トロール会議ってなに?  八幡浜市版情報共有会議「トロール会議」のはじまり、これまで、これから。

きっかけは平成30年7月豪雨

2018(平成30)年7月の西日本豪雨災害では、愛媛県も南予地域を中心に被害を受けました。
八幡浜市は比較的被害は少なかったのですが、ボランティアセンターが設置され、復旧・復興のためのボランティアがたくさん来てくれました。

そのことを教訓に八幡浜市社会福祉協議会(社協)と道の駅・みなとオアシス八幡浜みなっとのみなと交流館が、「何十年に1回のことだから」で終わらせないように、この体験の振り返りの会をもったのが始まりです。

振り返りの会では、被災された方に聞き取りをし、体験したことをタイムラインシートに書き込んでもらいました。
「何時に川が氾濫した」
「その時にどんな行動を起こした」
「こういうことをやったけれど、うまくいかなかった」
という行動の失敗や成功をタイムラインに落とし込んでいったのです。

その結果、「この行動はよかった」「これはよくなかった」ということを、参加者で共有することができました。

このように被災者目線で振り返えることができた一方で、「支援に行けなかった」など支援者側の情報や枠組みについてはまったく伝わってきませんでした。

行政に頼るだけではなく民間の支援者ベースとして、どんな枠組みで被災支援をし、復旧・復興にあたればいいのかを考えていく必要があります。

そのためには「どんな会にすればよいか」「どんな人に参加してもらうのか」「会の役割は何か」ということを月1回の会で詰めていきました。

四者連携の「トロール会議」発足

約2年に渡る振り返りの会での活動をベースに2021(令和3)年春、「八幡浜市版情報共有会議(トロール会議)」を立ち上げました。

「トロール会議」という名称は、八幡浜の漁業に代表される「トロール船」が集団で連携しながら漁をすることにちなみ、網目のようなネットワークづくり、強固な連携プレイができることを願って付けられました。

行政、社協、NPOの三者連携が一般的ですが、トロール会議ではそれに企業を加えた四者連携という枠組みを大事にしています。

平成30年7月豪雨のとき、八幡浜市の被災地に建設業者の方がショベルカーなどの重機を持ち込み、道路かきなどの現場仕事をやってくれました。

その時はたまたま社協の方と業者のつながりがあってのことでしたが、このような企業とのつながりはあった方がいいということで、企業にも加わってもらうことにしたのです。

企業にはBCP(企業継続計画=企業が災害時に事業資産を最小限にとどめつつ、事業の継続、早期復旧を可能とするため、平常時に行う活動や緊急時の事業継続の方法、手段を取り決めておく計画)があります。

まずは自社を守り業務を続けるため、さらには地域の防災をどうするのか、ボランティアを送り込むのか、物資はどうするのかが考えられています。だからこそ企業に加わってもらう意味があると考えます。

通常このような共有者会議は発災してから立ち上がりますが、平時からのつながりや準備、訓練があってこそということで、トロール会議の平時版を2カ月に1回行っています。

7月のキックオフミーテイングでは、
「平成30年7月豪雨のときに、あなたはどんなことをして、どんな気づきがありましたか?」ということを、四者だけではなく自主防災組織や公民館などさまざまな主体の方に発言をしてもらい、気づいたことを共有しました。

 例えば、災害時、企業がどのように意思決定をしていたのかを聞くことで、「企業も物資支援を安易にできないのだな」ということが理解できます。

「平時から顔の見える関係ではなかったね」「声をかけられたらよかったのにね」という共通の認識ができ、平時からこのような会議を立ち上げる意味を体感してもらうことができました。

トロール会議は知見と課題の共有の場

トロール会議には、支援する人誰もが参加できる全体会議と行政・社協・NPO・企業の四者を中心に構成されるコア会議があります。

それぞれが2カ月に1回会合を開き、コア会議で次月の全体会議に向けての議題を決めています。
トロール会議の役割は、各主体をつなぎ、情報を収集・整理し、マッチングすること。

各主体が平時にどんなことをしていて、被災したらどんなことをやろうとしているのかを洗い出してみると、同じことをやっていたり無駄があったりして、発災したときに業務が集中してしまうこともわかりました。

情報収集・発信をどのようにするのか、避難する上での弱者(高齢者や障がい者など)へのケアはどうするのかを論点にして話しあったり、各参加者の近況報告(どんな活動や勉強会をしたか)を共有する時間も大切にしています。
トロール会議は参加型。できるだけみなさんに発言してもらいたいです。

トロール会議は、「避難訓練をやってみたけど、こんなことがうまくいかなかった」という報告に対して、「こんなことをやってみたらうまくいったよ」と解決策をバックしていく場、知見と課題の共有の場です。

例えば、ある企業(スーパー)のBCP(企業継続計画)について学ぶ機会がありました。
BCPの根本は発災時の自社の活動を計画することですが、ある程度の規模の企業は、地域社会に対してどう貢献するか、つながるか、平時から顔の見える関係を地域とどう築くかということも考えています。

それに対して参加者が「平時からこんなイベントをしたらどう?」「プライベートブランドを一緒に作るミーティングをやりませんか?」というアイディアを出し合いました。

「企業はこんな活動をしてるんだ」という理解があって、それに対して「こういう風にすれば?」とアイディアを出す。理解とアイディアにつながるのです。

トロール会議の今後の方向性と役割

トロール会議という一つのプラットフォームが、情報や人をつなぐハブ(接着点)という機能と仕組みを持てるように活動を続けながら、支援者(市民の中でも支援に回ろうとしている人)の啓発、育成をします。

さらに、行政にはトロール会議の存在価値、必要性をきちんと認めてもらうことを、企業には「自社が参加する意義」を見出してメンバーに加わってもらうことを目指します。
そのためには、自分たちがやっていることを発信していかなければなりません。

豪雨災害がきっかけではありましたが、地震などあらゆる災害に対しても考えていきます。
例えば地震で津波が起きたら「八幡浜みなっと」は皆さんが集まる場所としては使えない、と想定はしているものの、ではどこを代替場所として使えるか?ということまでは出ていません。

今ようやく、ボランティアの要請フォームや物資の支援フォーム、Webツールを活用した情報の収集、知見管理にトライしているところです。

今まで個々で集めていた情報を、トロール会議という一つの窓口を用意することで交通整理し、Webでの情報を収集、分析していきます。
そして、「この案件に対しては社協さん」「これについてはみなと交流館、企業」という風に橋渡しする、バトンを渡していくことを目指しています。

ITツールやSNSを活用して、被災した情報の集め方、発信の仕方を実践的に勉強する機会も設けました。

Twitterを使って収集した例と発信した例を見てみたのですが、多くの気づきがありました。まず、ツール自体を使ったことがない。「こういう便利なものがあるんだ」ということに気づいたのと同時に、「これを全部収集していたらたぶん回らないだろう」「それを整理する人が絶対必要」と気づき、「ルールを決めて発信しないと、惑わせてしまう」ということもわかりました。

情報の収集、整理、発信は大変ですが、それをやらなければ受け取った情報が分断されてしまい、ダブることもあれば漏れることもある。それを適切に発信していくのもトロール会議の大切な役割の一つです。

支援者側に立った情報共有会議

情報共有、整理、発信のハブになろうという機能の中でも、トロール会議が大事にしているのは、あくまで「支援者側に立っている」ということ。
「支援者側の情報共有」であって、被災者側の情報共有ではありません。

例えば、愛媛県で災害があったときに鹿児島県の人が「支援に行きたい」と思ったら、トロール会議が作っているポータルサイトにアクセスしてもらい、その依頼をどうさばくか。

そのために被災者の情報も集め、どうやってマッチングするかを考えています。
トロール会議はあくまで支援者側にたった情報共有会議です。 トロール会議の役割は、支援者にスムーズに動いてもらい、現場の課題の解決を橋渡しすること。

緊急的支援、緊急救出の部分は公(行政、消防署など)が担い、トロール会議は多様なニーズが発生してくるであろう発災後2日目、3日目から1カ月、3カ月、半年に渡って関わる必要があります。

発災後、多様なニーズが生まれてくると、公(行政など)ではカバーできず、漏れが出てくるのでそこを調整していくことが必要になるでしょう。

例えば平成30年7月豪雨のとき、宇和島のみかん畑が崩れる被害がありましたが、産業園地なので普通のボランティアは支援に行けない。では、誰がやるのか? 

発災して2~3日はみかん山救出より人の救出が優先されます。
けれど農家側からすれば、山が崩れて木の根がむき出しになった状態で3日もそのままになっているのはよくない。それなら、どこに連絡するのか?

そんなときにトロール会議に要請をすれば、市内外の重機を持っている所とつないで来てもらうことができるかもしれません。

発災したとき、市なら災害対策本部、社協なら(災害)ボランティアセンターが設置されます。しかし横のつながりがないから、情報がバラバラ。市には入ってくる情報が、こちらには入ってこない。

災害対策本部は現状の被災状況を把握し対処していきますが、救命急遽のときに「ボランティアさんお願いします」などとはならない。
市としての公式な情報は、現状ではこちらから受け取りにいかない限り入ってこない。

トロール会議では、そのような組織の壁を超えるために、業務効率化も含めてITツールを使っての情報共有を提案していきます。

今回は、トロール会議発足のきっかけとこれまでの活動、これからの方向性についてまとめました。
今後も活動、発信を続けるなかで、トロール会議の意味・役割をみなさんと共有していきたいと思っています。



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