オーディブル記録18-19 今井むつみ本を2冊

ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか

『熟達論』を読んだ(聴いた)とき、ちょくちょく今井むつみの『学びとは何か-<探求人>になるために』と照らし合わせていた。そうしたら両者の対談本が目に飛び込んできた。これは聴くしかなかった。

内容としては、両者の本に出てくるところをそれぞれ語り合い、すりよせあっていたような印象がある。だが今井氏が為末氏に伝わるように平易な表現で説明し、為末氏がみずからのアスリート時代の経験を例に咀嚼をしていくという流れが繰り返されることで、結果的には今井氏による学習論のエッセンスをわかりやすく大づかみにできるような構成になっている。

『学ぶとはどういうことか』という名著があるが、その復習にとても良かった。

最終章では、熟達や学びへの議論を前提に、「どう学んでいくのがいいのか」を論じており、これはかなり興奮しながら聞いた。一度は理解・納得をできた知識でも、繰り返し使わないと定着せず、流れてしまう。だから、複数の教科で同じことを角度を変えて扱っていく、なんてことも学校教育への提言として盛り込まれていた。

また、より多くの知識の量を求めることや、コスパ・タイパを重視する現代の風潮・学習観に対しても、疑問符を突きつける。知識の量を重視しても、「その知識をどう活用するのかについての知識」とセットになっていなければそれは「死んだ知識」である。

ここで、為末氏が何でもしっかりと熟達すべきですよね、という感じに論旨を向けようとしたが、今井氏が同意しなかったところが面白かった。

熟達には時間がかかるし、人生の時間には限りがある。とりあえずの解決だけが必要ならコスパ・タイパ重視で済ませ、本当に深めたいところでは探求的に習熟していくのがいいのではないか。そんなことを言っていた。これは首がもげるほど頷いた。

算数文章題が解けない子どもたち:ことば・思考の力と学力不振

こちらは今井牛を含む共著で、研究成果についての硬派な書籍(のオーディブル)。

本書の「達人テスト」は、子どもたちが文章題に取り組むときに、認知活動の何ができていて、何ができていないのかを細かく検討できるようにデザインされている。

そのため、ある問題について子どもたちの正答率が低いという事実に接したとき、「こんな問題の正答率が低いなんて!」と煽るのではなく、「この問題に躓く子どもが多いということは…」と詳細な示唆を引き出し、建設的な改善案を提示できるのだ。

とはいえ、本書は流し聞きになってしまった。設問文が目に見えている状態でないと本書はかなり吟味がしづらかったというのが一つ。また、本書のコアとなる部分は、先に聞いた為末氏との対談本でも触れられていたということもあった。

内容自体はレベルも高く面白かったので、ちょっと文字で読んでみたい気持ちがある。

なお、本書は新井紀子の『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』への批判としても機能するだろう。「あなたの言っている「読解力」ってなんですか?」と。

余談

最近、二男の寝かしつけにオーディブルで学んだことをダラダラ話し続けている。これが本当に効き目抜群で、退屈な講義に接した大学生のごとくグッスリと寝てくれる。

さて、思わぬ展開なのだが、ジャンルによっては妻が興味津々で聴いている。

本書について延々と語って子どもを寝かせた後、夫婦でしばらく学習や熟達についての議論が続いた。最終的には「死んだ知識」の具体例を挙げあおうということになり

「六波羅探題ィ!」
「御成敗式目ゥ!」
「あははは、あったあった。なんだっけそれ?」
「それがわからないから死んだ知識なんだって」

などと盛り上がったのだった。いやいや、死んだ知識をため込むような学び方を随分と積み重ねてしまった。

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