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自主防災の役割と今後

今回のトーロール会議全体会議では、自主防災の役割と今後についてパネルトークを行いました。

コーディネーターは愛媛大学社会連携推進機構教授の前田眞さん。
パネラーは八幡浜市自主防災連絡協議会会長の木下恵介さん、白浜地区自主防災会の中島和久さん、松蔭地区自主防災会の八木徹さん。

3人のパネラーから各地区の自主防災の活動や取り組みについてお話しいただいた後、八幡浜市全域や地区ごとの自主防災の今後の課題や進め方について、参加者からの意見を交えて話合いました。

八幡浜市の自主防災会とその役割

八幡浜市の自主防災会は2005(平成17)年に国の方針を受けて設置されました。
17の小学校区ごとに設置され、八幡浜市の自主防災会の設置率は100%です。
これは各地区の公民館と重なっており、多くの自主防災会の代表は地区公民館の館長が兼ねていて、役員は公民館の役員や地区の区長、防災士などで構成されています。

自主防災会の役割は、平常時は情報収集、啓発活動、地域の安全点検、災害時は情報収集、集団避難の実施、炊き出し、避難所の管理・運営です。
地域全体では9月1日ごろに一斉避難訓練を行ない、その後の各地区ごとのミニ防災訓練までの啓発活動を行っています。

自主防災会の設置以降、東日本大震災や西日本豪雨災害を経験し、自主防災に望まれることがますます増えてきています。

地区ごとの自主防災活動と取り組み

【神山地区】木下さん

神山地区では、小学校で子ども向けに防災デイキャンプを実施。
子どもたちが段ボールベッドを作ったり、消防、警察、緊急時の救出活動を行う県の職員、四国電力、地元企業の協力で車両や重機の使用目的などを説明していただき、子どもたちと一緒に勉強しました。

一斉訓練のあとのミニ防災訓練では、昨年はペットの避難訓練、今年は避難所での高齢者支援を学び、さらに停電を想定した夜間避難訓練も実施しました。
防災士や民生委員と会合を開き、防災についても話をしています。

西日本豪雨では100名の避難があったので、避難所では100名の収容をめざしています。
コロナ禍ではできるだけソーシャルディスタンスのとれる状態にするなど、避難所の環境改善が必要になります。
補助金を活用してパーテーションやベッドやマットを購入し、100名の方が避難できるように努力をしています。

訓練はもちろん大事ですが、避難所開設に対応していくことこそが訓練と考え、毎年実際に避難所を開設しています。

市の規約では避難所は市の職員が開設することになっていますが、西日本豪雨のとき地域の方から「避難したとき職員がいなかった。どこに何があるかもわからなかった」という声がありました。

自主防災会は公民館の館長が担当しており、公民館は各地区の災害拠点です。
発災時にはわれわれ防災会が、最初の避難から避難所を退所されるまでを担うので、実際の避難所の開設に合わせて行う活動が訓練において大切であると考えています。

【白浜地区】中島さん

白浜地区は向灘のみかん山の下に広がる地域です。
対象人口は4000人で、市役所も含む人口の密集地から農業地域の高齢者の多い地域で、約2000人が高齢者と認識しています。

11の地区すべてに自治公民館という組織があり、区長の役割は自治公民館の館長がその役割を担い、役員が部落の役員として活動しています。

白浜地区では防災士の取得も比較的早く、15人で発足し7年前に公民館で白浜地区防災士会という組織ができました。

最初は防災士会が何をやっているのかよくわからず、市の危機管理部の指導を仰ぎながら勉強会や研修を経て、みんなで共有できる知識や技術を持ち、自立できる防災士をめざしてきました。

防災士は自分で腕を磨いていなければ地域で災害が起きたときに役に立ちません。現在18人がみんなで知識を共有しながら腕を磨き活動をしています。

市の防災訓練とは別に地区の防災訓練を過去に7回やっています。

・熊本地震の体験者から話を聞いた。実際にどんなことが起きるかを、写真
   を交えながら話していただいた

・避難訓練を実施。最初は防災士と地区の役員だけで、本番では各地区の一
    般の人を混ぜて1つの班7~8人で実施。一般の人が限られた時間で避難す
   るのは難しく、防災士がついていても全員が経験していないと避難訓練は
   非常に難しいということがわかった

・災害の現状に合うような20~30の事象を体験できる訓練を実施。消防車や
    救急車の到着、消防団の活動、食料の供給があったり、避難者が障がい者
    やペット連れ、急病人である場合など、いろいろな事象から時間をずらし
    て混ぜ、防災士と地区の役員が中心になって体育館で行った

・防災フェスタを開催。避難ペットへのチップの挿入、NTTの無料電話のか
    け方、ベッドや簡易トイレの作り方、炊き出しなど、地域の方が実際に体
    験できる場を設けた。あらゆる事態を想定して実際に体験していれば、い
    ざというときに役に立つので、受講者からも好評だった

・新型コロナが起きたため、密着性のある体験型から見学型フェスタに変
    更。体育館の中が密にならないよう地域を分け人の数を少なくし、風通し
    をよくして実施。展示を見て覚えていただけるようなイベントに

・福祉型のイベントを開催。特養の施設の展示、いざというときに施設はど
    んなことするか、福祉サイドではどんなことを考えているのかを展示

また、西日本豪雨では初めて大型災害を体験。公民館でも炊き出しや差し入れをしました。

野村地区では7~8人の防災士がなるべくバラバラにならないように、一か所に集中して活動しました。
チームだと動きやすいし、他のグループと一緒になっても担当がしやすいからです。

吉田地区ではスロープ状の土地にみかん山があるため、地滑りが起きると危険であることや全自動洗濯機は使えないため洗濯用の洗い水がほしいという要望があったことから、危ないところへは入って行かない、電気をあてにしたものは使えないことなどを学びました。

防災士は現在18人。看護師、栄養士など様々な職種の人がいます。
すべて地域のためになりたいと使命感を持った人ばかりなので、いざとなればすぐに集まり活動しています。

【松蔭地区】八木さん

松蔭地区の対象人口は3200人で、7地区すべてに自主防災会を設置しています。
自主防災は「自分たちの町は自分たちで守る」というのが原点。

活動としては小学校での避難訓練で、段ボールを使ったパーテーションの作り方や小学校の裏山への避難を行なっています。

さらに民生委員と協力して避難行動要支援者名簿の作成・更新を半年に1回、そのほか若手人材の発掘や備蓄品の点検・補充、消防署からの最新の防災情報で研修会、気象庁からの津波の情報の勉強会などもやっています。
また白浜地区との交流で学びを共有しています。

西日本豪雨のときには野村へ支援物資を運びました。道路情報に詳しかったため、安全な道を選んで物資を運ぶことができました。

各地区の活動報告を受けての感想

・災害時には電化製品が使えない。電化製品に頼らず、電気を使わずに楽に
    生活できるかを考えていけば、災害時でも役に立つのでは

・災害時のことを考えて普段から家庭で使えるものを備蓄する。
    カセットコンロやLEDの電池を枕元に準備。火がなくても食べられるも
    の、すぐに調理できるものを普段から準備し、たまには自分の家ですぐに
    食べられるものを食べる経験と保存するクセをつけておけば、公の所に迷
    惑をかけなくて済む

・枕元に必ず懐中電灯を。ほとんどの災害は夜に起こる。家庭内でできれば
    1週間分の食料を備蓄するのが望ましい

・高校生は、自分の学校にどれだけの備蓄があるかを知っているか?
 実際には学校に避難してくる人の分まで備蓄はされていない。
    そういった現状を避難訓練のときに話合うことも大事

自主防災の今後について

「事前→発災→避難→避難所運営(復旧活動)→仮設住宅→生活再建」という流れのなかで、自主防災会が関わるのは、発災前の事前活動から避難までぐらいが多い。

避難所運営あたりまで自主防災会が賛同していく役割が見えてくれば、例えば仮設住宅に入ったときは社会福祉協議会の人たちに現場を受け渡していけるし、復旧作業が始まったときにはボランティアセンターが活動していくようになる。

◆西日本豪雨の体験から

○野村のボランティアセンターは立ち上げが非常に早かった。災害が起こっ
   て1週間程度で組織ができていた。
   組織が出来上がっていない状態で救助隊が押し寄せてきても、受け入れが
   難しく、さばくこともできない。
   地区長や福祉関係の諸団体と連絡をとり、ボランティアセンターを早めに     立ち上げたのでニーズの把握と組織がどう動くか、司令塔を含めて野村は
   早かった

○発災時にいろいろな情報をつなぎあわせる、指示が出せる災害コーディネ
   ーターのような人が組織の中に必要だと思った

○西日本豪雨のときには八幡浜ではボランティアセンターが設立できなかっ
   た。
   八幡浜市社協の中でボランティアセンターは災害に特化ではなくて、ボラ
   ンティアセンター機能の中でできる限りの支援をしようということで動い
   ていた。
   大きな災害のあった市町については、かなり長期間何千、何万人のボラン     ティアがいたが、八幡浜の方では災害ボランティアではなく、ボランティ
   アセンターで10日間稼働をしていた

○災害後の生活のお困りごとを聴いていると、「防災士さんは何をしてくれ
   るの?」という声も多く、防災士という存在が把握されてきたという印象
   はあった

◆自主防災会とボランティアセンター

○ボランティアセンターも防災会も、もう少しお互いができることを確認し
   あっていければいいのでは。バラバラでつながるのではなく、組織として
   つながることができたらいい。そのためにはニーズ把握、課題解決に向か
   う人材やスキルを持っている人たちとつながっていくのがよい

○自主防災会も得意分野が打ち出されていくとやりやすくなる。
  「自分たちならこんなことができますよ」ということをコミュニティーの
   中でできる人たちが集まって積み上げていくこと。防災士たち自身も自分
   たちでできることを積み上げていくことができれば、周りに対する発信も
   できてくる。
   これを実現するための環境整備を提案し、周りの人の協力を得ていくこと
   ができればよりいい

○ボランティアセンターにとっては個別のニーズはなかなか把握しにくい。
   地区に何名かボランティアを送り込んで、その先で自主防災会なりコーデ
   ィネーターのような人が采配をふるってボランティアを使っていくような
   体制がとれれば。
   ボランティアが一気に何名もたくさん来て、送り込むだけでも時間がかか     る場合もあるし、かといってニーズが把握できているわけではないので

○災害支援していくときに、地域支え合いセンターの担当者だけでは被災者
   のニーズがわからない。自主防災会、自治会、民生委員からの情報を得て
   支援していくことができれば一番いい。普段からそういう関係が作れれ
   ば

◆コーディネーターと防災士

○地元の実情を一番知っているのは地区の公民館長。朝の挨拶や敬老会の挨
   拶に行ったりしているため、子どもからお年寄りまで顔の見えるのが公民
   館長。地区の公民館長がコーディネーターとして入っていくのが一番いい
   のでは

○公民館長が司令塔というのはわかるが、防災士を必要としている地域の人
   が、防災士が全部してくると勘違いしている人が多すぎる。防災士は資格
   は持っているが、防災の知識がみなさんより少し詳しいだけぐらいに思っ
   ていないと、地域のみなさんからあてにされすぎると重すぎる。自助も共
   助も必要

まとめ

自主防災会が共通してやっていることは「学び」。
自分たちの力で何ができるか、自分たちの持っているスキルを使って活動できることを自覚すること。
「自分たちの町は自分たちで守る」ために必要なことを、それぞれの地区に合わせて活動されています。

防災士への期待も大きいけれど、普段のコミュニケーションの中での共助、防災士だけでなくいろんな団体との関係を築いていかなければなりません。
いろんな団体が集まって顔の見える状態でコミュニケーションをとっていく共助の体制づくりが大切です。

トロール会議は、行政と社協、NPOなどいろいろなボランティア団体と企業の四者がつながっていくようなコミュニケーションの取り、いざというときにみんなが力を発揮できるようにしておくことが大事。さらに高校生のみなさんが連携の輪に入っていけば安心できます。

防災のことを担う防災地理部の高校生たちが「復興デザイン会議」でもトロール会議でも、「情報を入れてほしい」「何かできることがあればやりたい」と発言してくれています。

我々は高校生を含めて若い人たちは「守るべき存在」とつい思いがちですが、僕たちを「守ってくれる存在」と考えていかなければいけないと思っています。

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