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実話です。僕はアースドラゴンを食べました。

(カクヨムからの転載記事です)

   ファンタジー世界最強のモンスター、ドラゴン。アースドラゴンは地属性のドラゴンです。皆さん、ドラゴン食べたことありますか?  僕は実際に食べました。ホラ話のような実話、僕がアースドラゴンを実際に食べた体験談を紹介します。

アースドラゴンを食べることになったきっかけ

 きっかけは土曜日に放った彼女の一言だった。

「明日、うちに食べに来ない?」
「いいよ、なんかあるの?」
「うん、お母さんが田舎から私の大好物持ってきてくれるの」

 彼女は満面の笑みを浮かべる。

「よかったね。ところで大好物って?」
「アースドラゴン!」

 彼女の言葉に僕は口をポカーンと開けてしまった。
 彼女はあまりマンガを読まないし、アニメもさほど興味がない。そんな彼女からファンタジー色に満ちた単語が口から出たのだ。

 僕はアゴに手を当てる。

 ドラゴン、ファンタジー世界最強のモンスター。アースってことは地属性ってことか。いやいや、現実世界にいるなんてありえないでしょ?

 僕がしばらく沈黙してると、彼女が僕の顔をのぞきこんだ。

「どうしたの?」
「ごめん、大丈夫だよ。ところでアースドラゴンってどんなの?」

 迷っていてもしょうがない。まず確認してみよう。

「ちょっと待って」

 彼女はスマホをいじり始める。1分後、彼女がスマホの画面を僕に見せた。

「これよ」

 僕に見せてくれたアースドラゴンの正体とは?

アースドラゴンの正体

 彼女からアースドラゴンを食べるお誘いを受けた僕。スマホの画面に映し出されたアースドラゴンの御姿に俺は目を見開いた。

 体の色は濃い灰色だな。しっぽは短い。牙は小さい。特に目立つのは前脚の大きな爪とナスのような大きな鼻だ。

「これはモグラだね」
「あっ、モグラって言うんだね。漢字だとこうだからアースドラゴンって思ってた」

 スマホで目にした漢字は『土竜』

 たしかに直訳すればアースドラゴンだ。うん、ある意味納得、納得。

「かわいいでしょ。しかもおいしいんだよ」

 世界一の美女の笑顔だ。一方、俺は少し顔が引きつっていた。

「お、おいしいんだ」
「うん、とっても。食べたことないの?」
「食べたことないな、ははは……」

 正直日本中どこ行っても、モグラを食べる習慣ないでしょ?ただ、恐怖心よりも好奇心が上回ってきた。

「食べたくない?」
「そんなことないよ。食べてみたい」
「本当?よかった」

 彼女が糸のように目を細めて笑った。僕もつられて顔がほころぶ。

 僕たちは明日の夜、彼女のうちでモグラを食べることになった。

 夜中、期待と不安が入り混じった奇妙な気持ちのまま床についた。しかし、数刻後僕は布団から飛び上がった。

アースドラゴンより重大な事態

 明日彼女のうちでアースドラゴンならぬモグラを食べることになった僕。しかし、夜中にモグラよりも重大な事態に気づいてしまった。

「お母さんが持ってくるって言ってたよな。ていうことはお母さん来るのか」

 お母さんが来る、この事実が僕にものすごい緊張感を与えた。

 僕と彼女が付き合い始めて数年、お互いにいい歳をした大人である。結婚を意識していないと言ったらうそになる。相手の親に会うということは、娘の将来の旦那として品定めされる重要な場なのだ。その最初のテストが明日に迫ったのだ。

 第一印象は非常に重要である。非礼がないように振る舞う必要があるし、ましてやモグラを口にしないなんて言語道断の行いである。

 モグラを食べるというイベントのレベルが一気に上がった。

 僕はこの夜あまり寝付けなかった。

いざ、アースドラゴンと勝負

 翌日、彼女のうちに向かう途中。外の蒸し暑い空気が僕の気を一層沈める。
 彼女のうちのドアを開けると、初老の女性が彼女と談笑していた。
 間違いない、お母さんだ。

 彼女のうちでモグラを食べることになった僕。彼女のお母さんとの初対面も加わり、非常に困難になったミッションをクリアできるのか?

 彼女のうちに到着すると、彼女はお母さんと談笑していた。

「いらっしゃい。上がって」
「はい」

 僕は彼女のうちに上がった。

「食事の準備するから、ちょっと待ってね」

 僕がリビングのソファに座ると、あいさつをする間もなく、彼女とお母さんは台所へ向かった。

 しまった、お母さんにあいさつができなかった!  痛恨のミスをおかした僕。
 一方、彼女とお母さんは台所で楽しそうにおしゃべりしてる。

 僕は耳をすまして会話を聞く。しかし、何を言ってるか全くわからない。彼女たちは田舎の方言で話している模様だ。この方言はかなり独特で地元じゃない人は全くわからないらしい。

 しかも、タイ語だし。すみません、言い忘れてたけど、僕の彼女はタイ人で、この頃僕も仕事でタイのバンコクに住んでた。

 しばらくすると、彼女が大きな器を運んできた。

アースドラゴンの味は?

 バンコクの彼女のうちでモグラを食べることになった僕。果たして、モグラ料理の全容とは?

 彼女が運んできた深い皿の中にはスープは入っていた。野菜を中心に、具がたくさんある。その中に、見慣れない小さな肉片、そしてクシのようなものが入っていた。僕は指をさして彼女に聞いた。

「これがモグラ?」
「そう、食べてみて」
「じゃあ、いただきます」

 僕はモグラの肉が入ったスープを口にした。

 辛い、やっぱりタイ料理だ。スープの辛さのせいでモグラの味はよくわからない。肉のようなやわらかい食感や爪のような硬い食感だけが感じられる。

 そこへお母さんがリビングに戻ってきた。

「こんばんは。おいしいですか?」
「こんばんは。お、おいしいです」

 よし、やっとあいさつできた。僕は一心不乱にスープを飲む。

 彼女が別の皿を持ってきた。

「ははは、ご飯はスープだけじゃないよ。みんなで食べましょう」

 豚の焼き肉、野菜の煮物、ご飯とともに、僕らは夕食を楽しんだ。

 夕食後、僕を見送る彼女が

「お母さんがすごいって言ってたよ」
「ん、なんで?」
「外国人なのに田舎料理をおいしそうに食べるなんてすごいって」

 どうやらお母さんの評判はよかったみたいだ。ミッション、クリア!

まとめ

・アースドラゴンとはモグラ(土竜)のことである。
・東南アジアの一部で食用モグラがある。
・正直、モグラの味はあまり覚えていない。
・なぜなら彼女の母親に初めて会うことになって、とても緊張していたから。


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