2023年のマンガ読み⑥
ABURA
原作のNUMBER8が『BLUE GIANT』の原作?だったらしいこと、本作が原作・作画の分業体制で作った作品から表象する「さいとうたかを賞」を受賞したということ、単純に全巻無料になっていたことから読んだ。
新選組から分派した御陵衛士。佐幕と勤王で新選組と袂をわかったのだが、新選組はその始末を決意する。そして、中心人物の死体を路上に放置し、罠だと知っていながら回収にきた御陵衛士を大人数の新選組が取り囲む。そこからの内紛は油小路事件と呼ばれ、日本剣術史においても最大の戦いなのだという。
なかなか面白い構成のマンガで、一つの史実を入念に描き、後日談で御陵衛士の顛末を整理して終わりという感じだ。登場人物の説明なども積み上げることはできず、キャラデザと言動から把握させるような書きぶりになっている。
自分からすると、この歴史的な事実自体をサッパリ知らなかったので、情報として面白かったし、この時代の人間の情念のようなものが伝わってきて面白かった。バトルの方は、自分からするとそこまで重要じゃなかったかもしれない。
チ。―地球の運動について― (再読)
以前、小間切れに読んだことを反省していた作品。今度は一気に、記憶を持続させながら丁寧に読んでみた。
特に反省させられたのが終盤のラファウ再登場で、それを解釈できなかったのは自分が雑に読んだせいだと思っていたのだが、丁寧に読んでも解釈は極めて難しかった。
でも今回は丁寧に読んでいたわけで、「自分の記憶のせいじゃない」とわかれば考察・解釈に入ることができた。
要するに最終章の手前までは、「地動説についての、人知れず存在したかもしれない戦いの話」であり、最終章は「現実世界での地動説の発見につながる話」である。
そして、最終章に登場するラファウは第1章とは別人である。ただし、真理に憑りつかれた存在という意味ではイコールである。真理に憑りつかれたことが、第1章では命がけでバトンを託すという尊い行動に繋がった一方、最終章では他者の命を奪うという行動に繋がっている。
真理に憑りつかれ、純粋な動機で科学探求をすることの負の側面も描く必要があったのだろう。フォンブラウンのような人間だっているのだから。だからこそ、1巻で純粋な探求心を象徴したラファウにその役目を負わせたのだ。
というわけで、再読によってスッキリすることができたのだった。
iメンター すべては遺伝子に支配された
遺伝子のデータに基づき、個人が判断され、管理される社会。iメンターというツールは各個人の職業適正や、恋愛の相性を数値化して示し、人々はそれに従って生きている。
その中で、iメンターの導きに背き、自分の意志を貫く人々の物語がオムニバス形式で描かれる。そして、遺伝子社会への個人の反抗を描きながらも、iメンターの管制局内での個人クーデターが着々と進んでいく。
終盤は伏線を回収した展開だったが、個人が戦略勝ちをして支配を覆すプロットというのは作品のテーマに似つかわしくない気がしたな。そうじゃなくて、遺伝子によって管理される社会への反感や、思うように生きたいという人々の想いをもっともっと結実させてほしかった。
僕のヒーローアカデミア
これは別途書きたい
重版出来!
マンガ編集者の黒沢を主人公とするお仕事モノ。マンガ編集という職業について、デジタル作画やwebマンガサイトなども扱いながら現代的な部分まで描いている。
また、フォント職人とかアシスタントとか、書店員とか、そういった別の現場のプロフェッショナルも気持ちよく描かれる。職業への知的好奇心が満たされると同時に、いい仕事と出会うことの快感もある。間違いなく、すぐれたお仕事ものである。
加えて、群像劇としても素晴らしい。キャラがいいのだ。黒沢は女性にして体育会系で、観ていてすがすがしい。とても気持ちのいいキャラである。高畑先生のプライドと愛嬌が好き。こんな感じの仕事大好き人間は最高だ。そしてなんといっても中田伯。彼の物語から本当に目が離せなかった。
ボクらはみんな生きてゆく!(最新話まで)
マンガ家への道を断念し、シカやイノシシへの罠猟師に転身した作者。現在では一流の天然食材ハンターになっている。その成長と試行錯誤を記録した、世にも珍しい実録マンガである。
野生動物がどうやってワナを察知し、回避するのかを深く考える。そのうえで、行動から逆算してワナを仕掛ける。ワナがかかった後も大変だ。イノシシをバットで殴り、その後放血をするなど本物のシーンが何度も出てくる。なんならけっこうなケガもしている。
ディープな世界の貴重な実録マンガである。これは面白いものを見つけた。
以上、本年度はマンガに癒してもらいながらなんとか駆け抜けた一年だった。マンガに携わる人々に感謝を。