【たいてい脱水】高ナトリウム血症の原因【尿崩症の鑑別方法】
最近,ナトリウムの調節機構に触れた流れで,今回は高ナトリウム血症についての解説です.
高ナトリウム血症の基本
まず,水とナトリウムの関係を知っていた方がいいので,あまり良く知らないという方は,こちらの記事を先にご覧になってください.
高ナトリウム血症は,基本的に脱水だと思ってください.
高ナトリウム血症は脱水
高ナトリウム血症の成立:補正機構の破綻➀
例えば,あなたが健常人だとして,高ナトリウム血症になるのは難しいです.
というか,正確には,高ナトリウム血症を維持することが困難です.
なぜなら,強烈にのどが渇いて,水が飲みたくなるはずだからです.
つまり
高ナトリウム血症になる
→のどが渇いて水を飲む
→ナトリウムが相対的に薄まって,高ナトリウム血症が是正される
ということです.
健常人は,遭難でもしていない限り,高ナトリウム血症が維持されることはないでしょう.
口渇こそ,高ナトリウム血症の強力な調節機構のひとつなんです.
しかし,この口渇中枢は,高齢者になると反応が鈍くなります.
その他,思うままに水が摂取できない意識障害障害の方も口渇による高ナトリウム血症の補正が働きづらいので,高ナトリウム血症のリスクが高いといえます.
「意識障害」というと大げさに聞こえるかもしれませんが,最も多いのは感染症および発熱です.
意識がもうろうとしますよね.
「高齢者」+「感染,発熱」なんてのは,代表的な高ナトリウム血症のパターンです.
・高ナトリウム血症を強力に是正するのは口渇
・健常人は,口渇に守られて,滅多に高ナトリウム血症にならない
・高齢者と意識障害症例は,口渇による補正が生じにくいので高ナトリウム血症になりやすい
高ナトリウム血症の成立:補正機構の破綻➁
高ナトリウム血症にはもう一つ調節機構があります.
それが抗利尿ホルモン(ADH)系です
口渇とADH系は浸透圧調節系と呼ばれ,高ナトリウム血症だけでなく,低ナトリウム血症の是正にも重要です.
≫浸透圧調節系の説明はこの記事のなかでしています.
具体的に,高ナトリウム血症のときはADHの分泌が亢進し,腎臓での水の再吸収が促進されます.
水を飲むのと一緒ですね.水を捨てないように頑張るんです.
基本的には,今お話しした口渇とADH系を合わせた浸透圧調節系が,どちらも障害されなければ,高ナトリウム血症は成立しません(維持できない).
■高ナトリウム血症の原因となる薬剤:いずれもADH作用を抑制
リチウム,デメクロサイクリン,トルバプタン,フェニトイン,エタノール
高ナトリウム血症の引き金:脱水
前項までで,高ナトリウム血症の維持のためには浸透圧調節系(口渇とADH系)が障害されていることが条件であるお話をしました.
高ナトリウム血症の引き金は脱水です.
脱水の原因は様々ですが,下痢,嘔吐,発熱,発汗,利尿剤過多などがあります.
そこに,口渇中枢とADH系のいずれか,もしくは双方のトラブルが上乗せされることで,高ナトリウム血症は成立します.
また,上述したような脱水状態では,医療機関を受診することも多いと思いますが,医療機関での不適切な補液でも,高ナトリウム血症にはなりえます.(例:フロセミド過多の脱水に生理食塩水補液,など)
実際,入院中に発症した高ナトリウム血症の原因はほとんど医原性であると言われています.
余談:脱水のない高ナトリウム血症(稀)
・高張液の負荷:生食,メイロン®など
・ミネラルコルチコイド過剰
高ナトリウム血症の引き金:尿崩症
高ナトリウム血症の原因の代表に尿崩症があります.
その名の通り,尿がアホほど出てしまう疾患ですが,出ていく尿は水を多く含む薄い尿です.
高ナトリウム血症の引き金にもなり,ADH系の異常であれば,高ナトリウム血症の維持にも関わってきます.
尿崩症は大きく分けて,中枢性と腎性の2つがあります.
➀中枢性尿崩症
下垂体で作られるはずのADHが欠乏するために生じる尿崩症です.
ADH分泌が低下する理由として,脳腫瘍,脳の損傷や脳の手術,リンパ球性下垂体炎,肉芽腫(サルコイドーシスまたは結核),血管病変(動脈瘤,血栓症),感染症(脳炎,髄膜炎)などがあります.
水制限試験で尿が最大限に濃縮されないことによって診断がつきます.
➁腎性尿崩症
ADHの対する尿細管の反応障害です.
高カルシウム血症,慢性の低カリウム血症,アミロイドーシス,シェーグレン症候群などでおこります.
余談:サイアザイドが腎性尿崩症の補助治療薬?
・通常状態だと,腎臓の水排泄は,集合管機能への依存が強いです.
ゆえに,集合管のADH感受性の異常(腎性尿崩症)では,深刻な水の喪失となります.
・サイアザイドが遠位尿細管でNa+の再吸収を阻害すると,近位尿細管で水の再吸収が亢進します.すると,集合管に達する水の量自体が減り,腎性尿崩症の症状が緩和される,というロジックです.
・あくまで治療補助レベルの効果です.
高ナトリウム血症の鑑別
尿中のナトリウム濃度とカリウム濃度の和を,血清のナトリウム濃度と比較することで,高ナトリウム血症の引き金を調べることができます.
要は,腎臓がどれほど高ナトリウム血症に抗おうとしているのかのチェックです.
特に,尿崩症の鑑別には重要となります.
■尿[Na+K]と血清[Na]を比較
①尿[Na+K]>血清[Na]
生体は高ナトリウム血症に対して正常に反応しています.
尿崩症ではないです.
②尿[Na+K]<血清[Na]
ナトリウムに比し,水が多く排泄されている状態です.
i)U-Osm<300mOsm:薄い尿
⇒尿崩症疑い:尿崩症の診断を進める
ii)U-Osm>300mOsm
⇒利尿過多疑い:浸透圧利尿, 利尿薬の使用歴を確認
今回は以上です.
お疲れ様でした.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?