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4年間友達だった女性と付き合った話(後編)

前編はこちら

大学3年生になった時、世界は変わり果てていた。

未曽有のウイルスの蔓延により突然失われたキャンパスライフ。

サークル活動はすべて禁止され、ただただ家でパソコンに向き合うだけの日々が続いた。

彼女とは一切連絡を取らなくなった。去年の冬に感じていたあの予感は、思わぬ形で現実となってしまった。

そんな中で始まった就職活動。自己分析、ガクチカ、インターン。どこからともなく現れた就活用語たちに頭を抱える日々。息抜きもできない状況に、すっかり心身は疲弊しきっていた。恋愛なんてしている場合ではなかった。

大学3年生の記憶は、就職活動とゼミの活動、ほぼそれですべてだった。結局彼女とは1年以上連絡を取らなかった。


あっという間に大学4年の春を迎えた。行動規制も少しずつ解除され、週に1回はキャンパスに通って友達と会えるようになった。

相変わらず就職活動とゼミの活動に追われていたが、懐かしい日々を取り返したようで嬉しかった。

6月には就職活動を終え、徐々に人と遊ぶようになった。それでも彼女とは連絡を取っておらず、気が付けば恋愛感情も薄らいでいた。


しかし、10月。とある知らせをきっかけに、ことは急展開を迎える。

昨年は中止になった年末の音楽フェスが、今年は開催されるというのだ。そう、2年前の冬に彼女と行ったあのフェスだ。

僕の心は揺らいだ。≪最後のチャンスかもしれない≫ そんな気持ちを抱えたまま、申込期間の締め切りが近付いていった。


「久しぶり。もしよければ、フェス一緒に行かない?」

勇気を振り絞って1年半ぶりに彼女にLINEを送ったのは、申し込み締め切りの2日前だった。

「うん!行きたい!!」

ベッドの上でガッツポーズをした。学生最後の冬に、好きだった彼女と音楽フェスに行ける。しかも今度は2人きりで。


そこからの日々はめまぐるしかった。

数年ぶりにいきなりフェスで会うのもなんだからと、11月にご飯に誘った。

恵比寿のオムライス屋さん。ご飯だけでお腹はいっぱいになったが、店員さんにパンケーキをお薦めされ、2人で1つをシェアすることに。10種類ほどある中から1つを選ぶのは至難の業で、お互いが3つまで選択肢を絞りその中から決めることに。

僕と彼女がそれぞれ選んだ3種類は、全く同じ組み合わせだった。

信じられなかった。とんでもない確率だ。はっきり言って運命だとしか思えなかった。彼女も目を見開いて驚いていた。結局僕らはモンブランのパンケーキを選択した。

パンケーキは想像以上のボリュームで僕らのお腹を苦しめた。でもそれが功を奏することになる。

お店を出た後、はち切れそうなお腹を休めるために、僕らは少し散歩をすることにした。

訪れたのは恵比寿ガーデンプレイス。ちょうどクリスマスイルミネーションの準備中で、木々がきれいに輝いていた。

僕らはあたりの景色を見渡せるベンチに腰掛け、他愛もない会話をした。

30分くらい話しただろうか。彼女は突然、小さな声でこう呟いた。

「君ともっといろんなところに行きたいなって、思いました」

その言葉の意味を解釈するのに5秒ほどかかったと思う。4年間友達を続け、一度振られ、そして数年ぶりに再会した彼女からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。

しばしの沈黙の後、僕は冷静を装って

「じゃあ、今度はでっかいイルミネーション行こうか」

とだけ言った。

彼女は目を瞑って満足そうにうなずいていた。


次に会ったのはイルミネーションではなく、動物園だった。決して約束を破ったわけではない。そのころはまだ11月。僕はイルミネーションを見に行くなら、クリスマスに行きたいと考えていた。でもクリスマスまではまだ1か月ほどある。それまで会わないのはどうしても不安で、彼女を一旦別のデートに誘ったのだ。

その日の夜、カフェのテラス席で満を持して僕は彼女をクリスマスデートに誘った。彼女は夕方までゼミの予定があったが、なんとか教授にお願いして時間をずらしてもらうよ、と言ってくれた。


そして2021年12月24日。一生に一度のクリスマスイブ。僕と彼女は人並みで溢れた渋谷の街にいた。

夕方に合流した僕らは、渋谷スカイにのぼり東京の夕焼けを眺めた。周りがカップルだらけの中、これからカップルになるであろう僕らは程よい距離間でその空間を楽しんだ。

そのあとは新橋でディナーを楽しみ、丸の内のイルミネーションへと向かった。

延々と続く黄金色のイルミネーションロードは圧巻だった。11月に恵比寿で見た景色とは段違いに。一生に一度の特別な夜に、僕と彼女は同じ場所で同じ景色を見て、同じように感動していた。


22時過ぎ。僕らは近くのスタバでホットティーを買い、東京駅前のベンチに腰かけた。何の話をしていたかは忘れたが、とても寒かったのを覚えている。

僕はなかなか踏み出せずにいた。伝えたい想いはひとつだったが、言葉は見つかっていなかった。

それでも彼女は待ってくれた。終電の時間が迫っていたが、「あと10分、、、あと5分、、、」と。僕らは特に話すわけでもなく、ただただホットティーをすすりながら真冬の夜の東京駅にポツンと存在していた。ティーはとっくに冷めていた。

「あのさ、帰る前に伝えたいことがあって、」

長い沈黙の後、何に背中を押されたのかわからないが、僕の口は勝手に動き出していた。

長くて不恰好な告白だったと思う。10月に勇気を出してフェスに誘ったこと、パンケーキの奇跡が嬉しかったこと、今日この空間にいられた幸せ、そして、これからもずっと一緒にいたい、ということ。想っていることを全て伝えた。

彼女は涙を流してくれた。それから、同じように想いを伝えてくれた。ベンチの上でなんとなく保たれていた距離は、気づけばゼロになっていた。


4年間友達だった僕らはこの日、たくさんの擦れ違いを経て、恋人になった。


とても不器用な恋愛だったと思う。でも、4年間で積み重ねてきたこの愛情は、簡単には崩れないとも思う。そう考えると、決して無駄ではない4年間だった。

彼女と付き合ってからは、なるべく素直に気持ちを伝えるようにしている。4年前のうじうじしていた自分とは大違いだ。成長したな、自分。


僕と彼女は、今年の春から社会人になる。これまでのような付き合いはできなくなるだろうが、だからこそお互いを大切に想い合い、支え合っていきたい。

いくら環境が変わろうが僕らの愛には関係ない。4年という時間は、そんな根拠のない自信へと結びついている。


4年間友達だった女性と付き合った話(完)





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