長夜の長兵衛 鷹乃学習 (たかすなわちわざをならう)
蝉時雨
山道を辻までくだるとしゃがんで、銅十郎は手を動かし始めた。蝉の声に囲まれ、またたく間に額に汗がにじむ。
十二になり、金兵衛の弟子である己を誇らしく思うておる。
けれども。
一番弟子の銀兵衛は、峠の向こう、呉服屋への用事。二番弟子の長兵衛は、和尚さんへ言伝てに出かけて行った。
おれは。
そんなら、やることをこさえよう。地蔵さんのまわり、枯れた草を除き、よだれかけの埃をはらい、布切れで体を拭いて差し上げた。
銅十郎。大きゅうなったなあ、またひとつ。
宮司さんがにこにこしながらこちらを見ておられる。
もっと、背丈が伸びたらなあと思うのです。
背丈か。長兵衛を越えるのではないか。
まことですか。銅十郎が顔を輝かせると、宮司さんはにこにこしたまま、静かに仰った。
背丈だけならばすぐに。
銅十郎のまわりの蝉時雨が、止んだ。
おれ、大きくなりたいです。
宮司さんが頷いて、お社の方へ戻っていかれる。
蝉がまた、いっせいに騒ぎ出した。
<了>
昨年の冬、に引き続いて、橘鶫さんの絵を使わせていただいております、幸せ者の穂音です。
扉絵は、クマタカの幼鳥です。「鷹乃学習」でコラボさせてくださいとお願いして、いただいたもの。見た瞬間に、銅十郎だ、と思いました。成鳥のイメージもぴったり。
そこから生まれたお話です。
wikipediaからの情報ですが
クマタカ 雄の全長約60cm、雌の全長約70cm、翼開長約100-130cm
ハリスホーク(長兵衛) 体長は46-76cm、翼長は110cm
冬の橘鶫さんとのコラボはこちら。
鶫さんの「物語の欠片」シリーズ、最新作は十六篇目。
私は十四篇、読破したところです。次に行くのが楽しみです。
これ、絶対紙の本で揃えたいやつ。いつか、出版してください!
このカラスも好き。俳句も好き。
鶫さん、今回も本当にありがとうございました。
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。