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千人計画を入り口に、研究者の海外流出について考えてみた

最近、研究界隈では千人計画の話題がちらほら見られますね。本当はこの話題で持ちきりと言いたかったのですが、私は社会的な話にはいつも一歩出遅れるので、情勢が落ち着き始めた今頃になって話題にしている次第です。

さて今回は自分には珍しく、社会的話題となっている千人計画について考えを綴ってみようと思います。

*私の自己紹介はこちらの記事で。

今回のニュース自体は議論に値しない(自分にとって)

まず千人計画は2008年から中国が打ち立てていたものです(恥ずかしながら今回の件まで知りませんでした)。それが今更明るみに出たのは、そこに日本人の不適切な関与があったのではないか?との疑いがかかったためのようです。

以下の記事には、読売新聞の取材によって日本人研究者44人の千人計画への関与が判明した、とありますね。

でも関与自体は別に問題ではありません。中国の千人計画では、海外に流れていた中国人研究者の呼び戻しに加えて、中国人以外の人材の招致も計画に含まれていました。そこに日本人が入ること自体は特に問題ないのです。

ただ今回疑惑がかけられたのは、日本から得た研究費を不正に利用しながら千人計画として中国の研究に参加したのではないか?日本の研究費で得た技術を中国に流しているのではないか?などのポイントのようです。理解が誤っていたら申し訳ありません。ご指摘ください。

該当研究者のこれらに関する実態はわかりませんが、少なくとも疑惑の域は脱していないでしょう。まず日本から得ていた研究費(科研費)の不正利用だった場合はその規約違反が問題になるでしょうし、技術の横流し(特に軍事への)はごく間接的な根拠しか書かれていません。44人中8人が国防7校に属していたのがその根拠(少なくともその一つ)のようです。

やはり実態はわからないのですが、私のごくごく個人的な感想を述べると、「くだらない、どうでもいい」となります。辛辣で申し訳ありません。

私はまだ学生の身ですが、正直、研究者にとって研究の場所は重要ではないことが多いのではないでしょうか?「家族と離れてしまう」など空間的な問題は別として、待遇が良くてやりたい研究ができれば、それが軍事に関係する場所だろうと自然とそこで職に就くでしょう。

私は記者やメディアを信用していなくて、その情報には多分に脚色がありうると考えているので、今回の件もただメディアが「号外だー!」と騒ぐためにそれっぽく書かれた記事の可能性が捨てきれないと思っています。

要は、海外への研究者の流出と軍事などを(勝手に)紐づけただけではないか?という印象があります。

繰り返しますが真実はわかりません。実は軍事的な意図があったり研究費を中国に持ち込む意図があったのかもしれません。ただそう断言するにはあまりに証拠がなさすぎますし、個人的にもその可能性はどちらかというと低いと考えています。

というわけで、今回の件自体には大した感想はありません。また研究者の余計な書類作業が増えるんだろうな、あたりが最も現実的な感想です。

ちなみに千人計画でバッシングを受けた研究者へのインタビュー記事がありました。この記事の中では中国で軍事に関わるには中国籍が必要だなど、上記の疑惑を否定する声が当事者からも上がっています。各メディアの情報を同等に扱うのであれば、少なくとも今回の疑惑を正しいとはできない訳です。

さて千人計画についてはこの辺でお開きです。また情報の更新があればチェックするか程度の興味しかありません。

しかしながら、ここから派生して面白い話に繋がりました。それは、個々の研究者が自由に研究環境を選べつつ、日本の利益を保つにはどうしたらいいんだろう?皆がハッピーになるにはどうしたらいいのだろう?です。これについてパッと思いついた考えを残しておきます。

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日本も、研究者も、両方ハッピーになるには。

前置きが長くなりましたが、この記事の本題はこちらです。

初めに「研究者個人の雇用機会を制限せず、国の利益を損ねないためにはどうすべきか」という問いを入り口にしましょう。

まず前提として、「各国は研究人材あるいはその知識・技術の流出を避けたい」と想定します。

ちなみにこの"流出"には2つの意味があって、1つは自国が失うこと、もう1つは他国がそれを得ることです。

自国がリソースを失うだけでも痛手なのに、競合する他国がそれを得てしまう追い打ちを食らうのです。ちょうど将棋で取られた駒が相手のものになるのと同じですね。

この二重の痛手を避けるために、各国は研究人材の確保に尽くしていると想定することに大きな問題はないでしょう。

しかし、この"国の意思"にしばしば相反してしまうのが、"研究者個人の意思"です。先の話にもあるように、待遇がよければ外国だろうとどこだろうとそこで職を得ようとするのは自然な意思でしょう。特に昨今は日本の研究環境の欠点が数多く指摘されています。削減される研究費や、職の少なさなどがその例です。

日本の研究環境については、それ自体で何記事もかけてしまう話なのでひとまず置いておきましょう。大切なのは、研究者個人の意思が必ずしも国の意思に沿わないという点です。

ただこれは社会人の方には馴染み深い話でしょう。国を企業に、研究者を会社員に例えれば、全く同じ話が見られます。

企業は人材を確保したいけれど、優秀な人材は他の競合企業により好待遇でハントされる。特に最近は日本でも転職が当たり前の時代で、会社員一人一人が身の置き場を選ぶようになって来ていますよね。

今回の国と研究者の話も全くこれと同じです。

この問題の最もシンプルな解決策は、自国の待遇改善です。予算を拡張して研究者の職を増やす。

しかしそれが難しいのが現実。

ただでさえ日本経済は赤字です。その中ですぐにお金になりにくい(未来の国力への投資である)研究に対する予算を増やしにくいのはよくわかります。*余談ですが、研究に予算が割かれてもすぐにお金になりやすい工学や医療の分野が多い印象ですね。うーん、この話はまた今度。

一番単純な策はどうも難しそうですね。

日本人研究者の海外流出は本当に問題か?

ここで解決策を考えるのを一時中断しましょう。

その前にここで考えてみたいのは、日本人研究者が他国へ流れがちになったとして、本当にそれで日本の衰退が加速するでしょうか?

これは予測の話になりますから、当然答えはわかりません。想像、推測の域を出ないのです。それでもちょっと考えてみましょう。

2020年の総務省の統計調査によると、日本人の研究者はおよそ40万人弱いるそうです(大学・研究機関の研究者の数。研究補助者・技能者は除く)。またそのうち新規採用者もしくは他機関からの転入者の数は合わせておよそ3万2千人だそうです。つまりおよそ8%が各研究機関への流入分と考えられます。

ではどれだけの研究者が海外へ流れているのでしょうか?この流出度合いの数を知ることは難しいです。なぜなら海外の大学・研究機関に籍を置いている場合は日本政府の調査対象にならないためです。

しかし文科省の調査によれば、日本の研究機関に籍を持ちながら1ヶ月以上海外に派遣されている研究者の数は2018年時点で4千人程度だそうです。

そこで例えば同じ数つまり4千人の研究者が、完全に海外の研究機関にのみ籍を置いて研究していると仮定しましょう。そうすると、籍の置き場によらず海外で研究に従事している人の数は合計で8千人程度と見積もれます。

先ほど日本の研究者のおよそ8%が新規流入分だと推定されました。そこで、海外への新規流入=日本からの流出分だと捉えると、8千人x8%で640人が毎年海外に流れていると大雑把に見積もることができます。

今現在、日本で新規に研究者として採用される数は毎年8千人ほどいます(上記、総務省の調査より)。

日本で職を得る日本人研究者が8000人、海外で職を得る日本人研究者が640人。今後徐々に海外の方にこの数が流れていって、例えば新規採用が日本で7000人、海外で1640人になったとして、果たしてそれが大きな問題になるでしょうか?

この答えはありません。

おそらく日本国内の研究者が減って国内での競争力が低下し日本の科学技術力が衰えると懸念する声は出てくるでしょう。

しかしそもそも研究者はグローバルに競争しているものです。日本の研究者の数が多少減ったところで、研究者自体の研究遂行に大きく影響しないと考えるひともいるでしょう。私もどちらかというと後者を想像しています。

このあたりは政治に詳しい方、国家レベルでの発展の軌跡に詳しい方にご意見を伺ってみたいものです。

終わりに

本当はもう一度「どうしたら国も研究者もハッピーになれるか?」の解決策に話を戻したかったのですが、ひとまず今回はこのくらいで締めようと思います。

締めくくる前に一つだけ。

自己紹介の記事にも書きましたが、現在いわゆる基礎研究に使うお金は多くが国の税金からきていますが、そもそも国に頼りきりになっているから「日本の研究の環境は・・・」という話になると思っています。

しかし応用に繋がりにくい基礎研究の場合、研究結果を物・サービスに変えてお金を稼ぐことがなかなか難しいのも現実です。

この場合には企業と研究機関がタッグを組む"産学連携"も、これまでのやり方では研究費の国家依存問題を解決できないでしょう。

幾らかでも、分野によらない基礎研究のマネタイズ方法があれば、研究者が待遇によって場所を選ぶ必要性も減るのではないでしょうか?そうなれば治安の良い日本は日本人はもちろん世界中の研究者から働く場所として選ばれるかもしれません。

波及効果はともかく、そうした基礎研究のマネタイズを机上の空論・絵に描いた餅で終わらせたくありません。似た考えを持っている方などがいたら嬉しいですね。ぜひtwitter等でご一報ください、一緒に行動しましょう。

では今回はこの辺で。ありがとうございました。

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