修行中、彼女と椎名林檎のライブに行く約束をした話。
大学を卒業してすぐお寺の修行に行ってた時の話しです。
※これは僕が行った修行寺の僕が行った時期の僕の思い出話です。全てのお寺がどうとかではありません。
がむしゃらに修行に明け暮れる日々。
朝4時前に起きて、夜9時半に強制就寝のタイムスケジュールで明け暮れる日々。
娯楽なし。
一番盛り上がったのはお寺の門の近くに蜂の巣が出来て盛り上がったのがピークだったかな?
そんなある夏の日!
「今度、新到(新人)2人と古参(先輩)1人でお世話になってるお寺のお手伝いに行ってもらいます。」
なんてこった!そんなことが!!
お寺の敷地を出る時はギブアップで脱走する時だけだと思っていたところに飛び込んだ情報。
お手伝い先の住職は厳しい方で有名だけど、追い詰められては全くないけど、この敷地内から飛び出したいという気持ちが大きく出てしまってる(しっかりしろ!何しに修行にきたんだ!ふざけるな!!と先に戒めておきます。)僕ですので行きたい。
修行寺には仕事の分担が「寮」というので分かれており、その寮から1人ずつが派遣されるとの噂。
なぜ噂かというと
新人にはあんまり詳しいことは届きません。ただひた向きに目の前にある日々を超えるのみです!
寮をザックリいうと、たとえば
【典座寮(てんぞりょう)】
…住職、修行僧達の食事を作る係
【知殿寮(ちでんりょう)】
…法要や祭壇の準備をする係
などなど。いくつかあるのです。
僕は典座寮に配属されてまして!
修行寺からいなくなったら困るくらい仕事が出来たわけでも。お手伝いに向かわせて迷惑かけるくらい出来ないわけでもなかった坊主だったので…てへ!
典座寮枠から僕が任命されました!
さあ!出発だーー!!!
基本的に修行寺の先輩というのは怖いもので、その中では質問とか出来る先輩(もはや質問であったとしても声をかけることすら怖い方もいます。当時ね。)と、物静かな寡黙な同期との3人です。
よーし!選ばれたからにはお手伝い頑張るぞー!!
と、数ヶ月ぶりの敷地の外へ!
同じ県内ですが遠いので電車で移動。
心は「遠い!遠い!うひょー!!」
駅に着いた時、先輩は言いました。
「芳道(ほうどう)さん。」
修行中は下の名前で呼ばれます。
「彼女いたよね?」
「(当時付き合ってた彼女がいまして)はい。」
「電車が来るまで時間あんまりないけど、電話していいよ。」
「え?え!?!いいんですか!?!」
晴天の霹靂!!!!
勿の論で携帯なんてお寺に持ち込めません。
外部との連絡は手紙のみ、それも日々が忙しすぎて月に2回出せたらいい程度。
電話をかける時は自分の師匠(親だったり)にドロップアウトを伝える時のみなので電話なんて!!!!!
ビックリしたのなんの、たまげました。
しかしおろおろしてる時間もありません!
せっかくいただいたチャンス。先輩に大きな声で「ありがとうございます!」と伝え、電車賃プラスα程度持ってきていたお金で公衆電話から連絡。
「…………。」
つながるわけありません。
電話かけますも、電話かける機会があるかもしれないも、伝えてないですし。公衆電話からの電話、怖すぎます。
先輩に伝えます。
「出ませんでした。」
「そっか、残念だね。」
「ありがとうございました!」
感謝しかありません!
どう考えても、お寺から出たからといって私情の電話なんてかけていいわけありません。修行中なのですから。
こんなことバレたら僕はギャンギャンにもちろん怒られますが、先輩もまたそのまた先輩にギャンギャンのギャンに怒られます。
リスクを押して言ってくれてます。
そして数ヶ月ぶりの電話をかけるという作業をしただけで少し興奮したので充分です!
彼女とは
"またいつか会える日を待てばいいのです。"
数日のお手伝いはあっという間に終わりました!忙しかったけど楽しかった!学んだこともたくさんありましたし、怒られたこともあったし、娑婆を感じたとこもあった。
また修行寺に戻ります。
帰りの駅で先輩が
「最後のチャンスだ!電話かけなさい。」
「え!?!(口に出してませんが)そんなバカな!!」
「何度もすみません!ありがとうございます!」
急いで公衆電話からかけます。
「…………。」
「(ダメかな?)」
「……はい。」
でた!
「もしもし僕です。元気にしてますか?」
謎の敬語です。
「元気にしてます。」
謎の敬語です。
「ならよかった。終わったら帰りますから。元気で。」
せっかくかけさせてもらったにも関わらず、最速で終わらせようとしました。もう充分だったし、これ以上浸ってはいけないと思いました。
彼女が最後に
「帰ってきたら林檎ちゃんのライブに行きましょう。」
「行こう!絶対行こう!」
「待ってます。」
「では。」
「では。」
おそらく1分ぐらいでした。
先輩も「もういいの?」と言ったような気がしますが、もういいのです!
約束したら充分です。
もう一度先輩に感謝を伝え、僕たちは修行寺に帰って行きます。
これは後日聞いたことなんですが
その先輩に
「なぜお坊さんになったのですか?」
と聞いたところ(お寺の子ではないと聞いたので)。
「昔バックパッカーをやってた時アメリカにいたんだけど、日本にいる彼女を呼んだの、私に会いに来る途中彼女は交通事故で亡くなったんだ。めちゃくちゃ後悔して、どうすることもできなくて、死と向き合えるのはお坊さんなのかなとアメリカのお寺に行った。そこのお坊さんに日本のお寺でも学んだ方がいいと、縁あってこのお寺に。」
すごい話だった。そんなこともあるんだ、と思った。
これは完全に僕のこじつけで、いいように持っていってるだけだけど。
先輩が電話させてくれたのは
「話せるうちに話しておきなさい。」ということだったのかもしれない。
全然違うかもしれない、美談は作れるから。
そんな先輩は当時
「将来は海の見えるお寺に勤めて、朝のお勤め終わったらサーフィンする生活したい。」と語っていた。
全くカッコいい先輩だ!
そんな先輩は当時
ジャガイモの煮物を、ジャーマンポテトみたいな輪切りにジャガイモを切って怒られてた。
全くファンキーな先輩だ!
それから時は流れて修行が終わり
僕は彼女と椎名林檎さんのライブに行った。
元々彼女の影響で聴いていたのと、修行中のその思い出と、そんなことより椎名林檎さん最高すぎてもうめっちゃ感動しました!
単純な男で。今でも椎名林檎さんを聞くと全ての思い出が蘇ります。
それから時は"戻って"修行に入る前夜
仲のいい友達から電話かかかってくる。
「(修行頑張れよ!かな?)」
「もしもし!お前知っとるか?」
「何?」
「彼女浮気しとるぞ!」
「え!?!?」
僕の邪念うごめく修行ライフが始まる。
よろしければお布施をお待ちしております🙏