長夜の長兵衛 乃東生(なつかれくさしょうず)
冬至芽
遠国で食うたは、これか。安兵衛は大福を差し出した。
おお、かような翠であった。二つに割り、しげしげと餡を眺め、金兵衛は片割れを口に放り込む。うむ、美味い。
やはり、ずんだであったか。菓子屋の大旦那は満足そうに頷く。
儂の話からこしらえてしまうとは、さすがよ。金兵衛は残りを味わい、茶を啜る。
いぐさの香りは良いのう。金兵衛は紺色の新しい畳縁を見やる。
隠居の身ゆえ、もうよいと言うたが、倅が手配してくれたのだ。相好を崩した安兵衛は、すぐに真顔に戻る。畳屋の若い衆、みごとであったぞ。
親方が、できておるからの。厳しいが怒りつけたりはせぬ。
そこよ、金兵衛。親方とはそれだけで恐ろしいもの。余分な気遣いをさせぬよう、整えるが肝要ぞ。
冬至芽の元気がいいのう。金兵衛の目に、安兵衛が手塩にかけている菊が映る。
お主のところもそうであろう。銀兵衛に、長兵衛。
それを言うならお主の倅よ。
湯屋では長兵衛のくしゃみに柚子が跳ねておる。
<了>
pixabay by Mylene2401
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また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。