう。
今宵を走り抜ける風も、遠くの梟も、豊潤な調べに加わって、
ごおん。
しじまに、長兵衛は身を委ねる。
<了>
pixabay by Honeycutt004
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大晦日にして大安、一粒万倍日でございます。
そして元日も、一粒万倍日。
私もこの後、年越し蕎麦をいただこうと思います。囲炉裏はないけど、葱を炙ります。
佳き年越しをお迎えください。本年も大変お世話になりました。
一年の感謝を込めて
穂音
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。