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4年間友達だった女性と付き合った話(前編)

4年前の4月。僕は大学に入学し、運動系のサークルに入った。

彼女とはそこで出会った。

黒のショートボブが似合う彼女の最初の印象は、「おとなしそうな子だな」くらいのものだった。


大学生活にも慣れてきた7月ごろ。気が付けば僕は彼女に恋をしていた。

何がきっかけだったのかも覚えていない。

恋ってそういうもの?


初めてのデートはミスタードーナツ。なんともあまじょっぱい。

彼女は確かカルピスを飲んでいた。僕はメロンソーダを。今思えば高校生みたいで恥ずかしい。

次は定番の映画デート。渋谷で細田守監督の「未来のミライ」を観た。とても大学生が観るような内容ではなかったが、隣に彼女がいるだけで十分だった。当時の半券を今でも持っていることは彼女には内緒だ。


9月。順調だと思われた大学初の恋は、唐突に終わりを告げる。

彼女に好きな人ができた。同じサークルの同級生。

実際に僕がそれを知ったのは1か月ほど後のことだった。確かに、その間彼女のLINEの反応が悪かった気がする、と後から気づいた。なんて鈍感なんだ自分。

そこからは何もやる気の出ない日々が続いた。

同じサークルにいたため、彼女とはしばしば会っていた。というよりも、同じ空間にいた、と言った方が正しいか。

お互い顔を見ても特に話すことはなく、僕らは知り合い程度の関係に戻った。


そんなこんなで大学1年目の秋を迎えたころ。

彼女は失恋していた。例の同級生に別の彼女ができたのだ。

正直、≪チャンスだ≫ とは思えなかった。失恋したといえど彼女は僕ではない他の男を好きになったわけだし、僕の心はとっくに折れていた。情けないが、あの時はそれほどまでに自分に自信がなかった。

それでも、関係は少し元に戻った。LINEもちょくちょくするようになったし、会えば会話もできるようになった。


11月。大学のビッグイベントである学祭が行われた。サークルでは飲食店を出店し、僕と彼女は1日だけシフトが被った。

勇気を振り絞ってデートに誘った。シフトの前に少しだけ遊ぼう、と。

浅草で大きな唐揚げとソフトクリームを食べて、他愛もない話をしながらスカイツリーのふもとまで歩いた。おせっかいなおじさんに声をかけられ、2人でスカイツリーを持っているような写真を撮ってもらった。

写真を撮るとき、おじさんはニヤニヤしながら「手つなぎなよ」と言った。正直かなり困惑した。僕らは恋人同士ではない。なんなら僕は彼女に失恋し、彼女はほかの男に失恋した。当時の僕らには呼び名がなかった。

「付き合ってるわけじゃないので」ひきつった笑顔で僕がそう言った時、隣の彼女はどんな顔をしていたのだろうか。付き合った今でも考えてしまう。

その日の夜に送った3件のメッセージに対し、彼女の返信はたった1件だった。距離を置こう。そう思った。


そのまま何の展開もないまま、大学2年目の春を迎えた。僕はサークルの代表になった。学部が違う彼女とはキャンパスも別になり、ますます疎遠になった。

知らぬ間に僕の失恋話はサークル内に広まっていた。大学生って恐ろしいと思った。同情してくれる男友達ばかりだったのがせめてもの救いだった。

僕は完全にやけくそになっていた。20歳になってから毎日のように友達とお酒を飲み、いろんな人と遊びまくった。なんてカッコ悪いんだ。でも、必要な時間でもあったと思う。


時は過ぎ、再び学祭の季節となった。サークルの幹部として、僕は仕事に追われていた。学生だけで何かを作り上げるという経験は初めてだったので、いろいろなことを忘れて純粋に活動に打ち込むことができた。

打ち上げの日、彼女は僕を含めた幹部4人にプレゼントをくれた。たまたま彼女の誕生日が近かったので、僕も彼女にプレゼントを渡した。彼女はとても喜んでくれた。嬉しかった。それくらいには関係は修復していた。


12月。とんでもない出来事が起きる。彼女に年末の音楽フェスに誘われたのだ。僕と彼女は、音楽が好きという共通の趣味を持っていた。フェスに行くのは2人きりではなく、サークルの友達と4人でだったが、それでもとても嬉しかった。彼女から何かに誘われたのは初めてだったから。

しかし、そんな喜びもつかの間、僕はとんでもない失敗を犯してしまう。フェスの誘いを快く受けた後、あろうことか、男友達とのお酒の席で調子に乗せられて彼女をクリスマスデートに誘ってしまったのだ。

結果はあえなく撃沈。関係は修復していたとは言えど、まだとてもクリスマスに会えるような関係ではなかった。完全に意気消沈した。どんな顔をして年末のフェスで会えばよいのかわからなかった。

訪れたその日。直前に僕を振った彼女はそれでも優しかった。何事もなかったかのように明るく振る舞い、僕も純粋に音楽を楽しむことができた。それでも、彼女と遊ぶのはおそらく今日が最後になるのだろう。目の前の音楽を楽しむ彼女の横顔を見たとき、なんとなくそう思った。

美しくも儚い大学2年の冬となった。


つづく


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